ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 湯本雅士著 「金融政策入門」  (岩波新書 2013年 )

2014年10月10日 | 書評
デフレ脱出の処方箋において、量的緩和政策は有効か 第6回

3) 金融政策と財政・為替政策 (その1)

 金融政策が財政政策と為替政策とどう関係するかを検討します。まず財政政策ですが、政府は国民に市場原理では通用しない公共財を提供します。公共財には当然費用が必要ですが、資金は税金と借金である国債で賄います。国の歳出は原則として(むなしく響く言葉だ)国債を発行してはいけないことになっています。しかし国の資産形成にかかわる建設国債の発行は認められています。またなお財源が不足する場合には、年度ごとに国会の承認を経た「特例国債」も発行できます。国債発行の基本原則(これもむなしい言葉だ)は国債の日銀引取りの禁止であって、「市中引き受けの原則」と呼びます。これはそうしたことによって過去に激しいインフレが起きたことに起因します。なお日銀による短期証券の引き受けは禁止されていません。これは一時的な資金繰りに対応するためです。また財政法により、日銀は国会の議決の範囲内で国債を引き受けることができるとされ、国債の満期が来て現金償還を受けずに他の国債に乗り換える「借換債」を認める趣旨である。実際日銀は相当額の国債を保有しています。金融市場の調節目的で各種の証券を民間金融機関から買い入れているので、国債の日銀引き受けと日銀による国債の市中買い入れとの間で準備金が増えることに変わりはありません。2013年度当初の国債発行額は総額170兆円、うち借換債が一番大きく112兆円、建設国債43兆円、復興債2兆円、財投債11兆円です。国債の保有者別では2012年末で総額960兆円のうち、銀行が43%、生損保が19%、日銀が12%(115兆円)、公的年金7%、年金基金3%、海外8.7%等となっています。金融調節手段としての国債買い入れは自主規制として日銀券ルールを設けていますが根拠はありません。一般に長期債で金融調節を行おうとすると、短期債に比べて市場かく乱要因になりやすいので自主的に抑制をかけているのです。なんてことはない、金融当局が設けた禁止原則は当局のご都合でことごとく破られているのである。財政規律と金融規律は情勢の都合であってもないような状況で、なんでもありといえる。昨今累積国債残高の問題は棚上げにして、国債を除いたプライマリー・バランス(基礎的収支)の均衡だけで財政を論じることが多い。それもプライマリーバランスの赤字を2020年までに黒字化するという目標は、消費税の10%増税でもっても困難な状況である。しかし問題はこのバランスがとれたとしても国債が減少するわけではなく、国債残高の利子払いは黒字でもって補われるべきはずのものである。従って名目経済成長率が長期金利を上回ることが必要になる。だから財政の健全化には長期金利水準を低く抑え、名目成長率を高めに維持することです。マネタリストの言葉でいえば「インフレターゲットを設けて大量の国債を買い入れ、それによって長期金利を低下させ、物価上昇率を高めて名目成長率を引き上げる金融政策をとるべきだ」ということになるのでしょうか。インフレは所得移転を伴います。国民が債権者である国債はインフレによって資産価値が下落します。日本の財政状態の改善にはインフレが一番手っ取り早いといわれても、国民は簡単には納得できません。大幅円安は輸出にとって朗報だとばかり言えません。輸出産業はエネルギーと部品を輸入していますので時間差で自分の首を絞めるのです。円安の結果としての物価上昇はデフレ脱却策として朗報とも言えません。円資産全般の価格低下は金利の上昇を意味し、金利上昇は経済活動を委縮させます。こうしたインフレターゲットのマイナスの連鎖の結果を想定し知っておくことは公平な見方です。マイナス面は無視してプラス面しか宣伝しないことは、とんでもない悲劇を起こしかねません。

(つづく)