ブログ 「ごまめの歯軋り」

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秋葉原無差別殺人事件 閣僚らはどう見る

2008年06月10日 | 時事問題
asahi.com 2008年6月10日12時27分
「治安の悪さに危機感」「派遣制度転換の時期」 閣僚ら
 東京・秋葉原の無差別殺傷事件をめぐり、10日午前の閣議後の記者会見などで閣僚からは発言が相次いだ。
鳩山法相は 「ああいう無差別大量、虐殺といってもいいような事件が起きる日本の治安の悪さに大変な危機感を覚える」と発言。「教育の問題とか社会全体の問題というのが背景にあることは想像できる」と指摘し、法務省としては「とにかく犯罪に対して厳しく対処すること」と述べた。
泉国家公安委員長は 「ナイフの規制強化について「今回の事件を考えてどうするか、これから詰めたい。一般的に利用される包丁とかもあるので、もし取り組むとしても慎重に考えないといけない」と述べた。
舛添厚生労働相は派遣労働制度について触れ、「大きく政策を転換しないといけない時期にきている。働き方の柔軟性があっていいという意見もあるが、なんでも競争社会でやるのがいいのかどうか。安心して希望を持って働ける社会にかじを切る必要がある」と語った。

労働環境劣悪化の元凶である、人材派遣法の撤廃を求めたい。
このまま、若年労働者の心がすさんでゆけば、間違いなくアメリカ社会のような殺伐とした殺人社会になるだろう。舛添厚生労働相の見解が一番的を得ているように見える。日本の労働賃金を押さえ込もうとしても、中国並みの低賃金に持ってゆくことは、歴史の歯車を逆回転させるようなものである。ではグローバリゼーションという無国籍産業になりたいならどうぞ中国で起業してください。技術の高さや資本・生産システムで日本を利用しない限り、企業はやっていけないはずである。
2006年経済財政諮問会議は「労働ビックバン」といわれる労働六法の改正案をまとめた。2007年度より順次国会に提出されるだろう。労働六法とは1)労働基準法 2)最低賃金法 3)労働契約法 4)パート労働法 5)雇用保険法 6)雇用対策法である。こうした一連の「労働ビックバン」は派遣社員の生活をよくしてくれるのだろうか。結論は「期待できない」。
請負という安価な外部労働力を大量に使うことは、経営戦術としては経済合理性があるかもしれないが、年収が200-300万円しかない低所得請負労働者が100万人以上存在することは社会の公正さから許されない格差問題を引き起こすのである。05年からエコノミストは個人消費が著しく上昇すると予測していたが、消費は回復傾向を示していない。つまり企業は儲けたが、個人は潤っていないのである。ではどうしたらマクロ経済は正常になるのだろうか。請負など外部労働力の多用は中長期的には害になる。従業員の忠誠心とモラル・士気がなくなり、品質の低下と技術の途絶、企業イメージの悪化、労働現場の安全性の低下などが挙げられる。そこで正社員化を企業に促してゆかねばならない。請負労働者も政府の研修援助制度を利用してスキルアップを図り、専門性を持った技術者になることが大切である。

読書ノート 河野稠果著 「人口学への招待」 中公新書

2008年06月10日 | 書評
人口学は人口減少と少子・高齢化をどこまで解明したのか 第3回 
人口学の基礎ー人口変動三要因と生命表(1)

 人口が減少することは良いことか憂うべきことかの議論は最後に行うとして、まずは人口学の基礎と人口学上の事実をしっかり把握しておこう。1965年ー1970年の間、世界人口は年率2.0%の増加率を示していた。当時は「人口爆発」と言われた。人口が年に2%増え続けるとしたら、人口が現在の2倍になるのに何年かかか。ln2/ln1.02 =35年である。ところが日本では1956年ごろから少子化傾向がすすみ、近年の死亡率を勘案して人口置き換え水準(生死がバランスして人口が維持される)である合計特殊出生率(15歳から49歳の女性の年齢別出生率を合計したもの)は2.07人であるが、1974年に2.05人を切り、2005年は史上最低の1.26人となった。(欧州全体の平均合計特殊出生率は1.40である)少子化は日本のみならず東アジアでも進行し、韓国1.08、台湾1.12、香港0.97、シンガポール1.24である。今や人口問題とは、少子化、高齢化、人口減少の三現象となった。人口学とは狭義には「形式人口学」をいい「人口の数、分布、構造、変化を問題とする統計的研究分析が中心」、広義には「人口現象と他の社会、経済、政治的現象などの要因との関係の調査研究」も含める。

