晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

スコット・トゥロー 『立証責任』

2010-02-13 | 海外作家 タ
スコット・トゥローとは、アメリカの現役弁護士にして作家、デビュー作
「推定無罪」の大ヒットさらに映画化によって、その後、弁護士の肩書き
を持ちながらの作家が多く出現することになる立役者となったわけで
すが、訳者あとがきによると、弁護士兼作家のもうひとりの代表格の
ジョン・グリシャムは、デビュー作「評決のとき」は「推定無罪」の出版
の数ヶ月前に出版社に原稿を送っているので、トゥローに影響された
わけではない、というような意味の言葉を「誓って」だの「宣誓しても」
といった、ややムキになって否定しているところが面白いのですが、
それにつけても裁判が日常当たり前に存在しているアメリカにとって、
法廷にはドラマチックな、小説のヒントとなるような話題がごろごろ転
がっているのでしょう。

アメリカの中西部、架空の地域キンドル郡に住む弁護士アレハンドロ・
スターンは、シカゴからの帰り、家に着くと、そこには30年連れ添った
妻のクララの死体が。
状況から自殺と思われ、救急車と警察、それにスターンの子供たち、
医者の長男ピーター、ニューヨークに住む弁護士の長女ステラ、キンドル
郡郊外に住む次女ケイトを呼びます。

ピーターは母の遺体の解剖を拒み、遺書も見つかったことで、そのまま
自殺として処理されます。その遺書は、メモに走り書きで「わたしを許し
てくださる?」とひと言だけ。
スターンは結婚生活で、ちゃんと愛を注いできたつもりでしたが、思い
がけない妻の答えの出し方に打ちのめされます。
そんな中、悲しみにくれる家族に突然の訪問者が。それはFBI特別
捜査官で、スターンの妹の夫、義弟であるディクソンの会社に対する
違法取引の大陪審への召喚令状だったのです。

スターンとディクソンは軍隊時代に知り合い、除隊後にディクソンは
スターンの妹と結婚します。ディクソンはその後商品先物取引の会社
を立ち上げ、いまや大金持ち。しかし強引なやり口で周りには敵も
多く、スターンの家族もあまり好感は持っていません。
ディクソンはなんとか信頼されるべく、スターンを会社の顧問弁護士
にしたり、ピーターを主治医にしたり、ケイトの夫ジョンを会社に
入れたりします。

連邦検察から、関係書類の提出を命じられるスターンですが、どんな
違法な取引があったのか検察から教えてもらえず、ディクソンに聞いても
知らんの一点張り。つまりどんな罪状かも分からずに召喚されること
となり、スターンは会社内に情報リーク者がいると訝ります。

そんな状況ですが、妻クララの遺産の話となり、そこで、生前クララが
現金85万ドルを引き落としていたことが分かります。その使途は不明。
やがて、ディクソンの会社の悪巧みがだんだんと分かってきて、そこに
どうやら娘ケイトの夫ジョンが絡んでいるらしく・・・

スターンはディクソンを救えるのか。そもそも彼の犯した罪とは。
妻の自殺の原因とは。生前に手にした大金は何のためだったのか。

男やもめとなったスターンは、それまで意識していなかった周りの女性
を考えるようになり、そして、ちょっとしたモテ期に突入します。
最終的にディクソンの不正が明らかになり、そしてその情報提供者も
意外な人物だったということも分かり、さらに妻の死の原因もスターン
の知るところとなるのですが、あまりに複雑。ちょっと集中して読まない
と話についていけなくなります。

仮に人物相関図を作るとしたら、その矢印や関係線はこんがらがって
しまうことでしょう。それくらい複雑。

登場人物の心の機微がじつに深く描かれています。スターンはユダヤ系
アルゼンチン人で、子どものころに家族とアメリカに渡り、そこから
苦労して弁護士の地位を手に入れます。しかし、彼の心には大きな穴が
あいているようで、妻を失い、子どもたちとの関係も難しく、さらに
義弟はトラブルメーカー。

「立証責任」というのは、通常裁判における検察側の仕事なのですが、
この物語における「立証責任」とは、スターンが証明しなければならない
数々の問題にたいして、最終的にスターンに責任の所在があるのか、
を問うものです。

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