ピロティ 佐伯一麦(著)2008年6月発行
シミジミ、ホンワカしたなかにピリリと黒胡椒が何粒か混じったような本です。
全編、一人の男の口から語られる言葉のみで構成されていて面白い。
主人公「山根」は、仙台のあるマンションの管理人をしていたが、膝痛のため
やめることになる。
その後任として渡辺に引継ぎをするという設定の話。
引継ぎのため、朝から夕までマンションの一日を、山根が渡辺と管理人の仕事
や行動を供にしながら、ずーっと語っていく。
この山根さんは、よくしゃべるんですねー。
それもそのはず、前職は営業だったようで(笑)
でも、マンションの住人などの人物批評や、マンション管理を通じての社会批評
には、思わず「なるほど・・・」と引き込まれる鋭さもあります。
山根の台詞に「わたしはマンションってね、長屋だと思うんですよ」
「社長がいうには、管理人はね、長屋の大家、なんだって」とある。
その言葉の通り、山根のマンションの住人に対する視線は温かいものがある。
いじめられていた子供を心配したり、一人暮らしの女性をさりげなく案じたり、
黙って雪かきをしてくれた人に感謝したり・・・。
反面、自分勝手なことを言う住人に対しては、こんな台詞を、
「みなさん文句っていうか、権利の主張だけは言ってきますよ」と。
エゴをむき出しにする人、ゴミひとつとってみても公共心のある人ない人、
干渉されたくない人、ふれあいを求めている人・・・。
山根さんのおしゃべりで、マンションの一日が語られることにより、私達は、
現在の社会そのものを視せられているのだと思いました。
わがまま母