晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

安部龍太郎 『等伯』

2020-12-13 | 日本人作家 あ
12月は古い呼び名で「師走」ですね。この師とは僧つまりお坊さんであるという説が有力ですが(ただの当て字という説もありますが)、そういえば12月にお坊さんが忙しそうにしているシーンを見たことがありません。まあ年始に向けてやることはたくさんありそうですが。傍目で見て忙しそうなのはお盆かお彼岸の時期ですよね。

車を運転していて気付くのは、12月になるとなんだか周りの車が焦ってるというか急いでるように見えます。寒いし日が落ちるのも早くなるし気持ちはわかりますが、くれぐれも安全運転で。

さて、そんな話はさておき。

安部龍太郎さん。今年に入って初めて読んでこれが2作目。この作品は直木賞受賞作です。

能登(石川県)七尾に住む、絵仏師の長谷川信春。「絵具の買い付けに出かける」と妻に嘘をついて行った先は実家の兄の奥村武之丞のもと。信春はもともと武家の生まれだったのですが、染物屋の長谷川家に養子に出されます。この出来事は「おまえは武士失格だ」と烙印を押されたようにいつまでも信春の心に残ります。人目をしのんで兄に会うと、主家の畠山家の再興のために浅倉家まで手紙を届けてほしいというのです。この当時の七尾は畠山家が「七人衆」と呼ばれる重臣たちに追放され、七人衆が領地争いをしていて、畠山の者は表立って動けません。武之丞は信春に「お前も奥村の血が流れている、武士の血だ」といって養家に行った弟をパシリに使おうとします。はじめこそ気乗りがしなかったらあるいは無理な頼みだったら断ろうと決めていた信春でしたが、いざとなると兄に逆らえません。

家に戻って妻と幼い子、優しい養父母と会うと決心がゆらぎ、やっぱり兄の頼みは断ろうと思います。が、ある夜、家に戻った信春の目に映ったのは血を流して倒れていた養父母でした。急いで妻と子を探す信春。するとどこかから「あなた、あなた」と声が・・・
兄に話を聞こうにも家督を譲って行方不明。もしかして逃げるために自分を囮にして・・・

この件で、信春は追放されることに。妻と子を連れて都に行くことにします。ところがこの頃、尾張の織田信長が近江にいて若狭~近江の北国街道を封鎖しているので都まで行くことはできません。しかし山道ならどうにかなるということで、妻と子は知り合いの寺に預かってもらい、信春は山道を歩いて比叡山に着きます。ところが信長軍が攻めてくるというではありませんか。逃げる信春でしたが、足軽が幼い子を抱いた僧を取り囲んでいます。その子が自分の息子に見えた信春は、岩を足軽に向かって投げ落とし、ひるんだ隙に長刀を奪い、足軽らを蹴散らし、僧と子を逃がします。

それから半年、信春は扇に絵を描くという仕事をもらってどうにか生き延びています。信春は比叡山で足軽をやっつけたということで信長から「お尋ね者」扱いされてこそこそ隠れています。ある日、歩いているとお坊さんから声をかけられます。これがきっかけで、なんと時のスター絵師の狩野永徳の父親である狩野松栄の弟子入りを許されます。さらに自分を守ってくれる庇護者的な人もあらわれ、どうにかこうにかで妻と子を迎えに行きます。

それからというもの、京の都で暮らせなくなり、堺に逃げますが、妻の具合が悪くなり、西洋の医者に診てもらうと肺炎と・・・

史実通りですと、信長は本能寺の変で死んで、天下取りの先頭は秀吉に移ります。そして秀吉は信春に恩赦を与えます。つまりいつでも京の都に戻れるのです。
狩野永徳との対決、息子が狩野派に弟子入り、信春の再婚、いろいろあって「等伯」という名前をいただいて(はじめは「等白」だったのですが、あとで白に人偏が付きます)、利休と付き合ったばかりに信春まで処刑されそうになったり、そしてとうとう、もとは狩野派に書いてもらうはずだった、秀吉から依頼された絵を書くこととなるのですが、もし秀吉の目にかなわなかったら処刑されるという命を懸けた勝負に・・・

作者本人のあとがきにもあるように、等伯の人生において「日蓮宗、法華経」がものすごく重要なのですが、文中では、宗教じみて説教くさくなく、ですが読後に印象に残るような、絶妙な塩梅で説明されています。

この小説を読み終わって、ネットで「松林図屏風」を検索して、脱力したようにしばしぼうっと眺めてしまいました。そして文中でこの絵を見た家康が泣いたのもなんだか分かるような気が。

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