さて人口学の基礎は「人口変動要因の三要素」として、出生・死亡・移動を考える。その中で結論的には日本での転入・転出の移動は差し引きが小さいので本書では考察しない。出生と死亡の二つが重要で、一般に出生と死亡の格差の僅かな違いが、長い期間で総人口の大きな差となるのが人口現象の特色である。次に重要なのが人口構造すなわち男女と年齢別構造などの属性である。人口構造の属性には男女・年齢・配偶関係・教育程度・人種・労働力状態・産業職業・居住地域などである。人口構造で典型的なものは男女別の年齢構成である。普通「人口ピラミッド」と呼ぶが、縦軸に年齢を横軸に人口数を示した。現在ではピラミッド型はしていない。1950年にはピラミッド型であったが、2005年には中太りの団塊ピークが二つある兜型、2050には下絞り上太りの壺型になるだろうと予測されている。年齢構成では人口高齢化である。65歳以上の老人人口比率が10%を超えると高齢化社会と云う。日本で老人人口比率が10%を超えたのが1990年である。2005年の今では20%となり、2050年には40%になると予測される。何人の労働人口(15歳から64歳)で一人の老人を養うかと云う扶養係数は1990年で5.8人、2005年で3.3人であった。人口変動の最大の要因は出生率の変化で、死亡率の変化の影響は少ないとされる。しかしあるレベルまでの医学水準に達する過程で、乳幼児死亡率の減少が平均寿命の伸長につながった。そして高齢化の最大要因は出生率の低下による。過去50年の日本のように、合計特殊出生率が2.1以下に低下しても、死亡率がそれ以上に低下すれば人口は寧ろ増加すると云うメカニズムが働いた。

文芸散歩 「平家物語」 佐藤謙三校註 角川古典文庫

2008年06月10日 | 書評
日本文学史上最大の叙事詩 勃興する武士、躍動する文章 第64回
平家物語 卷第十一

逆櫓
元歴二年正月十日、九郎判官義経、後白河院に平家追討を奏問し三年余りの源平の戦いに終止符を打つ決意を伝えた。二月三日義経の軍は摂津福嶋において船揃えをし、兄の三河守範頼も摂津国神崎に船揃えをした。二月十六日船を修理して船を出す時、侍大将梶原平三景時は船の回転を良くするため「逆櫓」を立てようとしたところ、義経は逃げるための櫓は必要ないと反対した。ここから義経と梶原の内輪もめが始まり、義経の運命にもかかわる梶原の義経に他する怨念が生じるのである。義経は梶原ら二百艘の船を置いて、たった五艘で阿波へ向って出発した。同行したのは、伊勢の三郎義盛、奥州の佐藤三郎兵衛嗣信、四郎兵衛忠信、江田源三、熊井太朗、武蔵坊弁慶、金子十郎家忠、伊豆の田代冠者信綱、後藤兵衛実基・新兵衛基清親子らであった。軍の規律を大将自ら破ったことになり、侍大将という指揮官を抜きにしては軍は動かないので、大将の親衛隊だけで戦に出かけたことになる。この辺が義経の異常さであり、勇敢さでもあった。

勝浦合戦
二月十六日、五艘の船と馬九十騎で阿波の勝浦に上陸した義経は、まず伊勢三郎義盛に現地の侍で案内役を連れてこさせた。坂西近藤六親家を屋島への案内とした。勝浦の平家方である桜庭介能遠を討って門出の戦とした。

自作漢詩 「渡頭風景」

2008年06月10日 | 漢詩・自由詩


臨流撒網有漁     流れに臨んで網を撒じる 漁翁有り

釣客乗舟迹已     釣客舟に乗て 迹已に空し

破土龍孫微雨後     土を破って龍孫 微雨の後
 
裂風燕子乱雲     風を裂いて燕子 乱雲の中

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(赤い字は韻:一東 七言絶句平起式  平音は○、仄音は●、韻は◎)
(平仄規則は2・4不同、2・6対、1・3・5不論、4字目孤平不許、下三連不許、同字相侵)

CD 今日の一枚 テレマン「ハンブルグ四重奏曲(1730)」

2008年06月10日 | 音楽
テレマン「ハンブルグ四重奏曲(1730)」
フルート:有田正広 ヴァイオリン:寺神戸亮 チェロ:上村かおり チェンバロ:ルセ 
DDD 1995 DENON

四重奏曲のメロディ楽器はフルートとヴァイオリン、通奏低音はチェロとチェンバロではあるが、4つの楽器に比重は等しく対等有機的に絡み合っている。フランスロココ風の典雅なギャラント、ドイツ的ポりフォニィーや舞曲も取り入れて多彩な魅力に富んだ曲である。1738年のパリ四重奏曲へ繋がっている。演奏は今注目の「東京バロックアンサンブル」の人々である。