ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 宮崎勇・本庄真・田谷禎三著 「日本経済図説」 第4版(岩波新書 2013)

2014年10月01日 | 書評
激変する国際・社会環境の中で日本経済を読む 第8回

7) 財政
① 政府の役割

 国家主義計画経済に間違いや失敗がある。自由主義経済とは民間企業と個人の自由な活動を基礎とするものであるから、ミクロな段階での自由競争には政府は介入しない方が望ましいが、自由主義経済がアプリオリに正しいという保証はないと考える方が無難である。つまり個々人の活動の結果が間違った方向へゆく「合成の誤謬」や「市場の失敗」と覚悟してかかり、近代国家では公共財やサービスの確保に関する責任は国家がもたなければならない。何故なら国民は税金を納め相応の生活と福祉を期待しているかである。国防や治安、基礎的教育、国民の福祉と健康、さらには国際問題の役割は政府に負うところが大である。政府はたんなる夜警国家ではない。政府の活動は時代の発展段階によって異なるが、民間の力や個人の正当な活動に介入しないことが望ましく、効率的であるべきである。現実の政府の活動は財政によって賄われている。財政の経済的機能は、①経済成長、②経済安定、③資源の適正な配分、④社会的公平、⑤国際協調の施策である。財政は小さいだけが能ではなく、GDPに適した規模でなくてはならない。
② 予算編成
 政府は政策運営の指針として中期計画をもっているが、年次の経済見通しと単年度政府予算が作られる。経済見通しの作成と政府予算原案編成は内閣府と財務省が責任をもつ。民間団体も意見を聞かれるが、原案編成には関与できない。民間グループとしては経済4団体、労働団体、消費者団体、農業団体などである。実質的に影響力があるのは民間人の参加する政府の各種審議会である。財政制度審議会、税制審議会、産業構造審議会、食品・農業政策審議会などである。2000年以降政治主導で予算編成が強まり、内閣府の中に民間人が参加する経済財政諮問会議が重要な政策決定の要となってきた。
③ 財政の規模と構造
 財政の規模は国民の租税負担力、国債発行の歳入見通しと各方面の歳出要請の度合いによって決定される。高度成長期は一般会計歳出の伸びはGDPの10%台で推移した。1980年代は公共投資の拡大社会保障関係費の増加があって対GDP比は18%に達した。1990年から2000年代は景気減退もあって歳出は横ばいで抑制されていたが、2009年から2012年にかけて世界金融危機と東日本大震災のため大規模補正予算が続いて対GDPは20%を超えた。これに関連して国民負担率(税+社会保障負担)の対GDP比は高度経済成長期の20%から、1979年には30%、2013年には40%に達した。それでも欧州の45-60%よりは低い。一般政府支出(一般会計予算+特別会計予算)の対GDP比は近年40%近くになり、欧米の水準に近づいた。もちろん政府収支の対GDP比は1990年以降赤字を続けているが、200年以降はマイナス5-10%となりこれも欧米の水準と同じであるが、ドイツは±0で、韓国は+である。
④ 歳出構造
 一般会計ベースの歳出は、地方交付税、国債費、一般歳出に大別され、地方交付税は国税の1/4-1/3を地方自治体にの交付する制度的支出であり、最近は2割弱である。国債の利払いや償還にあてる支出が国債費である。国債費と地方交付税は制度による固定的な支出であるが、歳入が伸びない場合は一般歳出を圧迫する要因である。一般歳出をみると、最近社会保障関係費の増加が著しく、一般歳全体の50%を超える。公共事業費は大幅に減少し、80-90年代の半分程度になっている。2013年予算では国債費が25%、地方交付税が17.7%、一般歳出が58.3%(うち社会保障費は31.4%)であった。一般歳出の内訳をみると、社会保障費が54%、公共事業費が9.8%、文教科学振興費が9.9%、防衛費が8.8%、その他経費13%などである。日本の政府最終消費支出が対GDP比で15-17%であるが、欧米は20%前後であり、日本政府は欧米に比べて小さな政府と言える。
⑤ 税制
 予算の中心は通常は税金である。2013年の予算で見ると歳入総額92.6兆円のうち、税金47兆円、国債42.8兆円でかろうじて税金が借金を上回っていた。日本の税制は個人税・法人税などの直接税を基幹とし、物品税(消費税)という間接税で補うという形であった。直接税と間接税の比率(直間比率)は1995年ごろまで7:3で推移してきたが、デフレ期が長引くにつれ累進課税制の重税感に不平が出始め、所得減税・企業減税に傾いて直接税の落ち込み傾向はトレンドとなり、その不足分を補う形で消費税が導入された。1998年には直間比率は55:45となった。2010年の直間比率はアメリカで76:24、イギリスで59:41、ドイツで50:50、フランスで53:47となっており、社会保障の厚い国ほど直間比率は間接税に傾いているといえる。租税負担率は徐々に高まっているが2013年で23%であり、欧州諸国のそれが28-47%であるのに比べるとかなり低いといえる。税が高いかどうかは結局政府の施策と信頼感に依っている。日本では租税負担率がこれほど低くても重税感が強いのである。井手英策著 「日本財政 転換の指針」(岩波新書 2013年1月20日 ) は「政府はすでに信を失った」と宣言した。高齢化社会による財政需要の増大は間接税比と負担率の増大は避けられない。財政バランスの改善が求められる。
