緑陽ギター日記

趣味のクラシック・ギターやピアノ、合唱曲を中心に思いついたことを書いていきます。

2014弦楽器フェアに行く

2014-11-03 01:26:50 | ギター
今日朝起きたら快晴だったが、午後は今にも雨が降りそうな気配。しかし11月にしては暖かい1日であった。
東京科学技術館で開催されている、2014弦楽器フェアに行ってきた。
弦楽器フェア(昔は確か手工弦楽器展と言ったと思う)も1990年代初めから行き始めたので、かれこれ20数年にもなる。
20数年の間に展示される楽器もかなり変わった。現在も継続して展示しているのは、桜井正毅氏、今井勇一氏くらいか。昔は、斉藤講堂氏、荒井勝巳氏、佐藤眞比古氏、山下昭彦氏などの個性的な楽器も弾くことができたが、今は展示されなくなった。
20数年間の間で展示された楽器で印象に残っている楽器と言えば、1990年代前半の松井邦義氏、1990年代半ばの尾野薫氏の最初の展示楽器、1990年代半ばの山下昭彦氏であろうか。
松井氏の楽器は少し小ぶりであるが音量があり、単音、和音ともにバランスがあり、とにかく弾きやすく思うように表現できたのが良かった。
尾野薫氏の楽器は音にとても色彩感があり、多彩な表現が出来る楽器だった。今までにない個性的な楽器だと思った。尾野氏はこの時の展示会で高い評価を受け、その後注目されるようになったと思う。アンケートでも高く評価する意見を書いている方を見たことがある。
山下氏の楽器はとにかく手作り感の強い楽器であった。音の全てを材料から引き出すことを求めているのではないかと思うほどの楽器らしい楽器。弦の張りは強く弾きにくかったが、音に独特の芯があった。
さて今日は昼の12時くらいに会場に着いたのだが、すぐにマンドリンの試奏コンサートがあるのでこれを聴くことにした。マンドリンとギターのデュオであったが、意外にマンドリンとギターの相性はいい。
昨年惜しくも亡くなった稲垣稔氏もご夫人がマンドリン奏者であり二重奏もやっていたようだ。7、8年前の弦楽器フェアでお二人を見かけたことがある。
私はマンドリンは全然弾けないが、展示品のマンドリンを少しだけ弾いてみた。鈴木静一の「交響譚詩 火の山」の一節を弾く。
マンドリン・コンサートが終わったあとすぐにギターの試奏コンサートだったのだが、すごい行列を作って観客が待っていたので断念し、1時間後の2回目の演奏で聴くことにした。
そこでクロサワ楽器のブースへ行き、超高級ギターである、ハウザー、フレタ、スモールマン、ベルナベを弾かせてもらった。
フレタは今日かぎりの特別価格とのことであったが、この楽器としては驚くほどの価格であった。買った人はいるのだろうか。1969年製で、音はフレタにしては思ったより軽めであったが、立ち上がりが早くフレタらしい分離の明確な音であった。
ハウザーはカトリン(Ⅳ世)とⅢ世を弾かせてもらったが、意外に楽器の重量は軽く、音も想像以上に軽い。昔(1980年代始め)のハウザーはもっと音が重かった。音の立ち上がりが悪く、コンサートでは使いにくい楽器ではないか。
スモールマンは去年も弾かせてもらったが、まず楽器の重量がとてつもなく重い。そして驚いたのは指板の表面板と接する箇所(15Fくらいのところ)に直径5ミリくらいの穴が開いており、この穴から工具を差し込んで、ネックに角度を変えられるそうである。さらに驚いたのはネックと胴体が分離できる構造だそうだ。ネックと胴体の接する部分にわずかではあるが隙間があった。
肝心の音であるが、やたらエコーのかかった無機質の音。音量があり、立ち上がりも早いから弾いていて爽快感を感じるが、6弦は太鼓の音のようにボンとなってすぐに減衰し、高音は少しタッチを強くするとピシャンと弦が跳ねてしまう。ハイ・ポジションの音は全然魅力がない。このギターはタッチが弱い人が全てアルアイレで弾くのに向いていると感じた。
この海外製ギターの試奏に気を取られて、2時からのコンサートのことをすっかり忘れてしまった。気が付いた時にはコンサートが終っていた。なので今回はホールでの音の出来を鑑賞することが出来なかった。
さて本題の展示楽器の感想であるが、コンサートを聴き逃したこともあるので、最も印象に残った楽器を1つだけ選び、感想を述べさせて頂くことにしたい。
最も印象に残ったのは井内耕二氏の楽器である。去年に続いての出品であったが、今年の楽器は格段に進歩していた。去年の楽器は、低音の伸びが進化していたが、高音の9F以上の抜けが今一つで、またポジションによる音のムラも多少あった。
今年の楽器とは言うと、低音は去年よりも更に伸びと力強さが加わり、高音は13F以上のハイポジションもとても良く鳴っていたことである。高音はさらに透明感もあった。ポジションによる音のムラも完全ではないにしても去年よりは改善されていた。
曲を弾いてみてもノリが良く、気分のいい演奏ができた。
井内氏の楽器を初めて弾いたのは恵比寿のシャコンヌで2006年製を弾かせてもらった時であったが、その時の楽器は6弦開放が太鼓の音のように伸びが無く、高音の鳴りもまだまだであった。
当時はアマチュアからプロに転向したばかりの頃だったからだと思うが、8年間でこれだけの進歩は凄いと思う。
ギターのような手工楽器の品質を個体差なく、毎年維持または向上させていくことは至難だと思う。これを可能にしているのは、このフェアで出品している製作家の中では桜井正毅、今井勇一、横尾俊佑の3氏である。
なお今回、幻の製作家として楽器通の間では知られた、中山修氏のバンブー・ギター(竹製のギター)が出品されていた。
中山修氏はホセ・ラミレスⅢ世の工房で修業した唯一の日本人製作家兼演奏家と言われていたが、楽器製作家としてスタートした矢先に不慮の交通事故で体が麻痺してしまい、断腸の思いで製作を断念した不運な経歴を持つ方だ。
しかし製作をあきらめることができず、加工しやすいバンブー製の楽器を開発したとのことである。
今日初めてこのギターを弾いてみたが、意外に音量があった。低音は音の伸びも普通の楽器と比べて遜色無いと感じたが、高音はやや音の鳴りが抑え気味であった。竹製であるが見栄えは悪いどころか、白い綺麗な木目であった。

