晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

三浦綾子 『塩狩峠』

2013-07-15 | 日本人作家 ま
連日うだるような暑さの中、本を読む気力が萎えてるといいますか、
まあその本の内容にもよるのですが、暑苦しい話はもちろんアウトで
して、じゃあ涼しげな、ということで、タイトルが北海道の地名である
『塩狩峠』にしてみました。

この話は、明治時代に実際に起きた鉄道事故で、最後尾の車両の連結
が外れて、そこに乗っていた職員が身を挺して脱線を防いだ(この職員は
車両の下敷きになり死亡)、という話をもとに描かれています。

永野信夫は、明治十年、東京の本郷で生まれます。信夫に母親の記憶は
なく、祖母と銀行員の父に育てられます。
祖母は、もともと旗本の家の出で、なにかというと「武士は」「士族は」
と厳しくしつけられます。そして、信夫が祖母に母親のことを聞くと露骨
に嫌がります。

ある日のこと、信夫は父と出かけることに。そこに小さな女の子が寄ってきて
「おとうさま」と父に呼びかけ、馴れ馴れしく抱きつきます。
信夫は仰天、「僕のおとうさんだよ」といって女の子を父から引き離そうと
します。なぜか狼狽している父。

その日の夜、信夫は、父と出かけたときにサラッと小さい女の子に会ったこと
を話した途端、祖母は顔つきが一変。謝る父。
「この・・・親不孝者!」と叫んで倒れ、祖母はその日の夜に死んでしまいます。

葬式が終わって信夫は学校から家に戻ると、あの時の女の子が。そして女の人が。
その女の人こそ、信夫が祖母に聞くことすら憚られていた母親だったのです。
そして、女の子は実の妹である待子。

信夫の母親、菊はキリスト信者で、士族の誉れを生きる全てとしてきた父の実家
にとって、ヤソ(昔はキリスト信者を『ヤソ(耶蘇)』と呼んでいた)の嫁など
言語道断で、改宗するか、さもなければ出て行けと詰め寄られます。

結果として母は信夫を置いて、つまり息子より信仰を取って家を出たということ
で、この事実を知った信夫は軽くパニック。
それから4人での生活がはじまりますが、食事の前にお祈りをしたり、日曜日に
教会に誘われたり、祖母から厳しく躾けられてきた信夫ははじめこそ嫌がりますが
、ずっと夢見ていた母が目の前にいること、妹は可愛いし、そのうちに「自分は
ヤソにはならないけれど、まあいいか」くらいになります。

やがて信夫は4年生になり、吉川という同級生と仲良くなります。吉川が家に
遊びに来たのですが、妹も連れてきます。妹は片足が不自由なのですが、それを
負い目に感じることもなく明るく、信夫は魅了されます。

中学になり、突然、吉川が北海道に引っ越すことに。そこからふたりは互いの近況
報告を文通します。

そんな信夫ですが、今後の進路を考えていた矢先、父が急死します。2年か3年は
残された家族が食べていけるくらいの蓄えは残されていましたが、大学進学を諦め、
信夫は裁判所の事務員になります。

それから数年が経ち、久しぶりに吉川と再会します。妹のふじ子は美人になっていて、
ドキドキする信夫。
さらに数年後、信夫はいきなり北海道で暮らしてみたいと思い立ちます。妹の待子は
結婚して母の面倒は妹夫婦が見てくれるし、信夫は徴兵検査で不合格になり、心機一転
北海道へ・・・

鉄道会社に就職することになった信夫。ふじ子は兄の友人と結納まで済ませたのですが
病気になってしまい、破談に。ふたりの恋の行方はどうなるのか。

キリスト教を全否定する家庭で生まれ、じつは母がキリスト信者であることを知り、
尊敬する父も葬式はキリスト教式でと遺言に残し、聖書を読んでみても、いまいち
ピンとこなかったのですが、ある日、街角で宣教師の説法を聞いているうちに、
信仰を求めることに。

遠藤周作の「大友宗麟」という小説があるのですが、戦国武将の歴史小説というより
は、彼がどうしてキリシタン大名になったのか、その過程での苦悩にフィーチャーし、
殺さなければ殺される、でも宣教師が言うには信じれば極楽に行ける、この大いなる
矛盾と(戦国大名と鉄道職員の苦悩の大小は別にして)心の中でせめぎ合うあたりは
似てるなあといいますか、両作品とも押し付けがましくなく描かれていて、よく日本人
でクリスチャンの作家の小説のあとがきにある「愛とは、信仰とは、そして人間とは」
みたいな重々しさは感じなくて、普通に読めます。

涼を求めて読んだはずが、内容の暑さ(厚さ?熱さ?)にやられて、なんかいろいろ
考えされられてしまい、結果寝られずに。
コメント
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