仇討(1964)
1964年/日本
武家社会の矛盾をシニカルに描く
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shinakamさん
男性
総合
85点
ストーリー
80点
キャスト
85点
演出
85点
ビジュアル
80点
音楽
80点
「武士道残酷物語」に続いて今井正監督、中村錦之助主演による武家社会の矛盾を鋭く、シニカルに描いた傑作。橋本忍の脚本が仇討をひとつのエンターテインメントにしながらそれに関わる運命に翻弄される人々の葛藤を鮮やかに描いて見せてくれた。些細ないさかいから果たし合いとなり上役・奥野孫大夫(神山繁)を殺してしまった下級武士・江崎新八(中村錦之助)。両家の家督を守るため、乱心ゆえの死闘だということになり、新八は人里離れた感応寺に預けられる。このあたりは組織を守るためことなかれ主義の官公庁や大企業に置き換えてみるような気分に。
仇討の場をまるで見世物のようなワクワク感で準備させる国家老や目付たち。それを黙々と故事に習い作業する部下たち。不本意ながら従う新八の兄(田村高広)や親友(小沢昭一)。許嫁りつの父は足軽の頭として現場を取り仕切るという因果まである。橋本忍のシナリオは、それぞれのシガラミがありながら結局お国のため家のためという拠り所を失いたくないエゴを浮き彫りにさせてくれる。事実上の処刑場が庶民にとっては最大の見世物だという皮肉。
新八は無役軽輩ながら己の正義を信望する熱血漢。若気の至りで果たし合いをしたが私闘をしたつもりはなく、奥野の家督を継いだ弟・主馬(丹波哲郎)が乱心者を殺すという名目で寺に来たのも我が身を守るための、云わば売られたケンカを買ったにすぎない。
最も正常なのは寺の住職光悦(進藤栄太郎)。もっぱら逃げろと勧めるが、新八は武士としてお家のための死を選ぶ。切腹も思い留まり静かに討たれようと思った新八を迎えたものは、想像とはまるっきり違った舞台設定。
錦之助の絶望と怒りそして恐怖に満ちた目の表情は圧巻で、まるで本当の死闘を繰り広げているようなシークエンス。落ち目と言われた東映時代劇を両肩に背負った悲壮な姿とも重なって見えた。
このシリアスなドラマを支えたのは豪華で演技上手な脇役陣。とくに光ったのは進藤栄太郎・三島雅夫・加藤嘉などのベテラン俳優達。それぞれのキャラクターが滲み出ていてこのドラマを多層構造の魅力で満たせてくれた。絶えず江崎家と弟を気遣う兄を演じた田村高広に誠実な人間像を見て、もう一人の主役でもあった。
関の弥太ッぺ
1963年/日本
男を泣かせる任侠ものの傑作
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shinakamさん
男性
総合
90点
ストーリー
90点
キャスト
85点
演出
90点
ビジュアル
90点
音楽
85点
長谷川伸の原作で何度も映画化された任侠時代劇。なかでも当時新進気鋭の山下耕作監督と中村錦之助の組み合わせによるこの作品が最高峰だと思う。
幼い妹と生き別れになった関の弥太郎(中村錦之助)。川で溺れそうになった娘・お小夜を助けたことが縁で五十両を遣い旅籠沢井屋へ託す羽目になる。十年の歳月がたち、別人のようなドス黒い刀傷の顔となった弥太郎は弟分箱田の森介(木村功)のタカリを知り沢井屋へ。
成澤昌茂のシナリオがいい。一説によると助監督の鈴木則文・中島貞夫・牧口雄二の三人が練り上げたものだという。台詞がカタルシスにどっぷり浸からせてくれる。「五十両はなくなったけれど、おいらお星さまになったような気分だぜ。」といって離れ、再会して名前を聴かれ「渡り鳥には名前はありやせん。」決め手となった「この娑婆には哀しいこと、つれえことが沢山ある。忘れるこった。忘れて日が暮れりゃ明日になる。ああ明日も天気か。」幼いお小夜に言った言葉が、美しい娘に成長したお小夜(十朱幸代)に同じ言葉を言うことでノスタルジックな感動の世界へ。19歳だった私は映画館で涙が止まらなかった。
山下耕作は後にヤクザ映画の大御所となったヒトだが花を象徴的に折り込むのが巧い。ここでは<むくげ>の花が咲く垣根越しのカットが2度出てくる。50両入った巾着に一輪そえた花を小窓に置き去って行く。そして別れ際の弥太郎とお小夜の会話の間にはその花が咲き誇っていた。ラスト・シーンは夕暮れ鐘の音を合図に単身果し合いに向かう弥太郎が三度笠を投げた道には彼岸花が。「シェーン」にも負けないラストシーンだ。
