侍
1965年/日本
岡本喜八と橋本忍のコラボレーション
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shinakamさん
男性
総合
80点
ストーリー
80点
キャスト
80点
演出
85点
ビジュアル
85点
音楽
75点
江戸末期「桜田門外の変」をもとに父と子の絆・情愛を描いた郡司次郎の時代劇小説を橋本忍が大胆に脚色、岡本喜八が初の本格的時代劇に挑んだ。歴史的な事件を当事者の水戸浪士・羽山市五郎(江原達怡)が語りで進行させる展開はユニーク。2人のコラボレーションはのちの「日本のいちばん長い日」につながる意味でも興味深い作品。
<人を斬るのが侍ならば、恋の未練はなぜ斬れぬ>と歌謡曲でも歌われ、戦前の大河内伝次郎・坂東妻三郎、戦後は阪妻の遺児・田村高廣や東千代之介など何度も映画化されている題材である。中学時代、東千代之介作品を映画館で観た記憶があり、純粋な愛を身分の違いで壊されたニヒルな二枚目の主人公が井伊大老のご落胤と知り雪の中を駆けつける新納鶴千代の運命を可哀そうだと思ったのを覚えている。
今回は三船敏郎で年齢的にも無理があり、どうしても「椿三十郎」を連想せざるを得ない。橋本脚本は充分承知で豪放磊落なイメージに書き換えられていて、岡本監督もシリアスな演出で切れの良いカット割り、迫力ある映像で期待に応えている。名師久世竜による殺陣シーンも見逃せない。
豪華キャストも見どころのひとつ。井伊直弼に松本幸四郎、長野主膳に市川高麗蔵、松平佐兵督に市川中車の歌舞伎役者を配しさらに東野栄治郎、杉村春子の新劇俳優や志村喬を加え重厚な脇役陣。どうしてもテンポが重くなるのは止むを得ない。
相変わらずの怪演・伊藤雄之助、新玉三千代の横顔の美しさ、八千草薫の清楚な美しさ、小林桂樹の律義さも見どころのひとつ。
黒澤作品と比較されたせいか当時の評価は低く話題にならなかったが、時代劇の名作のひとつだと思う。
血と砂
1965年/日本
娯楽活劇と反戦を融合させた戦争映画
総合
80点
ストーリー
75点
キャスト
85点
演出
80点
ビジュアル
80点
音楽
80点
「独立愚連隊」など縦横無尽な戦争活劇で知られる岡本喜八監督が、三船プロのバックアップを得て反戦映画を融合させた。主演の三船敏郎はこの年「赤ひげ」「姿三四郎」のほか2本に出演している。そのバイタリティには感嘆するほかない。
ときは昭和20年の北支戦線。いきなり敵の音楽「聖者の行進」が流れ、デキシーランドジャズと日本軍というミスマッチに面食らう。が、そのテンポの良さに見入ってしまう。
これは音楽学校の少年軍楽隊13人の少年たちで戦線派遣を反対した小杉軍曹(三船敏郎)が佐久間大尉(仲代達矢)傘下の独歩大隊へゆく途中であった。
古参兵には炊事係の犬山一等兵(佐藤允)葬儀屋の持田一等兵(伊藤雄之助)厭戦のため三年営倉入りの通信兵・志賀一等兵(天本英世)など個性豊か。紅一点の慰安婦お春(団令子)も欠かせない。それぞれが人間性を見せながら、戦場では正義も悪もなく殺し合いしかない虚しさをコミカルに描きながら見せてゆく。
黒人たちの葬送曲「聖者の行進」が悲しみを増して聴こえた。