ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 湯本雅士著 「金融政策入門」  (岩波新書 2013年10月 )

2014年10月06日 | 書評
デフレ脱出の処方箋において、量的緩和政策は有効か 第2回

1) 金融政策とは (その1)
まず金融政策に入る前に金融とは何かをおさらいしておきましょう。金融とは「経済主体がお金を必要な主体に融通することである」。貸し出し(借り手は期限を決めて資金を返済する。債権など)と出資(成功報酬を期 待するので、一定期間後の返済は予定されていない。株式など)の場合に別れる。金(資金)は通貨のことである。通貨(貨幣)の起源などについてはそれはそれで面白いのだが、岩井克人著 「貨幣論」 (ちくま学芸文庫 1998年3月)に次のように述べている。「需要縮小に伴う過剰生産、デフレや不況、恐慌を資本主義の危機というが、本当に恐ろしいのは、貨幣から人々が逃げ出すハイパーインフレこそ貨幣を貨幣として成り立たせる構造を破壊し、資本主義に本質的な危機をもたらすのである。」という。つまり貨幣は信用から成り立つ名目(虚構)の世界のことである。だから金融のことは難しい。江戸時代の金融業者とは「預かり証」を発行する両替商の事であった。明治時代に入ってから貨幣発行権を持つ銀行が設立された(第1銀行などナンバー銀行のこと)である。銀行と株式会社の生みの親といわれる渋沢栄一の自伝、渋沢栄一自伝 「雨夜譚」(岩波文庫 1984年版)にその苦労が描かれている。「明治9年に銀行紙幣は政府紙幣で兌換するというように条例が改正された。併せて士族や華族の「秩禄」を公債証書で一度きり支払うことにして廃止し、この公債をもって銀行を経営させるということになった。明治9年国立銀行条例(銀行券発行権をもつ民間の銀行のこと)が改正され、一挙に152の銀行ができ銀行の組織がようやく普及することになった。中央銀行すなわち日本銀行の設置は明治15年のことである。」という。ここで貨幣の発行権は日本銀行に移るのである。日本の中央銀行設立はスウェーデンやイギリスに比べると2世紀ほど遅れるが、イタリア、アメリカよりも早いのである。殖産興業を急ぐ明治政府の意気込みが伺える。中央銀行による銀行券発行権については、通貨を発行する権利は国家主権の一部(税徴収と同じく)であり、それを持つのはあくまで国であり、受け取る側はこれを拒否できないとされる「法定通貨」といわれる。日本銀行は「銀行の銀行」といわれ、会計処理でいうバランスシートを持ちます。普通の民間銀行では預金は負債(いつでも要求があれば貨幣に変える義務があるから)であるように、日銀が印刷した銀行券は負債に計上されます。2013年6月末の日銀のバランスシートの資産部の内訳は、
資産の部: 国債(長期、短期)148兆円、CP(短期社債)2兆円、社債2.8兆円、信託(株式)1.3兆円、信託(EFT)1.9兆円、信託(J-REIT)0.15兆円、貸付金24兆円、外国為替5.1兆円 諸勘定0.471兆円
負債の部: 発行銀行券83.9兆円、当座預金84.7兆円、その他預金1.26兆円、政府預金1.26兆円、売現先勘定-0.25兆円、引当金勘定3.5兆円、資本金(1億円)、準備金2.7兆円
 通貨に対する国民の信認こそが通貨の円滑な流通ひいては経済活動に絶対的必要な条件であることはいうまでもない。日本で金本位制を脱して管理通貨制度になったのは昭和初期1931年12月、高橋是清蔵相の時代でした。国家によって通貨の量が適切に管理されていることが前提です。通貨とは政府の発行するコインと日銀が発行する銀行券(現金通貨)だけではなく、預金通貨があり、圧倒的に預金通貨のほうが多い。カードの時代になると現金通貨は金銀制の遺物みたいなもので、最終的にはペーパーレス時代になると思われる。ですから現金通貨発行量を決めているのは日銀ではなく、それを使う人の利便性から発行量が決まります。通貨の主たる機能は交換決済手段であり、価値保蔵手段です。家計や法人間の債権債務関係は、それぞれが取引している金融機関相互間の債権債務関係に振り替わります。そこで決済が行われるのです。そしてこの銀行間決済は、最終的には主要金融機関が日銀に持っている預金の口座振替の形で行われる。これが日銀ネットと呼ばれる決済システムです。預金取扱金融機関が日銀に持っている預金は準備(リザーブ)と呼ばれ、決済だけで金融政策上重要な意義を持ちます。日銀当座預金イコール準備ではなく、証券会社も決済も含まれますので2012年の準備預金残高は32.5兆円でした。決済リスクを避けるためある時点で全体を相殺するのではなく、即時・直接決済が行われています。預金は銀行にとっていつでも引き出される債務であり、預金をはじめ金融商品は債権債務の連鎖にあって、どこかで金融システムがつまずくとシステム・リスクとなります。アメリカの住宅バブルの最中にサブプライムローンのつまずきが2009年のリーマンショックを引き起こしました。従って金融政策は物価の安定を図るだけでなく、一つの経済主体の安定を図るミクロプルデンシャルポリシーと、全体の金融システムの安定を考えるマクロプルデンシャルポリシーつまり金融機関の監督・規制という分野が重要です。

(つづく)