晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

遠藤周作 『海と毒薬』

2009-12-14 | 日本人作家 あ
先日、アメリカとの開戦に至るまでの経緯や、戦後の海軍
将校たちの回顧記録音声などのドキュメント番組をやって
いたのですが、当事者たちのどことなく他人事のような言葉
や、集団催眠にかかったかのような当時の日本人はどこか
恐ろしく、将校クラスでも市民レベルでも、戦争を回避する
術は持ち合わせていなかったのではないか、あるいはだれも
持とうとすらしなかったのではないでしょうか。

『海と毒薬』は、終戦の直前、九州の病院で捕虜を生体実験
した事件をベースにかかれた作品です。
東京郊外に家を買った男は、肺に持病があり、家の近くにあ
る病院で気胸(肺に空気を送り込む)をやってもらうために訪
れますが、そこの医者は風貌は気味悪く、無口ですが、前の
病院でやってもらったよりも技術は上。
ふたたび病院に行くと、医者の卒業名簿があり、九州の大学
付属病院の卒業であることがわかり、おりしも、男の義妹の
結婚式でその大学のある街へ行くことになっていて、男は行っ
たついでに調べてみることに。
すると、かつてこの病院で、恐るべき捕虜に対する生体実験が
行われていたことが分かり、さらに件の医者は当時研究生で、
実験に加担した罪で、懲役刑となっていたのです・・・

話はここから、戦争末期の大学付属病院での、生体実験に至る
までが描かれ、さらにこの実験に参加したもう一人の研究生と
看護婦の回顧もあり、この暴走はなぜ起こったのか、止めること
はできなかったのか、といったことがとてもグロテスクに描かれて
います。

先の戦争での人体実験といえば石井中将率いる「七三一部隊」が
あまりにも有名ですが、じつは彼らが戦犯として裁かれなかった
のは、アメリカやソ連側が、人体実験の資料を欲しがったために
彼らを不問とした、といわれております。

戦争の真の悲劇とは、人が人でなくなること。
こんなことを痛切に感じました。

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