晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

デニス・ルヘイン 『ミスティックリバー』

2010-01-27 | 海外作家 ラ・ワ
たしか、舞台演出家の蜷川幸雄さんだったと記憶しているのですが、
「芝居は最初の1分で勝負が決まる」というようなことを言っていて、
時間が1分か10秒か、言葉のニュアンスも違ってたら申し訳ない
ですが、音楽にしても、イントロをちょっと聴いただけで、これいい曲
だと直感で分かるような、良質な作品というのは、はじめの部分から
して飛び抜けていなければならないということですね。

『ミスティックリバー』を読み始めたときに、まさに冒頭の20行
くらいで「ああ、これは面白い」と感じました。全体的なストーリー
は、どこまでも暗く、また登場人物もみんな暗く悲しい。幸せな人は
出てきません。
そして物語の冒頭は、ショーンとジミーという登場人物が子供だった
ころ、ふたりの父親は町のお菓子工場に勤めていて、いつもチョコレ
ートの臭いを家に持ち帰ってきて、服やベッド、車の座席までも甘い
臭いが染み付いて離れず、おかげでショーンもジミーも甘い物嫌いに
なってしまい、そして残りの生涯、コーヒーはブラックで、デザートは
必ず残すようになった、というもの。

ジミーの父親は息子を連れてショーンの家に飲みに行き、こどもたちは
外で遊ぶようになります。そしてもうひとり、デイブという少年も加わり
3人で遊びます。
ショーンの家は町の「岬」方面に建ち、ジミーとデイブの家は「集合住宅
地(フラッツ)」にあります。岬には一戸建てがあり、集合住宅地は賃貸
で、両地域とも労働者階級ではあるものの、そこには差があります。
この対比の描写が面白く、「岬の家族は教会に行き、助け合い、選挙の
ある月は街角でプラカードを揚げた。集合住宅地の人々は勝手気ままに
生き、ときに動物並みの生活をし、通りにはごみが散乱していた」、
ショーンは制服で教会の教区学校に通いますが、ジミーとデイブは公立の
小学校に通い、私服なのは格好良いけれど、毎日同じ服で、それは格好
悪かったのです。

こどもたちもヒエラルキーを漠然と理解していて、ショーンはジミーと
デイブと遊んでいるものの、距離を感じます。

そしてある日、道路で3人が遊んでいると、警官の車が止まり、デイブ
だけを家まで送り届けるといって車に乗せます。しかしそれは偽の警官
で、誘拐事件に発展します。その4日後、デイブは自力で逃げ出し無事
保護されるのですが、明らかに様子が違います。

ジミーもデイブにどう接していいか分からず自然に遠のき、ショーンも
遠くの学校に通うことになり疎遠に。

時は過ぎ、25年後。チンピラ稼業から足を洗い、小さな店を切り盛り
するジミーの娘が、真夜中に公園で殺されます。
州警察の刑事であるショーンは犯人を探します。ジミーの娘が殺された
夜、デイブは血まみれで帰宅します。デイブの妻が理由を訊くと、黒人
の暴漢に襲われそうになり、反撃をしてそのまま殺してしまったと告白
します。そかし妻は、話がどこか不自然なデイブを疑います。

やがて、ジミーの娘殺しの捜査線上にデイブが・・・

25年前にジミーとショーンの目の前で連れ去られたデイブ。彼の心の
闇は大人になり結婚し子供をもうけても消えることはなく、この事件を
きっかけにふたたび3人は顔をあわせることになるのですが、しかし
ジミーとショーンも25年前のことで心に傷を負っているのです。

冬の夜明け前、空は夜じゅうでいちばん暗くなり、そしていちばん冷え
込みます。しかし、明けない夜はなく、春は遠からじ。
この本を読み終わったちょうどそんな時間に、明るい兆しを見出そうと
しました。


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