奇跡の教室
エチ先生と『銀の匙』の子供達
(伝説の灘校国語教師・橋本武の流儀)
伊藤氏貴(著)2010年12月発行
昭和9年、東京高等師範学校を卒業し、開校間もない旧制灘中学校の国語教師
となった「橋本武」先生と、彼の教え子たちをめぐる物語。
着任当時は、“公立校のすべりどめ”としかみられていなかった灘校の生徒たちに
「なんとか本当の学力を」と願い、戦後前代未聞の授業を始めた、そうです。
その授業とは、、、
本書の「はじめに」から抜粋すると
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教科書を一切使わず、一冊の薄い文庫本を3年間かけて読むという『奇跡』の授業。
登場人物の見聞や感情を追体験していき、一言一句を丁寧に読み解き、そこから
膨らませていく授業は、生徒の興味でどこまでも横道にそれていき、2週間で1ページ
しか進まないなんてことは日常茶飯事。
しかし、その教室には、生徒達のほとばしる探究心と、きらきらした好奇心が
たえず満ちあふれていた。
略
橋本の教え子たちは、戦後の成長社会・スピード社会と逆行するように、
ゆっくりゆっくり、しかし着実に「学ぶ力」と「生きる力」をつけていく。
その結果、『銀の匙』授業3代目にあたる昭和43年組が「私立校として史上初めて
の東大合格者数日本一」という偉業を成し遂げる。
単に大学受験の結果だけが急上昇しただけではない。
燃え尽きることを知らない、立ちはだかる「壁」を「階段」にすることを苦にしない
『銀の匙』の子どもたちは、実社会に出てからも、教科書なき社会、道なき道を
口笛を吹くように歩き、その行く先々で数々の実りを創り出していった。
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中高一貫の私立校だからこその、一教科一担任の6年間繰り上がり制、
校長先生の先見の明、信頼、理解、、、などが生かされた結果なのでしょう。
そして、エチ先生の人柄、教育理念、授業内容を詳しく知れば、
先生の授業に興味が湧いてきて、素晴しく面白そうで、
そんな授業を受けてみたかった、と誰もが思うのではないでしょうか。
元々、エチ先生には“東大合格者を増やそう”なんて考えは全くなかったのに
結果として、そういうことになっただけ。
現在『ゆとり教育』が崩壊し、前途多難、迷走する教育界だが、
「本当の『ゆとり教育』ですわ」と笑うエチ先生の授業の流儀には、
学ぶべきことが多いはず。
エチ先生の、生徒一人ひとりの興味を引き出し、各人の探究心を尊重し、
それをサポートしたり、迷っていれば導いたり、そんな姿に感動します。
これぞ真の先生ではないでしょうか。
少し前にTVで観た「学校が大好きなオランダの子供達」という特集で観た
オランダの教育現場を思い出しました。
そこでは、一人ひとりの興味を大切にし、あくまでも本人の自主性に任せた授業が
行われ、生徒達を見守り、能力を伸ばす手助けをしている先生の姿がみられました。
本書は、エチ先生と彼の教え子たちの一端を知る、貴重な一冊。
なんとか、これからの教育現場に生かせないものでしょうか。
わがまま母