30歳をすぎて錦之助には大人の色気が増して「瞼の母」「遊侠一匹 沓掛時次郎」と長谷川伸の任侠ものを三作演じているが長谷川一夫に勝るとも劣らない時代劇スターとなった。なかでもこの作品は彼の代表作のひとつだろう。
敵役・木村功が等身大の男で錦之助を引き立てているほか、お小夜の父・大坂志郎、田毎の才兵衛・月形龍之介、遊女お由良の岩崎加根子も出番は少ないがベテランらしくしっかりとした演技で息が合っていた。惜しむらくはお小夜の十朱幸代に可憐さが欠けていたことか?詩情豊かな映像と木下忠二の音楽もぴったりハマって何度目かの涙を流した。
反逆児
1961年/日本
凛々しい錦之助と格調高い伊藤演出
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shinakamさん
男性
総合
80点
ストーリー
80点
キャスト
80点
演出
85点
ビジュアル
85点
音楽
80点
大佛次郎の戯曲「築山殿始末」をもとに伊藤大輔が監督、脚色も手掛けた。29歳の中村錦之助を三郎信康に起用して、母と妻の確執に悩まされながらも闊達な戦国の御曹司の生涯を描いている。錦之助の凛々しさが画面いっぱいに躍動して、格調高い本格時代劇を堪能した。信康を巡り今川義元の姪である母・築山の杉村春子、織田信長の娘・徳姫の岩崎加根子が女のプライドをこれでもかと見せつけられ、男の立ち位置の悩ましさを引き立たせている。母と妻の愛は実直な信康にはシガラミとなってトキには残酷非道な振る舞いにもなる。悲劇のヒロインは花売り娘しの(桜町弘子)で信康の情けを受けたことで築山に仕えるが、徳姫の嫉妬心に火をつけることに。「俺は嘘はつかない」という信康は「欲しいとはいったが、その場限りで側にいて欲しいとはいっていない」とあえなく殺害してしまう。錦之助には妙な色気があって、これが許される不思議さが漂うが、他の俳優がやったら憤懣やるかたないだろう。
錦之助のエネルギッシュな演技と新旧舞台女優の火花散る競演が際立っていて圧倒される。ほかでは東映時代劇には欠かせない信長の月形龍之介、腹心の部下・進藤栄太郎の重厚な演技に好感を持てたが、佐野周二の家康は優柔不断過ぎていただけなかった。


大殺陣
1964年/日本
権力争いの果ての虚しさ
shinakamさん
男性
総合
75点
ストーリー
70点
キャスト
75点
演出
80点
ビジュアル
85点
音楽
70点
「十三人の刺客」のコンビ工藤栄一監督、池上金男脚本による「集団抗争時代劇」第二作目。甲府宰相・松平綱重の謎の死をヒントに当時の権力争いと争いに巻き込まれた下級武士の悲劇を描いている。前作同様最大の見せ場は最後の大殺戮の決闘シーンで、なんと約三分の一を占める大迫力。泥田の中のそれは殺陣というよりまさに殺し合いで様式美とは対極にある凄まじさ。当時は殆ど見られなかった手持ちカメラの迫力と俯瞰のカメラのロングショットの絡み合いでもあった。気鋭の工藤監督の面目躍如といったところだ。
残念なのは、池上金男の脚本の弱さ。とくに前半の書院番・神保平四郎(里見浩太郎)と世を捨てた浅利又之進(平幹二朗)との絡みや山鹿素行(安陪徹)のメイみや(宗方奈美)との関わりに弱さを感じてしまう。善悪の見境いがハッキリしない集団の裏切り粛清などで観客が置いて行かれてしまいそう。神保の妻(三島ゆり子)の理不尽な切り捨てや貧乏御家人・星野友之丞(大坂志郎)の妻子との別れにカメラ・ワークの冴えとともに想い入れを感じる以外クライマックス待ち。どう見ても老中・酒井雅楽頭(大友柳太郎)と大目付・北条氏実(大木実)の貫録に押され気味の暗殺陣がどう七人が挑むのだろうか?もっともマトモと思われた稲葉義男の存在は「七人の侍」のパロディか?軍学者・山鹿素行の短慮は説得力に欠けてしまった。
大奮闘した里見を始めとする敵味方の区別が分からない殺戮シーンが権力闘争の虚しさを引き立てる。大友柳太郎の終盤は大スターを一掃できない名残りか?いっそ平幹二朗を主演にしたほうが、説得力あるエンディングになったのでは?
