ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 新藤宗幸著 「教育委員会」  (岩波新書 2013年11月 )

2014年10月27日 | 書評
文部省・教育委員会の中央集権的タテ支配を廃止し、教育を子供と市民の手に取り戻そう 第5回

1) 教育委員会という組織 (その2)

 都道府県の教育長は事務局を代表するが委員を兼ねる。教育長の就任の職歴は、首長部局の行政職員それも筆頭部長クラス経験者か学校長OBであり教育次長と言った学校界の幹部である。従来、教育長は首長、助役とならぶ「三役」と言われ、自治体のトップマネージメントである。教育長は教育行政の身ならず自治体行政全体に影響力を持つ存在である。教育長の選任はまず首長が行政職幹部や学校長経験者から教育委員として他の4人の委員と同様に議会の承認を得る。ただし首長は議会には最初から教育長予定者を示唆して選出し、議会の承認を得るのである。だから教育長は町の名士・学識経験者ではなく、行政職・教育職のトップでありつまり役人なのである。教育長が指揮する事務局である都道府県の教育庁の組織は、大規模な組織では教育長・教育次長のもとに管理部・指導部といった部制をとる。室制や課を取る組織もある。ある県では教育長の下に教育企画室、学校教育室、総務課という編成もある。大規模なある県の教育庁の場合、企画管理部と教育振興部をもち、職員633名、うち教員系職員391名である。教員系職員は学校行政部門に集中している。学校行政部門の役割は、学校運営、教科書指導、学習や職業指導などについて学校を現場を指導し助言するために指導主事を置いている。このポジションを占めるのが教員系職員である。指導主事のキャリアーは、教頭職クラスから教育委員会の指導主事に就任し、3年間事務局で学校行政主事を務め、教育現場に戻り校長職となる。校長職を勤めると再び教育委員会に戻り、係長ー副課長ー主任指導主事を務める。その上で委員会事務局の幹部となるか再度校長職に就任する。学校現場からどの教師を指導主事に引き上げるかは事務局の勤務評定に基づいて教育長が裁定しているようである。この教師エリート(閉鎖)集団(インナーサークル)の学閥は当該県の旧師範学校の系列にある国立大学(学芸大学、教育大学など)の教育学部出身者である。教育委員会事務局の行政職員は首長部局からの出向者で3年程度でローテーションする。都道府県教育委員会の指導主事の仕事の中心は、文部省が出す教育課程についての指針・ガイドラインの具体的運用方針を定めることである。「ゆとり教育」、「学力向上教育」、「指導力不足教員の評価と指導法」などへの対応である。学校現場で通知がいかに運用されているかを調べ学校長を指導するのも指導主事の仕事である。日の丸・国歌問題で懲戒処分を受けた教師の対応も指導主事の仕事である。授業の臨監も行う。教育委員会事務局は教員や学校の評価システムに苦労している。教員評価システムは全国共通で「目標による管理」という手法で、1990年以降イギリス圏を中心に広まり日本の企業で採用された評価システムと同じである。学校の目標自体が「自ら学び、みんなで学力向上」というたぐいの極めて捉えがたいテーマなのである。これで自己評価シートを用いて達成する自己目標を設定し自己評価をするのである。企業でも営業目標ではない場合は極めて抽象的な評価となり、近年評価システムの有効性に疑問符がついている。こうして教員は教育委員会の指示に順応してゆくのである。最後に基礎教育レベルの教科書の採択権が欧米では学校にあるのに、日本だけが教育委員会という行政組織にある問題を考えよう。これは1963年の「義務教育の教科書無料措置法」とセットになっている。教科書の採択はそれまでの学校単位から広域一律になった。ここでも都道府県の教育委員会が教科書の採択区域の設定権限をもつ。全国で585地区とされている。都道府県の教育委員会に「教科用図書選定審議会」を設ける。審議会委員のうち33%が教育委員会関係者、学識経験者が18%、教員が15%となっている。実際の教科書選定は採択地区の市町村教育委員会がつくる採択地区協議会で行う。採択地区協議会のメンバーのうち68%が教育委員会関係者で、校長や教員は14%に過ぎない。こうして教科書の設定には学校教員や地区保護者の意見は全く考慮されず、教育員会事務局主導で上から下へ行政的に進められる。文部省選定「国定教科書」と揶揄されるゆえんである。

(つづく)