ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 湯本雅士著 「金融政策入門」  (岩波新書 2013年10月 )

2014年10月07日 | 書評
デフレ脱出の処方箋において、量的緩和政策は有効か 第3回

1) 金融政策とは (その2)
 金融政策とは「政策担当者が、一定の意図をもって通貨・金融面から経済主体の行動に働きかけ、その意図を実体経済に実現することである」とされています。日本銀行法は「通貨及び金融の調節を行うことによって、物価の安定を実現し、それを通じて国民経済の健全な発展に資する」と日銀の使命を述べています。通貨・金融が実体的な存在ではなく、観念の次元の操作に深くかかわっているので、期待や信用が経済活動に大きな影響を与えます。金融機関はいわば情報だけが動く産業といえます。預金とは信用創造であるといわれます。金融仲介機関は預金を扱う金融機関(銀行、郵貯)とそうでない機関(証券、保険)に別れ、預金は間接金融に属し融資先を特定せずに預金します。そこでは金融機関(銀行)のバランスシートが動き負債が計上されます。株式や社債のように融資先を得する金融を直接金融といいます。そこでは金融機関(銀行・証券会社)は仲介に過ぎずバランスシートは動きません。国内非金融部門(家計・民間非金融法人・政府・海外機関)が資産を運用する主体となり、金融仲介機関(預金取扱機関・保険年金基金・投信・政府系バンク・日銀)を介して、国内非金融部門(家計・民間非金融法人・政府・海外機関)に金を融通する資金の流れを日銀は「資金循環表」と呼びます。家計の150兆円という金融資産は実はタンスにあるのではなく、すでに国債となっていたり銀行預金、年金積立金の形をとっていますので、間接的に国債を保有していることになります。家計は長年資金余剰部門であり、民間非金融法人(企業)も1995年以降資金余剰部門となった。一般政府と海外だけは常に資金不足の状態です。金融商品は預金だけではありません。貸出、株式、債権、派生商品(オプション・スワップ・ワラント)などがあります。プロ向け短期金融市場・債券市場、市民向けの預金・保険・信託市場、プロアマ混合の株式市場、外国為替市場などを金融市場といいます。預金をすると流動性を失なうことによるリスク・プレミアム(利子)が付きます。期間中先行き短期金利が低下する金融緩和が進むと予想される時は金利は下がり、先行き金融引き締めが予想される時は金利は上昇する。これをイールド・カーブと呼ぶ。中央銀行は短期金利をほぼ完全にコントロールできますが、長期金利はこれをコントロールすることはできません。中央銀行の金融政策決定会合で出された方針は実行に移され、中央銀行が働きかける場所が短期金融市場です。それによって政策金利日銀が望む水準に近づけ、主として銀行が中央銀行に有する預金金利(その大部分がリザーブ)を支配します。金融機関同士が一夜の短期取引で融通しあう際の金利を政策金利という。これをコールレートといいます。預金取引金融機関は準備預金法により、顧客預金残高の何%(法は0.8%を求める)かを準備として中央銀行に預金しておくことが義務付けられています。2013年6月で法定準備預金平均残高は8兆円、準備預金総額は約76兆円で大幅な余剰準備状態です。この上回っている部分には中央銀行が政策金利並みの金利(保管当座預金適用金利 現在は0.1%)をつけます。法定準備率には現在では金融調節機能はありません。短期金融市場に影響を与える外部要因に銀行券の出入りと財政資金の出入りがあります。政府の支出入も政府と金融機関がそれぞれに持っている預金の振り替えによります。そこで短期金融市場で資金が不足すると、日銀は金融機関の短気証券を買い取りその金融機関の預金準備を増やします。逆に資金が増えると日銀保有の短期証券を売却して、その金融機関の中央銀行預金を減らすという金融調整(オペレーション)を行います。このように中央銀行が最終的な貸し手としての短期希有市場の価格決定権を持っていることが、日々の金融調節を可能としているわけです。日銀は特定の金融機関からの申し出にたいして金利(政策金利0.1%に対して0.3%)を取って直接貸し付けることによって短期市場へ資金供給が可能です。これを補完貸付制度といいますが、現在あまり使われていません。銀行が日銀からの直接買入れは信用にかかわるとして嫌がるからです。こうした金融政策が実体経済に波及させるアプローチには、金利を重視するケインジアン・アプローチと、通貨量を重視するマネタリスト・アプローチがある。ケインジアン・アプローチは短期金利操作によって長期金利・債券金利・為替相場に働きかけ、資産形成に寄与して実体経済の改善(物価・賃金)を行うものです。金利をマネージメントする方法にテイラールールがありますが、合理的期待仮説が成り立つかどうかで中央銀行のメッセージ(コミュニケーション)の出し方が問題となります。マネタリスト・アプローチとは準備量を変えることで通貨量を変え、為替相場や実体経済に働きかけるものです。準備の供給がその何倍かの通貨を生む、信用創造に期待するものです。通貨量と実物経済との関係を通貨量仮説(通貨量×通貨回転率=物価×取引量)に基づくと考えます。すなわちマネタリストは通貨量は生産額を押し上げると主張します。デフレ脱却の政策論としてはまず中央銀行がまずベースマネーを増やす量的緩和を行うことでなければならないとします。そのために中央銀行のコミュニケーション戦略に帰着します。つまり中央銀行の姿勢を信用させ、期待を通じて資産価格が上昇すると為替相場を変化させるわけです。その際中央銀行がマネーを増やすメリットだけを強調し、その副作用(短期金利の混乱、バブルなど)には決して言及しないというメディ戦略も必要なのです。まさに薄氷を踏む思いでマネージメントが必要になります。心理作戦と言ってもいいでしょう。それで実体経済を改善できるかどうかは保証の限りではありません。
(つづく)