緑陽ギター日記

趣味のクラシック・ギターやピアノ、合唱曲を中心に思いついたことを書いていきます。

2016年スペインギター音楽コンクールを聴く

2016-10-10 00:43:16 | ギター
今日(9日)、東京都台東区のミレニアムホールで、第34回スペインギター音楽コンクールが開催されたので聴きに行ってきた。
このコンクールも1991年に初めて聴いてから25年、仕事などで行けなかった数回を除きほぼ毎回聴かせていただいたことになる。
25年前と今と比べてレベルは上がったのか、と言われるとあまり変化を感じないというのが正直なところ。

今日は第2次予選の3分の2が終った頃に会場に到着した。
第2次予選の課題曲はマラッツのスペインセレナーデ(タレガ編)であった。
この曲を初めて聴いたのは、中学2年生の時にナルシソ・イエペスが録音した6弦ギター時代の演奏。
タレガによる編曲ではなく、イエペス自身による編曲であったが、私は今でもタレガ編ではなくイエペス編の方が好きだ。
イエペス編は、彼の弟子のホセ・ルイス・ロパテギによる運指により出版された。



タレガ編による演奏で今まで聴いた中では、故、阿部保夫氏が「珠玉アルバム」シリーズのレコードに録音した演奏が最も印象に残っている。



阿部保夫氏は現東京国際ギターコンクールの第1回目で、このスペインセレナーデを弾いて優勝したと記憶している。

この第2次予選でのスペインセレナーデは全ての演奏を聴いたわけではないので、断片的なことしか言うことができないが、あいかわらずタッチが軽く、か細い音の演奏が多かったということだ。
やはり右手の角度を弦に対し45度の角度で弾く奏者が少なからずいたが、傍から見ていても指の動きが不自然で弾きづらそう。
一体誰がこんな手の角度を広めたのか。
この角度でのタッチだと、必然的に爪の右側で弦を弾くことになるので、弦に対する力は左側のそれよりも弱まる。
この角度によるタッチだと楽器の持つ能力を最大限に引き出すことは無理であろう。

さて本選では下記の6名が選出され、順位も発表された(カッコ内は私が付けた順位)

課題曲;パバーナ(G.サンス作曲)/パバーナ・カプリチョ(アルベニス作曲)

①渡邊 華さん 第6位(第6位) 自由曲:第7幻想曲(Op.30、ソル作曲)
②横村 嘉乃さん 第4位(第2位) 自由曲:ムーア風舞曲(タレガ作曲)/グランソロ(ソル作曲)
③杉田 文さん 第3位(第4位) 自由曲:ソナタ作品61(トゥリーナ作曲)
④茂木 拓真さん 第1位(第1位) 自由曲:ソナタ作品61(トゥリーナ作曲)
⑤山口 莉奈さん 第2位(第3位) 自由曲:ソナチネ(トローバ作曲)
⑥大沢 美月さん 第5位(第5位) 自由曲:暁の鐘(デ・ラ・マーサ作曲)/ソルの主題による変奏曲(リョベート作曲)

以下感想を簡単に示す(演奏順)。

①渡邊 華さん
課題曲(サンス):音が渇いている。音色の変化に乏しく、平板に聴こえた。
課題曲(アルベニス):全体的におとなしく平板、感情的なものに欠ける。左手の押さえに課題を感じる。
曲の途中でどわすれしてしまったのが惜しい。
自由曲:これもおとなしく平板に聴こえた。速度、音量、音色が一本調子。テンポは正確だった。
長調に転調した後はもっと繊細で、高音を歌わせて欲しかった。終盤の激しさのある部分はもっと大胆さが欲しい。

②横村 嘉乃さん
課題曲(サンス):低音が太く、高音の抜けも良い。変化がありいい音だ。古楽器の音を意識してよく表現していた。
課題曲(アルベニス):演奏、音がこじんまりしていておとなしい。アルベニス特有の情緒に満ちた曲であるが、スペインらしい民族的なリズム、歌心をベースにしながらも作者が感じたであろう強い気持ちの理解が十分でなかったように思う。自由曲が素晴らしかっただけに、この課題曲の演奏はやや残念。
自由曲(タレガ):指が良く回る。音のアクセントの付け方、そしてリズムがいい。よく研究している。この曲が意外にも楽しめた。
課題曲(ソル):定番の自由曲。この難曲を淀みなく弾いたのは立派。冷静であり、ちょっとしたミスでも動揺しない落ち着きがある。舞台度胸の強さを感じた。
中低音域の音の使い方、旋律の運びに新たな発見をした。高校生なのだろうか。将来性を強く感じた。
願わくは自分自身の解釈、感じ方を今後伸ばし、研鑽を積み重ねて欲しい。

