緑陽ギター日記

趣味のクラシック・ギターやピアノ、合唱曲を中心に思いついたことを書いていきます。

知られざるもう一人のパリコン作曲部門邦人入賞者

2023-05-11 23:07:03 | ギター
先日、古いギター雑誌のバックナンバー(1976年)を何気なく読んでいたら、興味深い事実に出くわした。
1976年10月21日、第18回パリコン(パリ国際ギターコンクールの略称、1993年に幕を閉じたが、それまで最も権威のあった国際ギターコンクール)の作曲部門で、作曲家、ギタリストの朝見昇氏の作品「ソロギターのためのネブラス(星雲)」が第1位(優勝)の栄誉に輝いたことが報じられていた。



この記事を読んだとき、意外な感じがした。
まず一つは、パリコン作曲部門で入賞(1位と2位のみ)した邦人作曲家による曲は、野呂武男氏(1925–1967)の1964年(第6回)、「ギターのためのコンポジションⅠ「永遠回帰」」(第2位受賞)のみだとだとばかり思っていたからだ。





もう一つは、朝見昇氏といえば、ギタルラ社ギターピースの裏表紙の作品リスト中、「シューマン、子供の情景」や「朝見昇作品集」(絶版)、そしてこれは10年くらい前に銀座のヤハマの楽譜売り場で奇跡的に販売されているを入手した「序奏とロンド」の楽譜でしか、そのお名前を知っていなかったからだ。
それ以外の情報は全くといっていいほど無かった。





「序奏とロンド」はかなり前衛的な作品。高い演奏技巧を要求される上に、音楽的にも理解困難な曲だ。





この1976年の記事を読んだのが先日5月5日の夜だったのだが、確か10年以上前にヤフオクでギタルラ社刊の「シューマン、子供の情景」や「朝見昇作品集」が中古楽譜として出品されていたのを思い出した。
もしかしてだめもとと思いつつも、ヤフオクで「朝見昇」と入力したら何と「朝見昇作品集」が出品されているではないか。これは奇跡的なことだった。
早速落札して購入したが、残念ながらこの作品集の中には先のパリコンで第1位を獲得したした「ソロギターのためのネブラス(星雲)」は収録されていなかった。



しかしパリコンのような権威のあるコンクールで優勝した作品が何故全く今日まで知られずに埋没してしまっていたのが不思議といえば不思議であった。
そこで現代ギター誌のバックナンバーで調べてみるとこんな事実が浮かび上がってきた。
現代ギター1976年12月号の「第18回パリ国際ギターコンクール」の速報記事によると以下の記載があった。
「10月21日、この日は作曲部門の本選と、審査中の時間を利用して過去の優勝者による一晩のリサイタルが行われる。夜8時、東ドイツから招かれた1972年の優勝者モニカ・ロストが、本年度作曲部門の公開審査のために、本選に残った2作品を演奏した。最初は日本からの出品で、SETAGAYA(仮名)による”NEBULAS”、弦倉の部分を頻繁にかき鳴らさせる、いわば前衛的な作品」。
そして審査結果は「第1位 NEBULAS」、「作曲者は在日韓国人らしい」と記載されている。
そしてパリコンが中止された1993年の後、現代ギター1994年2月号の記事には作曲部門で入賞した日本人は野呂武男氏しか名前が記載されておらず、「朝見昇」の名前は一切無かった。



この記事で過去の全ての入賞者のリストが掲載されていたが、1976年、第18回大会の作曲部門、第1位の曲名と作者は、「Nburasu (DUBELI PARK)」となっていた(ちなみに第2位該当なし)。



ここにも朝見昇氏の名前は無い。
では一体、DUBELI PARKなる人物は一体誰なのか?。
恐らくではあるが、本選に残った2作品のうち、朝見昇氏でない方の作品(作曲者は英国人らしい)の作者の名前を誤って記載してしまったのではないか。
審査発表が正式にされる前の”NEBULAS”の作曲者の仮名はSETAGAYAとなっていたようだが、ヤフオクで手に入れた「朝見昇作品集」の巻頭に記載されていた朝見昇氏の住所(1966年当時)が東京都世田谷区となっていたことからすると、この”NEBULAS”の作曲者は朝見昇氏であることは疑う余地の無いことであろう。



この「ソロギターのためのネブラス(星雲)」という曲は楽譜も出版されなかったようだし、そもそも朝見昇氏の情報がインターネットでは皆無に近い。
ギター・ニュース(Guitar-News)という海外の雑誌の1966年のバックナンバーがインターネットで見ることが出来たが、そこに朝見昇氏と「朝見昇作品集」の概要が紹介されているのが見つかったくらいだ。

パリコンで優勝した「ソロギターのためのネブラス(星雲)」という曲がどんな曲なのか、確かめようがないが、ギター曲に限らず、前衛時代の現代音楽による手法の曲は陽の目を見ずに埋没してしまった曲が膨大にあるように思う。
現代ギター誌で優勝者の名前「朝見昇」が正確に公表されなかったのが惜しい。

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2 コメント

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Unknown (けんいち)
2023-05-15 00:43:51
NEBULASはパリコン優勝の時、NHK-FMで放送されたのを聴いたことがあります。解説ではDUBELI PARK作曲、日本名 朝見昇と言っていたように記憶しています。私は韓国系の日本人かと思っていました。あとその翌年、田村洋さんの「オリエンタルダンス」という曲が入賞していたような記憶があります。(ウィキペディアにも記載がありました)この曲もNHKで放送されました。
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Unknown (緑陽)
2023-05-15 22:06:17
けんいちさん、こんばんは。
「朝見昇ギター作品集」の解説には、1921年北朝鮮新義州に生まれる。1942年東京声専音楽学校卒業後、作曲を下総皖一、岩井宏之。夏田鐘甲らに師事し、ギターを小原安正に師事す。と記載されていました。
この曲集が出版されたころは、東京世田谷でギター教室をやっておられたようですね。
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