晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

宇江佐真理 『ほら吹き茂平』

2017-08-13 | 日本人作家 あ
この作品は、表題作をはじめとしての短編集です。
なぜそんなことを書くのかといいますと、(もくじ)
のページに6つの話があって、それぞれが表題作
である「茂平さん(きっと嘘つきなんでしょう)」
の話かと思って読んでいたら、次の話は尼さんの
話で・・・別の話でした。

「ほら吹き茂平」は、大工の棟梁、茂平の話。
茂平はもう歳で、現場で指図しかせず、ヒマを
持て余しています。
(ほら吹き)とはいっても他人の人生を破滅に
追い込む詐欺レベルではなく、あくまで冗談。
そんなある日、知り合いから物置の修理を頼ま
れたのですが、現場を仕切っている息子の小平次
に頼むと「いまの現場は忙しいから無理」と
あっさり断り、茂平は「じゃあ俺がやる」と
啖呵を切りますが、息子の嫁が手伝うことに。
これに怒った小平次は嫁と喧嘩に・・・

「千寿庵つれづれ」は、浮風という尼僧の話。
五十四歳の浮風は夫に先立たれて剃髪します。
そして江戸郊外の小梅村に千寿庵を建てます。
もともと夫を弔うためだけですので檀家もいな
くて、浮風は仏門の修業をしたわけでもない
のですが、いつの間にか多くの女性にとっての
(相談所)となっています。
そんなある春の日、千寿庵に親子づれが来る
ことになっています。ふたりは庭にある桜の
木の下でお花見をするのですが・・・

「金棒引き」は、菓子屋の亭主、佐兵衛と
妻のおこう、そして佐兵衛の親友の佃煮や
の新兵衛の話。
時は幕末、公方様にお輿入れする、京から
やってくる和宮さまに興味津々。
ところが、時代はそんなセレブの話題なんか
吹っ飛ぶぐらい。なにしろ徳川幕府が終わろ
うとしているのですから。
そんな中でも佐兵衛と新兵衛、おこうは・・・

「せっかち丹治」は、大工の丹治の話。
丹治は妻のおせんと娘のおきよと貧乏長屋で
暮らしています。ある日のこと、長屋の差配
(大家さん)が、おきよに縁談話を持って
きます。相手は米問屋の息子。こりゃ玉の輿
だとウキウキなおきよ。ところが相手の家
では、両親の面倒を見るだけで嫁を欲しがって
いるだけで、丹治も「そんなとこ行かなくて
いい」と。顔をつぶされた差配は怒って丹治に
「出てけ」と言うや、丹治は差配の横っ面を
引っぱたき・・・

「嬬恋村から」は、「千寿庵つれづれ」の
浮風がふたたび登場。
ある日、千寿庵に老爺が訪れます。妻と娘の
お骨を持ってきて、供養してほしいというの
ですが、千寿庵では葬式もしないし、お墓も
ありません。
話を聞くと、老爺は上州の吾妻郡、鎌原村と
いうところから来たといい、三十年前の浅間山
の噴火で村は火砕流に飲み込まれてしまい、
妻と娘は帰らぬ人に。それから老爺は再婚した
のですが・・・

「律儀な男」は、醤油・酢の問屋「富田屋」の
主、市兵衛の話。市兵衛は近所の一膳飯屋に出
かけてゆっくり一杯やるのが趣味で、この日も
飯屋に行くと、顔なじみになった客と話をして
いると、(あの事件)の話になります。
それは二十年前、市兵衛の前妻と娘が芝居見物
に出かけたときに暴漢に殺されます。しかし
世間では毎日遊びまくってた富田屋の妻と娘が
死んでむしろ良かったという声も。
ですが、市兵衛はこの犯人を犯行前に知ってい
たのです・・・

こういった「人情時代小説」を読みますと(昔は
良かった)的な感想ではなく、いまから二百年
くらい前の日本では、鎖国政策で国内のみで生産
消費をしていれば先細りになるわけで、一般市民
は全員が等しく貧しくて助け合わなければ生きて
いけなかったというのがわります。
それにひきかえ現代では、まるで強迫観念のよう
に「おもてなし、おもてなし」の大合唱で、そこ
には(さもしさ)といいますか、恩着せがましさ
が見えますね。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする