12月3日に久しぶりにチャイコフスキー作曲、交響曲第6番「悲愴」を聴いて、30数年前の20代半ばのあの時代の記憶が蘇ってきた。
この2週間で37枚の「悲愴」のCDを聴いた。
寝る間も惜しんでよく聴いたものだと思う。 この鑑賞、まだまだ続きそうだ。マンドリン合奏の練習もそっちのけだ。 まるで本能が求めているかのように。
この2週間で買いあさった中古CDの解説を読むと色々なことが分かってきた。 ベルナルト・ハイティンク指揮のCDの解説から抜粋してみたい。
「1893年2月22日、弟のアナトールに宛てた手紙の中で、チャイコフスキーは初めて<悲愴>交響曲についてふれており、更に次の日ウラディーミル・ダヴィドフに宛てて一層詳しくこの曲について記述している。
「(1892年12月)パリ訪問の旅に出発しようとしていた時、新しい交響曲のアイデアが浮かんだのです。今度は標題つきです。その標題はすべての人に謎のままであるべきで、想像できる人はすればよいのです。曲は”プログラム・シンフォニー”と名付けるつもりです。この標題は全く主観的なものです。
旅行の間、私は頭の中で作曲しながら、何回となく涙を流しました。今再び家に戻って、曲のスケッチを書き下ろしていますが、とても熱が入って第1楽章は4日間で仕上げてしまいました。残りの楽章もすっかり頭の中に出来上がっています。」」
初演は1893年10月28日、作曲者自身の指揮により行われた。 リハーサルの時、オーケストラのメンバーはこの曲を理解できず、冷たい対応だったという。 また初演時の聴衆の反応もチャイコフスキーの他の作品が受ける熱心な反応にはとても及ばなかったと言われている。
そしてこの曲の初演の9日後の1893年11月6日、コレラと肺気腫により死亡する。 このコレラの感染も初演から4日後に行われた観劇後の会食時に周囲が止めるにもかかわらず生水を飲んだことが原因だとされている。
1970年代の半ば頃だったと思う。たしかクリスマスのお祝いのあと、夜遅くにある映画がテレビで放映されていて、家族で見た。小学校5年生か6年生のときだ。 その映画はチャイコフスキーの生涯を描いたものだった。今でもかなりストーリーは覚えている。 チャイコフスキーは彼の熱烈なファンの女性と結婚したが、破綻し、その女性が精神病院に入れられたことや、自信を持って作曲したピアノ協奏曲第1番をアントン・ルービンシュタインから酷評されたこと、同性愛者であることが支援者の金持ちの夫人にばれて失望されたこと、最後はコレラに感染し、熱湯の風呂に入れられたが甲斐なく死んでしまったシーンが浮かんでくる。
チャイコフスキーは長きに渡って鬱病をわずらっていたという。 この「悲愴」から、鬱病特有のもがき苦しむような辛さが伝わってくる。 経験した人でないと理解できない苦しみだ。 反面、人生の幸福の極致のように感じられる音楽も描かれている。それは第1楽章や終楽章のあるフレーズに現れている。この部分を聴くと、物凄く脳が覚醒してくる。
思うにチャイコフスキーは長きに渡っていやというほどの精神的苦痛を味わってきたと同時に、作曲活動を通して自己の才能の全てを表現し、世間に問うという普通の人では体験できない喜びも感じてきた。 「悲愴」は彼の生き様そのものを表したものだと思う。
「悲愴」は決して絶望ではない。 この曲はチャイコフスキーという人間の人生の二極性を表現したものに違いないと思う。
私はこの曲を聴くと、もがき苦しんだあの時代の感情や光景がよみがえってくるとともに、幸せだった思春期までの頃に味わった感情も湧き起こってくる。 そして聴き終わったあとに、何とも言い難いが、一種のカタルシスを得たような感覚を得る。
この2週間で聴いた録音のリストを中間報告として挙げておく。 黄色表示の演奏がとくに印象に残ったものであるが、今後鑑賞を重ねていくうちに変わっていくかもしれない。 そしていつになるか分からないが、自分で選んだベスト盤を記事に取り上げたいと思っている。
指揮者 | 楽団 | レーベル | 録音年 | 録音形態 | 録音場所 | 視聴年 |
ユーディ・メニューイン | ロイヤル・フィルハーモニック管弦楽団 | mcps | 記載無し | スタジオ | 記載無し | 2021-12 |
ヴァレリー・ゲルギエフ | ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 | PHILIPS | 2004.09 | ライブ | 2021-12 | |
エーリヒ・クライバー | パリ音楽院管弦楽団 | LONDON | 1953.11 | 2021-12 | ||
ヘルベルト・フォン・カラヤン | ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 | グラモフォン | 1984.01 | スタジオ | ウィーン | 2021-12 |
小澤征爾 | パリ管弦楽団 | PHILIPS | 記載無し | スタジオ | 記載無し | 2021-12 |
シャルル・ミュンシュ | ボストン交響楽団 | RCA | 1962.03 | ボストン | 2021-12 | |
アルトゥーロ・トスカニーニ | NBC交響楽団 | RCA | 1953.01 | ニューヨーク | 不明 | |
ロヴロ・フォン・マタチッチ | チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 | コロンビア | 1968.02 | プラハ | 2021-12 | |
ヴァレリー・ゲルギエフ | サンクトペテルブルク・キーロフ歌劇管弦楽団 | PHILIPS | 1997.07 | フィンランド | 2021-12 | |
ヘルベルト・フォン・カラヤン | ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 | グラモフォン | 1976.05 | ベルリン | 2021-12 | |
エフゲニー・ムラヴィンスキー | レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団 | グラモフォン | 1960.09 | ウィーン | 2021-12 | |
グィード・カンテッリ | フィルハーモニア管弦楽団 | EMI | 1952.11 | ロンドン | 2021-12 | |
ヨーゼフ・ウィレム・メンゲルベルク | アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 | LYS | 1937 | 2021-12 | ||
カルロ・マリア・ジュリーニ | ロスアンジェルス・フィルハーモニー管弦楽団 | グラモフォン | 記載無し | 記載無し | 2021-12 | |
レナード・バーンスタイン | ニューヨーク・フィルハーモニック | グラモフォン | 1986.08 | スタジオ | ニューヨーク | 2021-12 |
朝比奈 隆 | 大阪フィルハーモニー交響楽団 | CANYON | 1990.12 | 大阪 | 2021-12 | |
クルト・ザンデルリンク | ベルリン交響楽団 | DENON | 記載無し | 記載無し | 2021-12 | |
