晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

川田弥一郎 『江戸の検屍官』

2010-10-24 | 日本人作家 か
医療系のミステリーが好きで、歴史上の有名人物ではなく
市井の人々を描く時代小説も好きで、これらが合体したら
さぞかし自分好みの小説なのになあ、という希望が叶った、
そんな『江戸の検屍官』。
カテゴリ的には「時代医学推理」とでもいうのでしょうか。

川田弥一郎さんは、「白く長い廊下」で江戸川乱歩賞を受賞
していて、現役のお医者さん。
前に読んだのですが、医療ミステリー好きにはたまらない
展開で、描写も人物設定もしっかりとしていて、とても楽しめ
ました。
医師で作家といえば最近では「チームバチスタ」シリーズで
おなじみの海堂尊さんが有名ですが、医療系の小説を書く人は、
かならずといっていいほど、厚生労働省の、あるいは医療体制の
問題点、そして医師みずからの倫理観といったことを憂い、警鐘
を鳴らし、人間が最低限の文化的生活を送るうえでこれらの問題
は決して他人事ではなく、物語を楽しみつつも、考えさせられます。

『江戸の検屍官』は短編構成になっていて、主人公は、江戸の北町
奉行所、定町廻り同心の北沢彦太郎。
彼のもとには、江戸市中で発見された、死因がわからない、自害した
とは疑わしい屍体の検屍の依頼がきます。

江戸時代における検屍の教典「無冤録述(むえんろくじゅつ)」を
たよりに、さまざまな原因不明の屍体の謎を解明してゆくのですが、
彦太郎と実力を二分する医者の古谷玄海とは時折、意見がぶつかり、
医者の玄海は、外面だけでは解明できないなら切って調べるという
考え方で、しかしそれは「無冤録述」の意に反します。
しかし、考え方の相違はあれど、死因を突き止めて、それが殺人で
あったのなら犯人を探し出し、きちんと成仏させてあげたいという
信念は共通していて、ふたりはよく互いの家を行き来し、互いに
対する敬意は忘れていません。

この時代の検屍方法は、当然化学薬品の類はなく、酒粕や植物の液
といった、身の回りのものを用いて、それを屍体の体に塗ったり、
あるいは、金属を口の中に入れて、変色でもすれば毒殺の疑いあり、
といった方法で死因を突き止めます。
そして、屍体の生前の行動も、ある意味検屍の範疇に入っています。
近代でいうところのプロファイルというか、そもそもなぜこの現場で殺
されたのか、交遊関係は、諍いごとは、なども調べるのです。

厄介な問題として、屍体が女性の場合、解明にあたって、暴行されて
いないかどうか、全裸にして局部を調べなければならず、検屍をよく
分かっていない人たちからあらぬ誤解を受けないために、屋外で検屍
を行う、といった配慮も必要になってきます。

この物語中で、ある女性が複数の殺人事件に関わっていて、すんでの
ところで逮捕は免れ、謎のまま終わっているのですが、ということは
続編はあるのかと思い、調べてみたら、出てました。
早く読まないと。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする