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京都精華大学教員・住友剛のブログ。
関西圏中心に、教育や子ども・若者に関する情報発信を主に行います。

神戸市総合教育会議が10月17日付けで出した「今後の方向性」に「対案」を出してみる

2019-10-18 23:38:31 | 受験・学校

今日はお昼過ぎに大学での仕事を終えたあと神戸・三宮まで出て、この間、例の神戸市須磨区の小学校で起きた教職員間いじめ問題について、知人たちと意見交換、情報共有を図ってきました。

その際、10月17日付けで神戸市の総合教育会議(市長と市教委がメンバーで、市長が招集)が出した「今後の方向性」なるものがあることを知りました。その概要を紹介しますと、だいたい以下のとおりです。

○神戸市総合教育会議「今後の方向性」(2019年10月17日付け)

  1. 調査委員会による事実解明を早期に行う(メドは年内)。明白な事実はその都度速やかに公表、説明責任を果たす。
  2. その上で、関係職員に厳正な処分を行う。
  3. 被害教員に対するケアの実施、当該小学校の子ども・保護者に寄り添った対応。
  4. 今回のケースは教委のガバナンス欠如に問題あり。教委と学校現場の連携、外部人材の登用等の抜本的な見直しを行う(このなかに校長の人事に対する意見具申も含まれているのかと)。
  5. 学校や教育行政の積極的な情報発信(どうも市教委のホームページのリニューアルらしい)
一見、この間、私がこのブログで書いたことと似たようなことを書いているような気もするんですが…。
でも「私ならこう書くなあ」と思うところがあるので、あえて「対案」を次のとおり書いておきます。それを書くと、この「今後の方向性」がどういう理念、哲学や思想、状況判断にもとづいて書かれたのかが一目瞭然なので。

○住友の「今後の方向性」に対する「対案」(2019年10月18日)
  1. 市教委としての被害教員への謝罪、事実経過の説明、必要なケア等に関する対話の実施(そもそも、ご本人の望むことをまずは確認する必要あり。それなしに、市教委側からケア、ケアといっても…ご本人は不信感を抱くのはないか、と思うのです)。
  2. 当該小学校の子ども及び保護者、地元住民への謝罪、事実経過の説明、今後の学校再建に関する要望・意見の聴取(子どもたちや保護者、地元住民は、この学校を今後、どうしてほしいと願っているのか。そのことについてまずは把握する必要がある)。
  3. 当該小学校の残っている教職員への聴き取り、今後の学校再建に関する要望・意見の聴取(これから当該の学校の教職員たちはどういう形で学校を再建していきたいのか、それを把握する必要がある)。
  4. 2と3をふまえたかたちで、今後5~10年近くの中長期的な展望にたった学校再建計画をつくり、市教委及び当該の学校として着実な実施をはかる。また、そのために外部の専門職の支援を得たり、あるいはこの学校再建計画づくり及びその実施と連携する形で子どもたちのケアを実施する(学校の教育活動が再建されていくプロセスへの子どもの参加・参画と、子どもたちの心理的ケアを両立させる必要があるのではないかと。また、いま、小1の子どもたちがその小学校を卒業するころか、その先の地元中学校を卒業するころまでは、様子を見守る必要があるでしょう)。
  5. 加害教員及び他の教職員に対する事情聴取と、そこから明らかになった事実経過及び背景要因の分析をふまえて、適切な再発防止策をつくり、全市的に実施する。そのために、当該の案件に対する調査は、弁護士主体の調査チームではなく、教育学や心理学、精神医学などの諸領域の専門家によるチームによって行う。(前にも書いたとおり、弁護士主体のチームでは、コンプライアンス=法令遵守や懲戒処分に関する事項ばかりを調べることになり、学校の再建や教職員の人間関係の改善、教職員の人間的成熟への支援につながるような調査・検証作業にはなかなかならないかと思います)。
  6. 5の結果をふまえたかたちで、厳正な処分を実施する(さっさと処分してしまってクビにしたら、かえって事実は隠されます)。また、調査・検証作業が終わるまでは、不適切な情報公開は行わない。報告書のかたちでまとまってから、調査・検証作業の結果を開示する(今も当該の学校及び近隣の学校、市教委などに対して、この件で何か報道があるたび苦情電話が殺到し、関係職員が困惑している状態にある。その都度その都度何か公表することは、そのよくない状況をさらに拡大するのみである)

いかがでしょうか? 私のつくった「対案」は、次の4点を基本方針としてつくっています。

①被害にあった教員への謝罪と今後のケアに関する当事者との対話の継続。
②当該の小学校の教育の再建。その再建プラン作りには子どもたちと保護者、残っている教職員の参加・参画を促す。子どもたちのケアも、このプラン作り及びその実施過程と併行して行う。
③法的対応だけでなく、教育学的・心理学的観点からの調査・検証の実施と、それをふまえた再発防止策の実施。
④すでに起きている学校・教委バッシングを抑制しつつ、同時に適正手続きにもとづいた処分を実施する。
 
 
こういう対案をつくってみたらすぐにわかるのですが、神戸市の総合教育会議が10月17日付けで出した「今後の方向性」は、「とにかく、加害教員の処分を一日も早くやってしまって、世論を鎮めてしまおう」という思いばかりが先行しているように見受けられます(でもそれって、誰かを処分して切ってしまって、早く忘れてもらおう…というタイプの「事態の沈静化」策なんですけどね。桜宮高校事件でとられたのと同じ手法のようにも思われます)。

その一方で、被害にあった教員へのサポートや当該の学校に通う子ども・保護者への目配りは不十分です。これでは、地元の保護者や住民は動揺するでしょうし、そういう動揺するおとなたちに接して子どもも不安定になってしまうでしょう。被害にあった教員の方も、神戸市側がいう「ケア、ケア…」に対して、さまざまな思い(不信感や憤りを含む)を抱くかもしれません。

これに加えて、神戸市として当該の学校の教育活動の再建をどのように考えているのでしょうか? そこについても、具体的なプラン作りの芽すら今は見えていないような状況ですね。それでいいのでしょうか…。

さらに、まだ調査も十分に行われていないのに、現時点ですでに「ガバナンス欠如」という決めつけが行われ、それを前提にして、総合教育会議のメンバーの誰の発案かわかりませんが、でも、なんらかの改革を行おうとしています。もしもそのやろうとしている改革の中身がまちがっていたら、どうするんでしょうか?

そして、市教委のホームページのリニューアルですか。それは今、考えなければいけないことなのかと…。

いろいろとバッシングを受けて苦しい状況もわかるのですが、でも神戸市の総合教育会議のみなさん、今一度「冷静に」なって、本当にこの「方向性」でいいのかどうか、手直しをはかってください。私は、まずはそのことをお勧めしたいと思います。上述のとおり、私なら全面的にこの「方向性」を書きなおしますよ。

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