たった数分の試奏で楽器の良し悪しを完全に判定などできるものではなく、本当の楽器の価値は実際に所有して数年間弾き込んでみて初めて分かるものだと思う。
私は何本か楽器を持っているが、これまでの経験では、いい材料を使っている楽器、それも伝統的な工法で製作している楽器は弾き込むにつれて音は確実に良くなっていくことである。
昔、国産の中級ギターを長く弾いていた時には弾き込んでも良くなることは無かった。だから弾き込みによる音の進化には懐疑的であったが、収入も上がりそれなりの楽器を持てるようになってからは考え方が変わった。

エス・アイ・イーのブースでタイ製の頑丈なギター・ケースを見せてもらった。社員にいろいろ説明して頂いたが、最近出回るようになったとのこと。ただ、まだ1本しか入荷していないのと、基本的に注文製作なので値段はかなり高い(10万円以上)とのことだ。素材は頑丈で試しにケースの上に乗せてもらったが、全然たわまない。しかし重量は軽い。もしかするとBAMよりも優れているかもしれない。

科学技術館を出て武道館に向かうと殆どが女性だけの大軍が九段下の駅の改札口から押し寄せていた。これほどの人数の女性の大軍に出くわしたことは今だかつてない。TOKIOというグループのコンサートがあったようだ。

帰りは神保町に寄り、古本まつりを見て回った。宮崎丈二の詩集を1冊購入し帰路についた。


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2 コメント

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Unknown (Tommy)
2014-11-03 08:50:27
弦楽器フェアの報告とても参考になりました。今回初めて参加したのですが、事前にこのようなお話をお聞きしていれば見学も意義あるものになっただろうと思いました。
初日の31日午前中に行ったのですが私のブログhttp://slowlifetommy.seesaa.net/article/408087350.htmlに書いたのですが、初心者の悲しさでした。

井内耕二氏のギターについてのコメント、とても嬉しく思います。当日多くの製作者の方の中で最も好印象だったので思い切ってギターについてお話を伺わせていただいたところ親切丁寧に長時間素人に相手していただきました。ギターの評価は難しいですが人としても素晴らしい方だと思いました。
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Unknown (緑陽)
2014-11-03 17:53:26
Tommyさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
Tommyさんも弦楽器フェアを見に行かれてたのですね。
井内耕二さんと長時間話す機会があったとのこと、うらやましいです。
私が試奏していた時は井内さんはあいにく不在でした。
ユーザーの話を熱心に聞く、いい製作家ですね。
元々アマチュア出身の製作家なのに、あれだけの音を引き出せることに驚きました。
Tommyさんのブログ、拝見させていただきました。
私のブログはくせがあり読みにくいですが、Tommyさんのブログはあたたかいですね。
今度、時々お邪魔しようと思っております。
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