ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 新藤宗幸著 「教育委員会」  (岩波新書 2013年11月 )

2014年10月25日 | 書評
文部省・教育委員会の中央集権的タテ支配を廃止し、教育を子供と市民の手に取り戻そう  第3回

序(3)

 知事、市町村長は議会の同意を得て教育委員を任命しているが、教育委員会に意見を言うことはできない。教育委員会は首長に対して「半ば独立した」行政員会である。ここに文部省がタテの行政指導と支配を企むことができた秘密がある。本来教育は地方自治体の任務である。これは消防・警察などと同じく地方に任された行政組織である。2000年の第1次地方分権改革は、戦後の地方自治の宿題であった「機関委任事務制度」を全廃した。地方は国の下請け機関ではなくなり、対等の関係となったといわれる。ところが地方自治体が教育行政に責任を持つなら、教育委員会といった全国一律の組織は地方の自由裁量に任されるはずであるが、「必置規制」という教育委員会が設置を義務づけられている。地方の時代、自己決定の時代と言われながら、教育委員会廃止論(元島根県市長西尾理弘氏)もある昨今に、全国一律教育を標榜した中央集権的な制度が残っているのである。2005年10月、文部省の諮問機関「中央教育審議会」の答申は、「文化、スポーツ、生涯学習に関する事務は地方自治体の判断により首長が担当することが適当である」と述べ、教育委員会の担当職務を一部地方自治体に移管する趣旨を発表した。2005年12月、第27次地方制度調査会は教育員会改革に関する答申を発表し、教育委員会の設置を自治体の選択制とすべきと述べ、翌2006年6月首相に提出した。2006年7月小泉政権は「骨太の方針」で教育員会制度の改革を示した。これを受けて規制改革・民間開放推進会議は教育委員会の必置規制を撤廃し、首長の責任の下で教育行政を行うことを自治体の選択に任せるべきとした。しかし全国都道府県教育長協議会は文部省の指導の下に、これらの方針に「反対」論を展開した。2006年第1次安倍内閣は「教育再生会議」で愛国教育をめざし歴史の針を逆戻りさせ教育への中央統制を強める政策を打ち出し、文部相は地方教育員会に必要な措置を是正勧告できるという中央強化策に改正した。2009年に代った民主党内閣は何ら具体的に動かなかった。2013年1月第2次安倍内閣は教育再生実行会議をスタートさせ、議題の中には教育委員会制度の廃止が含まれている。2009年大阪市長に当選した日本維新の会の橋下徹市長は「大阪市教育基本条例案」を提出し、首長主導の教育行政の実現を目指して教育委員会への強権的な攻撃を始めた。ところが橋下市長の教育行政策には教育委員会の廃止は考えていない。従来型の教育行政は文部省ー都道府県教育委員会教育長―市町村教育委員会教育長―学校長という下降型教育システムに対して、橋下市長の構想は「統治」を首長に取り戻す(権力奪取)というヒステリックな叫びにすぎず、そこには教育を受ける子供への視線は感じられない。現代日本の小中学校基礎教育に問われているのは、教育を子供=市民のてに取り戻すシステムを築くことであろう。独善的な教育にどちらが主導権を取るかという国・教育員会対首長という対立軸の設定であってはならない。子供を主人公とした地域の教育システムを築くことが求められている。

(つづく)