エフゲニー・ムラヴィンスキー | レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団 | メロディア | 1949.04 | レニングラード | 2021-12 | |
クラウディオ・アバド | シカゴ交響楽団 | CBSSONY | 1986.10 | スタジオ | シカゴ | 1988.?? |
クラウディオ・アバド | ボストン交響楽団 | グラモフォン | 1973 | ハンブルグ | 2021-12 | |
イーゴリ・マルケヴィッチ | ロンドン交響楽団 | PHILIPS | 記載無し | 記載無し | 2021-12 | |
エフゲニー・スヴェトラーノフ | ソ連国立交響楽団 | メロディア | 1967 | 記載無し | 2021-12 | |
小澤征爾 | ボストン交響楽団 | エラート | 1986 | ボストン | 2021-12 | |
アントン・グター | リビュリアーナ・ラジオ・シンフォニー・オーケストラ | DDD | 記載無し | 記載無し | 2021-12 | |
エフゲニー・ムラヴィンスキー | レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団 | ビクター | 1982.11 | ライブ | レニングラード | 1989.?? |
エフゲニー・ムラヴィンスキー | レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団 | メロディア | 1950.2 | ライブ | 記載無し | 1989.?? |
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー | ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 | ジョイサウンド | 1938 | 1994.?? | ||
ジャン・マルティノン | ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 | ロンドン | 1958.04 | ウィーン | 1989.?? | |
ヘルマン・アーベートロート | ライプツィヒ放送交響楽団 | Deutschc schllpatten | 1952.01 | スタジオ | 1989.?? | |
ヘルベルト・フォン・カラヤン | ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 | ダイソー | 1948 | 記載無し | 1994.?? | |
ユージン・オーマンディ | フィラデルフィア管弦楽団 | RCA | 1968.05 | 1989.?? | ||
リッカルド・ムーティ | フィラデルフィア管弦楽団 | ANF | 1982.09 | ロンドン | 1989.?? | |
円光寺 雅彦 | 仙台フィルハーモニー管弦楽団 | DIGITAL | 1989.5 | 東京 | 1989.?? | |
ヘルベルト・フォン・カラヤン | ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 | グラモフォン | 1964.02 | ベルリン | 1989.?? | |
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー | ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 | グラモフォン | 1951.04 | ライヴ | カイロ | 2021-12 |
ピエール・デルヴォー | アムステルダム・フィルハーモニック協会オーケストラ | Audio Fodelity | 1959 | ライブ | 2021-12 | |
ヘルベルト・フォン・カラヤン | ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 | EMI | 1971.09 | スタジオ | 2021-12 | |
セルゲイ・クーセヴィツキー | ボストン交響楽団 | RCA | 1930 | 2021-12 | ||
フェレンツ・フリッチャイ | ベルリン放送交響楽団 | グラモフォン | 1959 | スタジオ | 2021-12 | |
セルジュ・チェリビダッケ | ミュンヘンフィルハーモニー管弦楽団 | EMI | 1992.11 | ミュンヘン | 未(注文中) | |
エフゲニー・ムラヴィンスキー | レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団 | ALTUS | 1975.6 | ライヴ | 東京 | 2014頃 |
サー・ゲオルグ・ショルティ | シカゴ交響楽団 | LONDON | 197505 | シカゴ | 2021-12 | |
ロリン・マゼール | クリーヴランド管弦楽団 | CBSSONY | 1981.10 | スタジオ | クリーヴランド | 2021-12 |
ベルナルト・ハイティンク | ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 | PHILIPS | 1978.10 | アムステルダム | 2021-12 | |
アンタル・ドラティ | ロンドン交響楽団 | Mercury | 1960.06 | スタジオ | ロンドン | 2021-12 |
マリス・ヤンソンス | バイエルン放送交響楽団 | SONY | 2004.06 | ライヴ | 2021-12 | |
ドミトリー・キタエンコ | ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団 | OEHMS | 2010.01 | スタジオ | 2021-12 | |
ヘルベルト・フォン・カラヤン | NHK交響楽団 | グラモフォン | 1954 | ライヴ | 東京 | 未(注文中) |
エリアフ・インバル | フランクフルト放送交響楽団 | DENON | 1991.02 | フランクフルト | 2021-12 | |
ウラジーミル・フェドセーエフ | モスクワ放送交響楽団 | JVC | 1981.06 | スタジオ | モスクワ | 2021-12 |
クルト・マズア | ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 | シルヴァーレーベル | 1986 | スタジオ | 未(注文中) | |
オットー・クレンペラー | フィルハーモニア管弦楽団 | EMI | 未(注文中) |
【追記202112180154】
ウラジーミル・フェドセーエフ指揮、モスクワ放送交響楽団の1986年、東京公演の録画がYoutubeにありましたので、貼り付けさせていただきます。
非常にレベルの高い演奏です。
[1986 Live] Tchaikovsky : Symphony No.6 / Fedoseyev & Moscow Radio Symphony Orchestra