パトリックと本を読む ミシェル・クオ(著)2020年4月発行
誰かと一緒に本を読み、互いに想いを語り合う・・・
共に本を読み語り合う時間を共有することが、なんて素敵で大切なことか、
と本書は思い出させてくれます。
小説ではなく、ほぼ著者が体験したドキュメンタリーなのですが、
南部の風景描写の繊細さや人物の細やかな内面表現などにより、
映像が浮かんでくるようで、前半はまるで小説を読んでいる感覚に。
が、徐々に、アメリカ社会の現実が突きつけられ、努力する著者の挫折に
一読者の自分まで落胆し落ち込んでしまうことも。
とにかく、アメリカ社会の人種差別問題、格差、政策などが、著者が
関わった教育現場を通し、誠実に真実が描かれているし、著者自身が
厳しく辛い現実を前に、悩み、立ち止まり、葛藤する姿も隠さず
語られているところにも感動。
とても難しく解決困難にも思えてくる社会の現実を実感させてくれる
本書は素晴らしく、読み応えがあり、是非一読を!とお薦めしたい。
奇しくも、昨日、全米オープンテニスで優勝した大阪ナオミ選手が、
不当に死亡させられた黒人の名前入りのマスクを毎試合つけ登場し、
「みんなに考えて欲しい」と言って注目を浴び話題になっていた。
本書もまさに、差別社会の行き着く先は、希望のない無気力な世の中、
さあ、ここからどうしたらいいのか? と考えさせられる一冊。
自分達の世代は、人種差別撤廃を実現しようと行動し暗殺された
マルティン・ルーサーキング牧師の名演説や大行進、マルコムXなど
黒人の権利を求める運動が盛んな時代を知っているので、あれから40年
以上経た現在、もっとマシな社会環境になっているもの、と勝手に思って
いたので、本書で、黒人としてキング牧師を知らず無気力に生きる若者が
多数存在することを知り、著者と同じようにショックを受けました。
命をかけたあの運動はなんだったんだろう?
どうすればよかったのか?
こんな風に、不勉強な母でさえ、色々と考えさせられてしまうテーマが
ありつつも、傷ついた教え子と共に本を読み、寄り添い見守り続ける著者
の姿には感動。
とても素晴しい本でした。
わがまま母
その著者と内容について、訳者あとがきより抜粋・・・
著者は台湾系アメリカ人(両親が台湾から移住)で、本書が初めての作品。
彼女はハーバード大學とハーバード・ロースクールで学んだ後に弁護士資格
を取ったエリートだが、大学4年の時に進路に悩んでロースクール進学を留保、
教育支援団体に入り、貧困地域の底辺校で読書を通して文学や歴史を教えて
みようと心に決める。期限は2年、行き先はミシシッピ川畔の寂れた町ヘレナ
にある落ちこぼれの学校、スターズ。ここで彼女の理想はあえなく砕かれる。
罵声、取っ組み合い、体罰は日常茶飯事、進路指導員もおらず、教師達は勉強
なんて教えても無駄と匙を投げている。校内に漂うのは、あきらめの感覚だ。
貧困、犯罪、教育の遅れ。ここでは、機会のない子どもたちがぼんやりした不安
を抱えて生きている。自分はこの中から抜け出せるのか、と。
ミシェルは詩作と自由作文を授業に取り入れ、ヤングアダルトの本をどっさり注文
し、生徒に読書の楽しさを教えてゆく。彼らが本を読む姿を写真に撮って教室の
壁一面に貼り、「自分を温かく受け容れる気持ち」を育み、生徒との信頼関係を
築いていく。誰よりも能力を開花させたのがパトリックだ。大人の導きを渇望する
パトリックはミシェルを人一倍慕っている。読書にのめり込み、辞書を引いて見事
な詩をつくり、やがて校内で最も成績が伸びた生徒として表彰されるまでになる。
だた、ミシェルがロースクールに進むためにヘレナを去った翌年、パトリックは
人を刺して拘置所に入る。とりわけ期待していた子がドロップアウトし、事件を
起こしてしまったのだ。荒れた拘置所で人生をあきらめ、もはや読み書きも
おぼつかないパトリック。卒業を見届ける約束を守らなかったのが遠因かと
ミシェルは思い悩み、今度はすでに決まっていた就職を半年ほど留保、ヘレナに
戻って拘置所に通い始める。
・・・