緑陽ギター日記

趣味のクラシック・ギターやピアノ、合唱曲を中心に思いついたことを書いていきます。

ドビュッシー「月の光」を聴く

2016-04-16 22:04:23 | ピアノ
10日くらい前から、何とはなしにドビュッシーの「月の光」を聴きたくたくなり、手持ちのCDや新たに購入したCDを数枚聴き比べをしてみた。

「月の光」(Clair de Lune)はベルガマスク組曲の第3曲であるが、単独で演奏されることが多い。
この曲はあまりにも美しいため、誰でも1度は聴いたことのある名曲中の名曲だ。
私はどちらかというとドビュッシーのような印象派の作曲家の曲はあまり興味がないのだが、この「月の光」はこれ以上表現できないくらい純粋な美しさを感じさせてくれるものであり、聴き終わると何とも気持ちが、穏やかになるのである。

今まで本格的に聴き比べなどしたことは無かったが、手持ちのCDで最も印象に残っているのは、ヴァレリー・アファナシエフの1991年モスクワでのライブ録音。
この演奏の感想を以前記事で紹介したことがあるが、素晴らしい演奏で私のお気に入りの1枚である。
しかしもっと素晴らしい演奏があるのではないかと思い、この10日間ほどでいくつかの演奏を聴いてみた。

以下、聴いた録音を下記に示す。

①ヴァレリー・アファナシエフ 1991年モスクワ ライブ録音




②ウェルナー・ハース 1960年 スタジオ録音



③ワルター・ギーゼキング 1953年 スタジオ録音



④アナトリー・ヴェデルニコフ 1962年 スタジオ録音



⑤アレクシス・ワイセンベルク 1985年 スタジオ録音



⑥モニク・アース 1970年 スタジオ録音



⑦スヴァヤトスラフ・リヒテル 1979年 ライブ録音



⑧スヴァヤトスラフ・リヒテル 1960年 ライブ録音



このうち、①、②、③、④は既に聴いていた録音。

聴き比べて興味深いのは、奏者により演奏時間の長さ、すなわち速度がかなり異なること。
一番短いのは、⑤のアレクシス・ワイセンベルクの5分3秒。
一番長いのは、④のアナトリー・ヴェデルニコフの6分57秒。
次いで、スヴァヤトスラフ・リヒテルの1979年のライブ録音で6分30秒。
①のヴァレリー・アファナシエフも6分11秒と長い。
長いということはそれだけ演奏速度が遅いということであるが、演奏速度を遅くするとそれだけ表現能力が要求されるということでもあるのではないか。
表現能力に乏しいと、間延びした演奏、単に初心者が技量の未熟さゆえにゆっくりと演奏したようなレベルにとどまる。
この曲をゆっくりとした速度で弾くのは、それなりの意味があると思う。
この曲が求める本当の速度は、ヴェデルニコフやアファナシエフやリヒテルの速度のようにも思える。

さて今回聴いた中で最も聴き応えがあったのは、①ヴァレリー・アファナシエフ 1991年モスクワ ライブ録音であり、次いで④アナトリー・ヴェデルニコフ 1962年 ステレオ録音だ。
ヴァレリー・アファナシエフの演奏は非常に繊細。ここまで気持ちを繊細に表現できる奏者は少ない。③のワルター・ギーゼキングと対称的な演奏。
ヴァレリー・アファナシエフのCDは、モーツァルトやベートーヴェンやシューベルトのピアノソナタで聴いているが、本格的に聴き込みたい演奏家だ。
すごく繊細な表現ができる演奏家。この「月の光」は非常に優しさに満ちた演奏でもあり、最も好きだ。

次にアナトリー・ヴェデルニコフであるが、芯のある音が特徴的で現代のピアニストとは音が全然違う。
録音はとても悪いが、それでも音はとても強く伝わってくる。
この演奏家は、表立って感情を露出するタイプの演奏家ではない。
しかし音に込められた感情に物凄いパワーが秘められているのを感じて驚く。
際立った高い演奏能力がありながら、冷遇され陽の目を見なかった不運のピアニスト。

速度が遅くも速くもなく、音の分離が際立っており、極めて誠実な演奏をしているのがモニク・アース。
万人受けする演奏なのだろう。
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