十一人の侍
1967年/日本
ヤクザ映画への分岐点となった東映時代劇
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shinakamさん
男性
総合
80点
ストーリー
80点
キャスト
80点
演出
80点
ビジュアル
85点
音楽
75点
「十三人の刺客」「大殺陣」に次ぐ工藤栄一監督<集団抗争時代劇>三部作の三作目で、日本代表サッカー選手のドキュメントではない。昭和30年代絶頂期だった東映時代劇が黒澤明によってメッタ切りにあったとき、対抗馬として集団によるリアルなアクション時代劇が誕生。二番煎じの感は免れないが、前2作は大スターが健在でスター主義の名残があったり、黒澤作品への対抗意識が完全にふっきれなかった。4年後のこの作品は完璧版とも言えマニアにとって忘れられない作品でもあり、いま観てもなかなか見応えがある。
設定は「十三人...」とほぼ同じで、横暴な将軍の弟・館林藩主・松平齊厚が隣の藩主を殺害。幕府はお家再興のための世継ぎ願いを将軍家のメンツのため却下、お取りつぶしのとなる。この理不尽な沙汰に抗議して次席家老が藩士に暗殺を託そうとする。「十三人...」との違いは暗殺の機会がありながら中断を余儀なくされることがある点だろう。
暗殺の首領に夏八木勲が扮し愛妻宮園純子との穏やかな暮らしを犠牲にする悲壮な逸話に哀れを誘われるが、里見浩太郎など他の藩士の人となりは省略され、金庫番の汐路章や紅一点大川栄子もワンシーンのみ。もっぱらクライマックスに重点を置いたシークエンスは100分という時間では止むを得ないのかも。それでも首領の義弟近藤正臣が廓通いの齋厚を単身殺害に向かうなど盛り上げに工夫が見られる。豪雨のなかの壮絶な死闘は名作「七人の侍」を多分に意識したものか?見比べても見劣りはしていない。
この手の作品は敵役が大切だが、齊厚に扮した菅貫太郎、老中・水野越前守の佐藤慶がしっかりとその役目を果たしている。<泰平の世の中を治めるのは戦乱を勝ち抜くより難しい>という老中の言葉に少し治世の難しさを納得させられた。普段悪役の印象が強い南原宏治、西村晃が善良な役なのが新鮮でもあった。
この作品を最後に<時代劇の東映>が<ヤクザ路線>へ転換していったという意味でも記念碑的な作品といえる。
幕末
1970年/日本
良くも悪くも重厚な錦之助・竜馬
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shinakamさん
男性
総合
75点
ストーリー
80点
キャスト
90点
演出
80点
ビジュアル
80点
音楽
80点
中村錦之助の独立プロが作った幕末の英雄・坂本竜馬の物語。監督・脚本は伊藤大輔で、重厚な演出が目立つ本格時代劇。
5社協定で縛られていたスターの専属が解禁され錦之助・吉永小百合・三船敏郎・仲代達矢という豪華キャストによる夢の共演が魅力。
幕末の志士たちは30歳前後だが錦之助を始めかなり貫録がありすぎるのが難。錦之助の竜馬と後藤象二郎の三船が画面いっぱいに映ると大政奉還はもう実現したかのよう。この作品のハイライトは天下国家を熱く語る竜馬と中岡慎太郎(仲代達矢)。良くも悪くも自分の世界にのめり込む錦之助をどちらかと言うと同質の仲代が受け身の演技で支えている。土佐藩は上士と下士(郷士)の差が未だに残る独自の階級社会。そのシーンを描いた冒頭はなかなかいいシークエンスで期待が膨らんだが、竜馬が現れた途端、雰囲気が重くなってしまった。若い可憐なお龍役の吉永小百合が一服の清涼剤。
続忍びの者
1963年/日本
大河ドラマの先駆け?新解釈の戦国時代劇
総合
80点
ストーリー
80点
キャスト
85点
演出
80点
ビジュアル
80点
音楽
80点
大ヒットした、「忍びの者」の続編で村山知義原作、高岩肇脚色、山本薩夫監督のトリオも変わっていない。前作が忍者の人間性を抹殺した生き方の悩みを描いて従来の忍者に命を吹き込んだ傑作だったのに対し、今回はスケールの大きな戦国時代劇を踏襲しながら歴史の影で忍者がどのような役割を果たしかを描いている。そのせいか新鮮な忍者の戦いぶりよりは諜報合戦が多く、忍者ものとしては物足りないのは贅沢な注文か?
忍者狩りに執念を燃やす信長(城健三郎=若山富三郎)は山里で平穏に暮らす五右衛門(市川雷蔵)夫婦にもおよび、一粒種五平を目の前で失う。妻のマキ(藤村志保)の里に戻り雑賀党の忍者となって信長暗殺の機会を狙う。
史実の流れのなかで忍者たちが戦国武将に仕官しながら命運を共にしてゆくさまが新鮮だ。明智光秀(山村総)に加担した雑賀党。信長に止めを刺したのは五右衛門だった。家康(永井智雄)に仕えた服部半蔵(伊達三郎)は雑賀党を全滅させた秀吉(東野英治郎)暗殺を五右衛門に仕掛ける。
執念深い信長、律義な光秀、明朗快活な秀吉。自分で手を下さず目的を辛抱強く果たしてゆく家康がもっとも知略溢れる忍びであるという。戦国武将達の性格を大胆に描写したストーリーは講談調で迷いがない。
当時は正月とお盆にはオールスターが顔を揃えた興行が恒例となっていたのでこのお盆上映作品も豪華キャスト。市川雷蔵は埋没することなく忍者の悲哀を好演。共演陣は、前半の城健三郎(若山富三郎)・山村総が支え後半は東野英治郎と伊達三郎が個性を発揮して際立っていた。若手では監督の甥である山本圭が森蘭丸役で美形ぶりを披露。
いまならNHK大河ドラマに相応しい戦国時代劇を手堅くまとめた山本薩夫の手腕は流石である。