③杉田 文さん
課題曲(サンス):高音に芯があり美しい。しかしやや平板。古楽器的な響きを聴きたかった。
課題曲(アルベニス):感情の起伏に物足りなさを感じる。もっと情熱が欲しい。スペインの熱い気持ちを感じさせて欲しかった。高音がややメタリック。転調しても同じような傾向が続く。
自由曲:(トゥリーナ):高音がやはりやや細く、骨太さに欠ける。この曲もスペイン特有のリズムの変化、情熱的な激しさに欠けていたように思う。
繊細で誠実な演奏をされる方。私はこの方の演奏に好感を持てた。

④茂木 拓真さん
課題曲(サンス):テンポはやや速め。音の響きは豊かだったが、高音はもっと繊細な表現があってもいいと思った。中盤の高音の強い意識したアクセントは少し違和感を感じた。
課題曲(アルベニス):高音の強音がややメタリック。しかしスペインの情熱を感じさせる、自分のものとして消化された演奏。懐に入った淀みの無い演奏。
転調後の出だしはやや乱雑に聴こえた。もっとゆったりしてそれまでの曲想との違いを浮かび上がらせてもいい。
メカニックは正確で、旋律も良く歌っている。音が硬い部分があるが、歌を感じさせてくれた演奏だった。
自由曲(トゥリーナ):楽器を良く響かせている。音色の変化も豊かで力強さもある。
第二楽章も音色の変化に富んでおり楽しめた。第3楽章は力強いラスゲアードと、うねるようなスケールが良かった。メカニックも正確だ。終結部は激しさを増し、スペインらしいクライマックスを楽しめた。

⑤山口 莉奈さん
課題曲(アルベニス):調子が悪いのか音が鳴りきらない。高音はやわらかくこの曲の繊細な気持ちを良く表していた。やはり大人の演奏だ。作曲者の心情を理解しているし、素直に表現されていた。
課題曲(サンス):高音の出し方が上手い。この高音に哀愁を感じた。やわらかな低音もいい。
中間部もアルペジオは古楽器的な響きを十分に出していた。音楽の流れが自然で素直なのが良かった。
自由曲(トローバ):やや余裕の無さを感じた。歌い方に物足りなさを感じる。左手のミスがかなり散見され、それが音楽の中に入っていけてないように思えた。
しなやかな演奏ができ、表現力もあり、音楽的にはこの奏者が最も深いものを感じたが、ミスが多かったのが残念。

⑥大沢 美月さん
課題曲(サンス):和音をアルペジオにしていたが、どうかと思う。速度、テンポにやや不安定さを感じた。クレッシェンドで速度がやや速まっていたように思える。
課題曲(アルベニス):音が浮ついた感じがする。音と音との分離、境界が不明瞭で、旋律が明確に感じられない。しかしこの不明瞭のような感じも魅力、持ち味と感じる方もいるかもしれない。
途中、致命的などわすれがあったが、これがきっかけで後の演奏は落ち着いた自信に満ちた演奏だった。
自由曲(デ・ラ・マーサ、リョベート):やや平板、音色の変化に乏しかったが、 リョベートの演奏は落ち着いており、自信を感じた。

全体的にはレベルは例年比べそう高くはないと感じた。
本選出場者6人中5名が女性というのは初めて。
女性はギターの場合、ダイナミックスさに欠けるように感じるが、ピアノ界では女性でも男以上のパワフルな演奏をするピアニストがたくさんいる。
繊細さを十分に生かし、同時にパワフルな表現を研究して欲しいと思った。

第2次予選で終わった方を含め、出場者の本選自由曲の曲目を見ると、毎年のおなじみの曲ばかり。
もっと現代の、現代作曲家の曲はないのだろうか。
現代音楽を選んではいけないという制約はないはずだ。
硬派で難解な現代音楽を弾く人が現れないだろうか。

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