ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 宮崎勇・本庄真・田谷禎三著 「日本経済図説」 第4版(岩波新書 2013)

2014年10月02日 | 書評
激変する国際・社会環境の中で日本経済を読む 第9回

8) 国際収支
① 国際収支とは

 国と国との経済取引の勘定尻が国際収支である。内容は①商品貿易取引、②貿易外取引、③資本の取引の3つである。貿易外取引とは運輸・保険料・旅行・サービス手数料・投資利益などを含む。国際収支の均衡を論じる際、総合収支(①+②+③)か経常収支(①+②+移転収支)か基礎収支(経常収支+長期資本収支)かを区別する必要がある。国際収支は相手国ごとに問題にする必要はない。国際収支尻は敬愛発展段階と密接な関係がある(キンドルバーガー理論)。未成熟債務国→成熟債務国→債務返済国→未成熟債権国→成熟債権国→債権取り崩し国という発展段階のどの位置にあるかということである。アメリカは1982年以来債権取り崩し国であり、日本は1972年以来の未成熟債権国から成熟債権国へ移る段階にあり、韓国は1986年以来債務返済国である。日本は貿易収支黒字で資本収支赤字である。貿易収支赤字の債務国から債務を返済して貿易収支を黒字にする。そして貿易収支は赤字で資本収支は黒字という金をかして物を買う債務国へ発展するという理論である。
② 貿易と経済発展
 日本は成長と発展のために輸出に力を入れ外貨獲得に重点を置いてきた。変動相場制の下では貿易不均衡は為替によって調整されるはずと思い込んでいたが現実はそうではなかった。それは自由市場の失敗である。日本は80年代から90年代にかけ黒字が拡大し、2000年代には貿易黒字は安定的になった。2008年の世界金融危機から日本の黒字は縮小し、2011年の東関東大地震があってから赤字になった。日本の産業は原材料を輸入し加工して製品を輸出するという垂直分業を特徴とした。ところが近年途上国の製品生産力が向上し、日本経済の構造変化が進み水平分業体制に移行した。家電分野ではそれが著しい。中国を先頭に世界の国々は製品をアメリカに売るという一極集中型になり、アメリカのみが経常収支が赤字である。
③ 輸出
 日本の輸出構造は鉄鋼・家電製品・自動車・工作機械・OA機器・コンピューター・半導体そして電子電気機器の部品など知識集約型高付加価値製品が増加した。日本の工業は生産性と技術水準の高さで優位性を保つという志向である。相手国別でみるとアメリカ・ヨーロッパが多かったが、1990年以降はアジア向けの比重が高まり2011年には56%を超えた。2012年の輸出相手国はアメリカ、中国、韓国、台湾、タイ、香港、シンガポールなどの順である。輸出の急増はいつも貿易摩擦を引き起こした。政府の貿易補助金も非難の対象となった。摩擦に足しては原則として内需の拡大と輸入の増加によるマクロな解決が望まれる。
④ 輸入
 日本の輸入構造は原材料。エネルギ―燃料が全体の6-7割を占める。つまり垂直型の輸入構造である。地域別にみるとアジア・中近東から輸入の半分を占めてきた。近年は東南アジアと中国からの輸入比率が高まった。輸入がエネルギ・原材料に偏っているため、貿易収支は中近東・オーストラリア・カナダに対して恒常的に赤字である。輸入相手国とは中国、アメリカ、オーストラリア、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、韓国、カタール、マレーシアなどの順である。
⑤ サービス(貿易外)収支
