晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

高村薫 『リヴィエラを撃て』

2010-07-31 | 日本人作家 た
少なくとも、真夏の猛暑と熱帯夜には、高村薫の小説は合わない、
ということがわかりました。
暑苦しい、というわけではなく、重厚な文体、重厚なテーマは、寒い
季節に、布団やこたつにもぐり込んで、熱い茶でもすすりながら読む
のがふさわしいなあ、と。

単行本を買ったのですが、よく表紙裏に書かれている「おもな登場人物」
が無く、読んでる途中「あれ、これ誰だっけ」というのが多々あり、序盤
から主だった登場人物を紙か何かに書き記しておけばよかったと軽く後悔
しつつも読み進み、後半も後半、ほぼラストでようやく物語の全貌というか
いくつもの謎の点が線で結ばれて、流れを把握できた、という感じ。

1992年1月、東京の首都高トンネルで、外国人が死んでいるのが発見
されます。この男は、ある女と2人連れで、殺される少し前に、イギリス
大使館に入っていくのがカメラで捉えられており、ほぼ同じ時刻に、匿名
の女から「大使館から来た女がジャックを連れて行った。ジャック・モーガン
が捕まった。《リヴィエラ》に殺される!」という電話がありました。

名前から、イギリス人かアメリカ人と判断し、両国大使館に問い合わせてみた
ところ、該当者なしという返答、偽造パスポートで入国しているらしく、電話
にあった「大使館の女」という人物も、イギリス大使館からは情報は得られず。

さらに、恵比寿のアパートで、銃で撃たれて死亡している女性が発見、住人
の話によると、背の高い金髪の男といっしょに住んでいたというほかは、話を
した者もなく、出身地、本名は不明。

そんな中、警視庁公安部外事一課にCIA香港支局から電話が。「《リヴィエラ》
の件なら協力できることがある」と。
しばらくして、外事二課から、「大使館の女」は、レディ・アン・ヘアフィールド、
あるイギリス貴族の夫人である中国人女性に似ているとの情報がきますが、その
夫人はロンドンにいるということが調べでわかります。

この事件は、被害者の身元確認のできないまま、公安の未決事項ファイルに収まり
ます。
しかし、件の《リヴィエラ》という電話を受けた公安部外事一課の手島修三は、後輩
を連れて、恵比寿のアパートへ行きます。
特に身元のわかりそうなものは何もありませんでしたが、あるピアニストのレコード
が数十枚あり、それは、ノーマン・シンクレアという世界的著名なピアニストだったの
です。
たまたま手島と同行していた後輩は音楽に詳しく、シンクレアのファンで、シンクレア
の所属エージェントを思い出します。「ヘアフィールド・プロモーション」という
マネジメント会社で、ダーラム侯爵の取り仕切るグループの一企業。
「大使館の女」は、ダーラム侯爵の夫人レディ・アンによく似ていた。殺された
身元不明の死体の部屋には世界的有名ピアニスト。これは何かの符号なのか・・・

その日の夜、手島の家にイギリスの製薬会社社員で、手島の卒業したイギリスの大学
の同窓生を名乗る男が訪ねてきます。
サイモン・ピークスというこの男は、先日殺された男女の遺体を見せてほしい、と
頼んできたのです。
そしてサイモンは一通の手紙を手島に渡します。それはイギリスのロンドン警視庁、
副総監の署名入りの紹介状でした。公的ではない、例外的な「私人」として、男女
の遺体を確認したいとのこと。

サイモンと手島は、恵比寿のアパートへ向かいます。そこで、男女の出身が北アイル
ランドであることを手島は知ることとなります。
翌日、手島は上司から、懲戒処分を言い渡されるのです。実は手島は、サイモン某が
訪ねてきたことを上司に嘘の報告をしていたのです。このサイモン某の本名はキム・
バーキン、イギリスのMI5(情報局保安部)エージェントだったのです・・・

手島は日本とイギリスのハーフで、イギリスの大学卒業後、日本の国家公務員試験に
合格、警視庁に入庁が内定した秋に、生まれ育ったイギリスに戻り、アイルランドを
旅行します。その時に、イギリス情報部、MI6(秘密情報部)の《ギリアム》と名乗る
男から、東洋人エージェントにスカウトされます。
返事は保留しますが、この《ギリアム》という名前、サイモンことキム・バーキンが
あるコードネームを確認したがっていた際に出した名前だったのです。

北アイルランド出身とみられる日本で殺された男女、そして《ギリアム》と出会った
のもアイルランドで、日本人エージェントを求めていた・・・

ここから、ジャック・モーガンと、日本で殺されることになった妻リーアンの子供
時代の話を北アイルランドの悲しい実情とともに描き、そしてジャックがのちに
ロンドンに住むことになり、ピアニストのノーマン・シンクレアと出会い、そして
ジャックがIRAに入り、名うてのテロリストになり・・・

《リヴィエラ》の名のもとに、多くの血が流れます。ジャックの父は、なぜイギリス
に亡命してきた中国人の殺害を《リヴィエラ》に頼まれたのか。シンクレアが東京で
見た《リヴィエラ》の正体とは。そして、《リヴィエラ》に関係することになる
あらゆる人物を消そうと企む《ギリアム》とは。ここにアメリカCIAも絡んで・・・

国のエゴといいましょうか、とにかく「国益」を守ることが第一義で、人間の命など
は取るに足らない存在となってしまいます。
しかし、その「国益」こそがじつは取るに足らないクズみたいなものだったりする
わけで、でもそれも守る側というのはたいてい強迫観念にとらわれています。
国というのは物質的なものではなく、単なる概念であって、その概念を作った人間
が国を「使う」のはいいですが、国に「使われる」ようになっては概念の奴隷。

とにかく面白いです。面白いですが、かなり複雑です。本を読み始めのころ、まだ
読書の耐性があまり無かったころにこの本と出会ってたら、おそらく途中で投げ出して
いたことでしょう。

コメント (2)
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