晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

浅田次郎 『霞町物語』

2012-09-02 | 日本人作家 あ
この小説に出てくる、赤坂だの青山だの六本木だの、これらの地名は
今も残っているのですが、現在の東京都港区の地図を見てみても、
「霞町」という地名は出てないはずです。

正式には「麻布霞町」、今では「西麻布」という地名のところですね。

この霞町の写真屋さんの息子が主人公なのですが、帯には「著者自身の
感動の物語」とあって、ところが浅田次郎の経歴を見てみると、生まれは
中野で、高校は中央大杉並、この物語の「僕」の通ってる高校は、文中の
説明によると「校舎は赤坂のど真ん中で六本木も青山も銀座も目と鼻の先」
「都立指折りの進学校」とあり、日比谷高校か青山高校のどちらかでしょう。

というように、「著者自身」とは若干の違いがあるにはあるのですが、まあ
細かいことはおいといて、時代は学生運動が華やかなりし頃で、東京大学の
入試が中止になったり、オーティス・レディングの「ドック・オブ・ザ・ベイ」
が街中によく流れてた、ということで、1968年ですね。

まあ、不良といっていいのかわかりませんが、高校生の「分際」で自動車免許
を取って車を乗り回し、放課後になるとコンポラのスーツ(生地がテカテカして
衿幅が狭く、前が一つボタン)、髪はリーゼントでディスコに繰り出す。

ちょっとビックリですが、この時代の東京のど真ん中の高校生はそうだったん
でしょう。

そんな「僕」の高校生活を、甘酸っぱく、ほろ苦く、切なく、刹那的、色とりどり
に描いて、写真館での、ちょっとボケはじめた祖父、婿養子の父、そして母の「家族」
の話もあり(幼い頃の祖母とのエピソードも)、なんだか、この時代を知らないのに
まるで同じ時代を生きていたかのような臨場感。

青春小説・・・かというと、あまり共感できる部分は無いのですが、ある意味「時代小説」
といってもいいのではないでしょうか。

「今ではすっかり渋谷や赤坂や新橋の盛り場と光のパイプでつながれてしまったけれども、
四半世紀以上も前の六本木は、闇の中の食卓にぽつんと飾られた、花束のような街だった。
交差点を五百メートルも離れれば、米軍キャンプや邸宅の木叢が、深い眠りのように街の灯
を蓋ってしまった。」の描写なんて、ゾクゾクしてきます。

この本を読んでいると、東京生まれの人の「東京人の矜持(または江戸っ子の習性)」
みたいなものがよく分かって面白いです。


コメント (2)
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