 対外取引でも貿易に伴うサービス(運輸・保険)や旅行、所得収益(投資収支)が増えている。むろん貿易取引が依然大きい。貿易外収支の3本柱は輸送・旅行・所得収益である。貿易外収支は90年代後半から赤字から黒字の転換して以来2000年代になって黒字幅を拡大し10兆円を超えた。旅行・輸送などのサービス収支は1990年代に日本人の海外旅行が増えたたため赤字幅が拡大したが、2000年代になって縮小してきた。一方所得収益は日本企業の海外での収益を送金することで黒字幅が2000年以降急速に拡大した。2005年以降には15兆円を超すようになった。2011年以降貿易収支が赤字になったにも関わらず、貿易外収支の黒字幅が拡大したため、経常収支は黒字を維持している。
⑥ 資本収支
 国際収支の中で為替レートの大きく響くのが資本収支である。経常収支の黒字国と赤字国の間で資本取引が行われる。経常収支と資本収支はおおむね相殺しあう関係であるが、その差は外貨準備へ編入される。2000年代の平均でいうと日本の経常黒字は16兆円、資本収支の赤字は10兆円で、差額は外貨準備の増加となった。これは財務省の為替市場介入資金となり、それだけ資本が流出することになり7兆円であった。貿易で儲けた金でドルを買う関係である。資本収支は国内でいえば証券投資が最も多く、日本はアメリカ国債を中心とした外貨建て債券への投資である。次に直接投資であるが、アジア・北米・欧州が大きい相手国である。また近年外国資本の場合は日本株を積極的に取引している。資本流入している相手国は2010年以降欧州が急増している。資本流出している国は北米、中東・アジアである。資本の動きは長期的経済発展の可能性、市場の開放具合、金利や為替の動きに影響される。
⑦ 貯投バランスと経常収支
 国際収支構造からすると、経常収支と資本収支は相補関係にある(経常収支が黒字なら資本収支は赤字)。経常収支の黒字は国内の貯蓄過剰=資本流出に対応する。対外不均衡は国内不均衡のはけ口である。日本の状況は国内の家計部門は貯蓄過剰で、企業部門は貯蓄過剰であり、政府部門は赤字であるが、国内部門全体で見るとバランスは貯蓄過剰となり、それが資本流出となっている。何が出発点かはわからないが金の流れはに金利と同じように水の流れと同じ原則で動く。この状況をみて政策を発動することになる。2008年以降日本の経常収支黒字は小さくなり、かつ家計の貯蓄傾向は低くなった。したがって非金融(企業)法人と政府部門の貯蓄・投資バランスのかじ取りに注目される。
⑧ 対外資産
 フローの面で対外投資(流出)が続くということは、ストックの面でいうと対外資産が蓄積されることを意味する。2012年の対外純資産額は296兆円となり世界最大の債権国となった。アメリカが世界最大の債務国に転落したことと対照的である。2012年の総対外資産額は662兆円でその半分は米国債を中心とする証券投資であった。次いで直接投資の順である。アメリカの対外資産には含みが大きいといわれ、日本の米国債保有は米国の金利が高い時は有利であるが減価も恐ろしい。最近は日本の資産は直接投資、それもアジア地域のものが多くなっていてバランスが取れてきている。貿易摩擦に代って投資摩擦にも注意が必要である。
⑨ 政府開発援助
 日本の政府開発援助ODAは20世紀中は世界最大であったが、デフレの長期化で縮小し、2011年度のODA実績ではアメリカ・ドイツ・イギリス・フランスの次に位置している。対GDP比でも2010年度は0.2%以下となった。近年の変化として2国間援助が減り、貸し付けから贈与に移った。日本のODAは外務省が現地情報を得て政策を決め国際協力機構JICAが実施する仕組みである。
⑩ WTOと IMF
 戦後の世界經濟体制はIMFとGATTによって支えられた。IMFは80年代は累積債務国の救済、90年代は共産圏の移行支援、97年のアジア通貨危機支援、2010年には南欧州の通貨危機・財政支援に活躍した。WTOは1995年GATTに代って貿易秩序を担った。交易の自由化、紛争の手続きにあたった。21世紀は経済・金融の面ではIMFが、貿易の自由化の面ではWTOが中心となって国際秩序が確立されるであろう。

(つづく)