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京都精華大学教員・住友剛のブログ。
関西圏中心に、教育や子ども・若者に関する情報発信を主に行います。

「量産型モビルスーツ」の生産のような今後の教員養成??

2017-05-23 08:20:13 | 学問

この土日(5月20日・21日)と、東京・玉川大学まで出張しておりました。

一般社団法人私立大学教職課程協会(全私教協)の定期総会&研究大会というものに、うちの大学の教職課程科目担当者として出席したわけですが。

そこに出ていて感じたこと、ここに書いておきます。

まあ、これから文科省が各大学を通じて進めて行こうとしている「教員管理政策の動向」にかかわることですが・・・。

まず、当日、他大学の知り合いの教員ともちらっと話をしたのですが、どうやら文科省は今後の教員養成において「量産型モビルスーツみたいな教員」をつくりたいようです。

しかも、そのための理屈づけに「大学の質保証」システムの構築と、医師その他の国家資格を必要とする職業に教員を近づけていくという、そんな「専門職教師」論、そして「多忙化解消」談義をくっつけたような話をしております。

また、その「しかけ」としてでてくるのが、「教職課程コアカリキュラム」という発想ですね。なお、このコアカリキュラムづくりに、一部の教員養成大学関係者や教職課程科目の担当教員がすでに「動員」されています。「教員養成の専門家のみなさんのご意見も聴いて聴きました」という形をとっているわけですね、はい。

この「教職課程コアカリキュラム」ですが、要するに、国公私立のすべての大学の教職課程で、それぞれの免許取得対象者に最低限、各科目で取り扱うべき内容をある程度、具体的に決めて、それをシラバスに盛り込ませる。そのときに他の国家資格、たとえば医師免許ではこんなことしているでしょ、獣医師でもこういうカリキュラム組んでるでしょ・・・みたいな話をするわけですね。

たとえば従来の「教科教育法(社会科教育法)」では、「学習指導要領の内容に関することは必ず扱え」とか、「その教科でのICT教育に関することは必ずやれ」とか、そういうことを書きこんでくるわけです。あるいは、教職課程コアカリキュラムのなかに、「学校安全」に関する事項を盛り込もうという話もでています。そういう形で、うまくいけば「最低限、教員になるために知っておくべきこと」の水準が具体化され、確保されるというメリットが、このコアカリキュラムにはないわけではありません。そのため「一概にダメとは言いづらい」という面があります。

ただ、その「教職課程コアカリキュラム」の内容がシラバスに盛り込まれ=再課程認定や新規の認定でそれがチェックされるとともに、今後、担当教員もそれに関連する業績を持っているかどうかをチェックされますし、今後の文科省の各大学での実地視察なんかでもそのあたりを見る・・・ということが十分、予想されます。

なおかつ、文科省はこの春、つくばにあった教員研修センターを再編した「独立行政法人教職員支援機構」をつくりました。将来的には、ここで「教職課程コアカリキュラム」の内容理解を中心としたテストを開発して、どうやら先々、各都道府県・政令市等がやっている教員採用試験の「統一の一次試験」みたいなものをやろうとしている様子です。それも「学校現場や地方教委の教員採用試験の負担、たいへんでしょう。それを国が肩代わりします・・・」ということと、「公教育を担う教職員の質保証」という理屈をつけてやるわけですね。「他の国家資格だって、国レベルでの統一試験やっているわけですから」という話も、ここに加わります。

さらに、この「教職課程コアカリキュラム」で身に付けた基本的資質の土台にたって、「地方独自の課題に対応した養成・採用・研修の一体化」をする。そこで、都道府県教委や政令市教委が主導する形で、「教員育成指標」をつくるための協議会が今後、つくられることになります。そこで、各地域での教委側の要請と、大学側の思惑とをすりあわせたかたちで、各地域独自の教員養成をするわけですね。すでに東京都が小学校教員の養成に関して、独自の指針みたいなものをつくっているようですが・・・。

・・・という具合に、ここまで書いたことでおわかりいただけるかと思いますが、大学側の学問や研究・教育の自由度を「公教育における教職員の質保証」という観点から、文科省と地方教育行政の両面からある程度まで「制約」しかねないということ。その結果、私の目から見たら、「量産型モビルスーツのような教員」を「質が保証された専門職教師」として、大量に学校現場に送り出したい・・・という意図がうかがえるわけですね、はい。もしかしたら学校現場に今、必要なのは「量産型モビルスーツではなくて、プロトタイプのガンダム、ガンタンク、ガンキャノンかもしれない」という発想は、そこにはありません。

しかも、これって戦後日本の大学における教員養成の根幹にもかかわるような大改革なのですが、「これをあと1か月ちょっとで具体化して、やれ」という、そういう「むちゃくちゃなこと」をやろうとしているわけですね、文科省。もちろん、教育再生実行会議などで方針がでてから一定の月日がたつわけですが、それでも、やはりていねいな議論を蓄積するには時間がかかるわけで・・・。おそらく、何かが見切り発車されることは、十分、予想されます。

そして、こういう構造・構図のなかで教員養成改革行われているのを、従来の「専門職教師」論や「多忙化」談義やっている人たちが十分に捉えきれているのかどうか。

「専門職としての教師」等々、佐藤学さんあたりが言うてきたことなんて、なんかここのところの大学教員養成の質保証なんていう怪しげな文科省の管理政策とくっついて、ヤバい流れに巻き込まれているような、そんな気すらしてきたんですけどねえ・・・。

おそらく、この手の「質保証された量産型モビルスーツみたいな教員」には、「管理職や教育行政のしていることがおかしいと思ったら、異議申し立てをする」なんてプログラムは、入ってこないんだろうなあ。あるいは、「現場で起きている問題でマニュアルにないことは、自分で何が適切かをその場で判断して行動する」なんてことも、きっとここでいう「質保証」には「なじまない」といって、切り捨てられるんだろうなあ。そんなことに、従来の「専門職教師」論が接続されて、いいのかしら??

いずれにせよ、私立大学の教職課程担当者として、これから次々に押し寄せる「激動」の波をかぶることは、避けられないなあ・・・と思ったのでした。



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