晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

杉本苑子 『冥府回廊』

2011-12-14 | 日本人作家 さ
まったく不勉強で恥ずかしい限りですが、この杉本苑子という
作家を存じ上げませんでした。
「孤愁の岸」で直木賞受賞、「滝沢馬琴」で吉川英治文学賞受賞
、さらにこの『冥府回廊』は、NHK大河ドラマ「春の波涛」の
原作ということです。

福沢諭吉の次女房子と、その娘婿、桃介を中心に、明治から昭和に
かけての活躍を描いた作品で、『冥府回廊』の前に書かれた「マダム
貞奴」という、芸者で伊藤博文の愛人から、川上音二郎と結婚して
女優となり、その後、実業家に転身した川上貞奴が主人公の作品が
あるのですが、そこでは房子は、貞奴のビジネスパートナーである
桃介にとって厄介な存在の妻、として描かれていて、つまり『冥府
回廊』は、房子の側からみた、夫桃介と”怪しい関係”の貞奴が描か
れていています。

父、諭吉が創立した慶應義塾の学生、桃介は、学業優秀もさること
ながら、いつも学生たちの中心に立って行動し、まあようは「目立つ
学生」で、義塾の運動会が催されたときに、奇抜なシャツで周囲の
注目を浴びます。諭吉の妻や長女が噂する中、次女で、お年頃の房子
も、気になっていました。

ある日のこと、校舎に隣接する福沢家でパーティーが開かれたので
すが、出席する外国人の賓客に見劣りしない男子学生を数人ホストと
して召集します。その中に桃介もいて、紳士的な振る舞いに、この
男だったら房子の結婚相手にふさわしいと認め、桃介も、埼玉の
貧農の家から苦学して慶應に通って、福沢諭吉の義理の息子になれる
ことに喜び(それ以前に、房子の美貌に惹かれていた)、婿入りする
ことに。そして桃介は諭吉の長男、次男が留学しているアメリカへ
旅立つことに。

しかし、船が出る横浜へ向かう汽車に乗ろうとしたとき、芸者が
駆けつけて、桃介に餞別を渡すのです。
その餞別は、房子があずかることに。桃介は女性関係で浮いた噂
などなかったのですが、なぜ芸者がわざわざ駆けつけたのか。
疑心暗鬼にかられた房子は、その餞別を開けて見てしまいます。
それは、手鏡でした・・・

さて、アメリカへ渡り、それなりに勉強もして交遊もしますが、
一時期は酒に溺れたり、お世話になっていたアメリカ人と揉めたり、
または女性と噂になったりと困ったこともあったのですが、それ
なりに成果を収めて帰国、北海道の炭鉱鉄道に勤めるために房子
を伴い札幌へ。
また東京へ戻ってきて、会社を興すも失敗、そして当時はギャンブル
と誹りを受けていた株の取り引きに手を出し・・・

さらに房子を悩ませたのが、貞奴の存在。桃介と彼女は、どうやら
愛人関係は無さそうなものの、ふたりの結びつきは強いものらしく・・・

一万円札の人、慶應の創始者、学問ノススメなど、福沢諭吉という
”偉人”の、家族との関係、学校運営の悩みなどといったごくプライ
ベートな側面はとても興味深く描写されています。

都市伝説的な話ですが、「天は人の上に人を作らず・・・」でお馴染み
の諭吉は、娘の結婚相手に「身分違いだ」といって破談させた、という
のは、この房子と桃介のことだったのでしょうかね。
しかし、丁寧に、徹底して調べ上げたことが良く分かるこの小説では、
そんな話は出てきませんでした。


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