⑥ 国債
 日本の国家予算は高度経済成長期を通じて歳入・歳出の均衡予算であった。経済成長による自然増収を財源として減税を行うことができた。それまで少額であった国債発行額は1974年に3.1兆円、1984年に13兆円となった。1990年には国債発行額は減少し、財政収支は黒字化したが、バブル崩壊後の1995年頃から景気対策の為国債発行が増加した。2000年まで一般会計歳出は直線的に増加し、税収の落ち込みに反比例して国債発行が増加したのである。財政法によると国は赤字国債を発行できないことになっている。ただし建設国債はインフラ整備のためであり次世代も恩恵を被るとして「建設国債」は許可された。しかし赤字国債は毎年「特例国債」として国会承認を必要とした。その後国債発行の増加が続き、2012年度で累積国債残高は約739兆円、対GDP比で148%となり国際的にも一般予算の国債依存度49%は高い数値である。国債発行は、歳出の硬直性、景気刺激効果、国民貯蓄残高との関係、対外協調路の関係で考慮される必要がある。中でも日本の国家予算は、持続可能性があるのだろうか、どこかで破たんするのだろうか、心配は絶えない。
⑦ 財政政策
 財政には景気調整機能があるが、財政収支の赤字要因と景気の関係が重要である。2011年東関東大震災復興予算は、それまで萎縮していた歳出動機を一変して拡大補正予算に向かわせた。建設国債だとインフラ整備により景気浮揚効果の名分もあるが、一般政府経費を補う「特例国債」にはそれさえもない。また国債乱発はインフレ要因になることである。戦後国債の日銀引き受けは禁止されてきたが、日銀が既発行の国債を吸い上げれば結局日銀引き受けと同じになってしまう危険な行為である。アベノミクスの日銀当局はそれをやってインフレ率2%を達成するつもりである。また日銀の国債吸い上げにより民間資金が窮屈になり金利が上昇することも心配される。しかし日銀の国債発行は景気刺激策の目玉であり、国債は国民個人資産にもなるので、そのかじ取りは微妙である。政府固定資本形成の対GDP比率は、2000年以来公共事業の縮小で5%から次第に下がり2011年度には3%近くまでになった。それでもドイツ、アメリカ、イギリスよりは1%ほど高い。
⑧ 防衛費
 経済と軍事費の関係は昔はプラスに働くと考えられたが、今や一般的にはマイナス効果の方が大きいとされる。市場原理の働かない軍事費は財政赤字の要因であり、民間技術を圧迫するからである。日本は戦後、専守防衛・武器輸出禁止・非核三原則が基本方針とされ、防衛費もGDPの1%原則が慣行化されたので、米欧ほどに財政赤字要因とはならなかった。アメリカは日本の防衛費の11倍、中国は2倍である。防衛費の42.5%は人件費で、防衛生産額は全産業の0.6%程度にとどまっている。それでも日本の防衛費は欧州を上回る水準にあり、軍事技術もトップクラスにある。
⑨ 地方財政と地方分権
 政府は外交・防衛・経済協力を受け持ち、地方自治体は福祉・生活関連事業を受け持つ。地方財政の規模と政府の規模との比率は45:55になっている(2011年)。2013年度予算規模では中央政府が92.6兆円、地方自治体が81兆円であった。地方財政の構成は、歳入面で、地方税が41.5%、地方交付金が21%、国庫支出金が14.5%、地方債が13.6%などである。地方税としては県民税。自動車税、市町村税、固定資産税などである。歳出面では一般行政費が39%で最も大きく、職員給与が24%、公債費16%、投資経費13%などである。小泉政権は2001年以降「三位一体改革」と称して、国庫補助金の廃止、税財源の地方への移譲、地方交付税の縮減を進めた。
⑩ 財政破綻の回避
 日本ほど政府債務(2013年 750兆円)を積み上げた国はない。政府債務はGDP比で200%を超えて増え続けている。それでも国債価格は安定し、利回りは1%を下回っている。それは日本の経常収支が黒字、つまり日本は外国資本に依存せず国債を95%以上国内で販売しており、資本輸出国であるからである。また日本の歳出は外国に比べて大きいことはなく、問題は税収不足にあるが、日本は消費税などまだまだ増税余地(消費税率は日本5%→10%、欧州15-20%)があるとされるからである。しかし経常収支は悪化しており将来赤字になる可能性もある。赤字になる前に財政再建を図らなければならないが、消費税・所得税の引き上げが求められるだろう。

(つづく)