晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

五味康佑 『薄桜記』

2019-12-22 | 日本人作家 か
あれは数年前でしたか、この作品がテレビドラマで放送することになったら、ネットの一部界隈で「パクリだ」と騒ぎ、よくは分かりませんが、タイトルが酷似といいますか(「記」が「鬼」)、時代も「記」のほうが古く昭和、「鬼」のほうは21世紀に入って。さらに内容も「記」のほうは元禄の赤穂義士関連、「鬼」のほうはゲームが原作で新選組だとか。

ま、この手の騒ぎは古今東西使い古されたネタといいますか、ボン・ジョヴィやエアロスミスを聴いた若い子が「B'zのパクリだ」と言ったとか、なんとかかんとか。
「無知は怖いね」というよりか、ネット、特にSNSのような不特定多数が閲覧できる場合はよく調べてから書き込みましょうね、ってことですか。

そんな与太話はさておき。

ここ最近は時代小説・歴史小説を読むのが優先といいますか、文庫の「あとがき」を読んだりしますと、名前は聞いたことがあるけどまだ未読の作品というのがゴロゴロありまして、その中でも特に「近いうちに読まなければ!」と興味を持ったのが、笹沢佐保さん、柴田錬三郎さん、そして五味康佑さん。

どうせ読むならこの人たちの代表作をはじめに読みたいと思っていても、まあなかなか書店にはおいていませんね、大きいところなら別でしょうが。オンラインショッピングとかフリマアプリで探そうかななんて考えていたところ、この『薄桜記』が鎮座してる(ように見えた)じゃありませんか。五味康佑さんの最初に読む作品としてはこれ以上ない出会い。

チャンバラ劇の有名キャラ「丹下左膳」と、『薄桜記』の登場人物「丹下典膳」は、名前こそ似てますが、(隻腕)という設定のほかはすべて別。典膳は隻眼ではありません。もっとも丹下左膳が世に出た(原作は小説)のがだいぶ先ですからモデルにしたことはしたんでしょうね。

時は元禄、江戸に一刀流の「堀内道場」があって、そこに「旗本随一の遣い手」と噂の丹下典膳という侍が通っていました。典膳は幕府の命により大坂に出張中。
この堀内道場には、越後新発田の出だという中山安兵衛という浪人もいます。ある日のこと、中山はただ今道場にはいない「丹下さん」のよからぬ噂話を耳にします。
それは、典膳の奥さんが旦那の単身赴任中に・・・

この「噂話」に端を発して典膳が隻腕の浪人剣士となるわけですが、ここは作品中の序盤の大見せ場なので割愛。

一方、堀内道場ではまったくパッとしない中山安兵衛ですが、例の「高田馬場の義理の叔父の助太刀」で一躍有名に。じつは安兵衛、越後時代に別流派で名手だったのです。
で、なんだかんだで播州赤穂藩・浅野家の家臣、堀部弥兵衛の家に入ることになって、名を「堀部安兵衛」とします。

この、まったく違う境遇のふたりが、どんなことがあったのか、いつの間にかふたりの間には友情が・・・

中山安兵衛は赤穂藩の人間ではなかったのに、運が悪かったのでしょうか、たまたま浅野家家臣に婿入りしたらすぐに例のアレ。
文中では、作者の視点による忠臣蔵分析があって、とても興味深かったですね。
そして、丹下典膳も、運命のいたずらといいましょうか、吉良上野介の身辺警護に・・・

まず、「史実に基づいて」書かれている作品は、大筋は正しいです。しかし、その当時の人々の会話や日常生活の部分はおおいに創作です。隻腕の浪人剣士と飲んだくれの十八人斬りの交流なんて時代小説や講談やチャンバラなどが好きな人からしたらそりゃもうタマラナイでしょうが、「んなの有り得ん」と避けていたらこの作品に出会えないと考えたらそれはとてももったいない話です。
まあ時期的にあれですが、サンタクロースが世界で一番「実在か架空・虚構で論じられてる」のではないでしょうか。
虚構は虚構として楽しむ。
やっぱりこれって人間が神さま(仏さまでもいいですが)から与えられた「特権」だと思うのです。

本作は文庫で700ページ弱。けっこうあります。ただ、久しぶりに読んでて「早くこの物語の結末までたどり着きたい、いやいやまだこの文中の世界観に浸っていたい」とふたつの思いに揺れ動かされました。

あれ、ひょっとして今年最後の投稿になりますかね。いやいや、まだ読んで投稿します。努力目標で。
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熊谷達也 『邂逅の森』

2019-09-07 | 日本人作家 か
とうとう先月は投稿ナシ。慙愧に堪えません。まあ
そこまで大げさな話でもありませんが。

読書じたいを飽きたとかそういうのは一切ありません。
いやむしろ移動や待ち時間が長いと予想されるときに
本を持っていかないとパニックに陥ります。

さて『邂逅の森』です。直木賞と山本周五郎賞をダブル
受賞されてますね。
なんでもこの作品は「マタギ三部作」の二作目なのだそ
うで、今後機会がありましたら一、三作目を読みたいな
と思っております。

舞台は山形県の月山近く、肘折温泉の山奥からスタート。
主人公の富治は(善之助組)という狩猟組に所属する野生
動物の猟を生業とする(マタギ)の一員。

ですが、富治も善之助組も地元は山形ではなく、秋田の山
奥の打当(うっとう)という集落が地元。
もう地元ではカモシカもクマもあまり取れなくなってしま
い、わざわざ旅マタギ(遠征)に。

そんな富治ですが、地元の村のあるイベントで恋に落ちます。

ところがその娘、地主の娘で、しかし富治はドントストップ
マイラブということでなんと文枝という娘を夜這いしようと
地主の家に深夜忍び込みます。ところが文枝はなんと富治を
受け入れるのです・・・

しかしこれが地主つまり文枝の父親にバレてしまいます。

そうして富治は罰として鉱山に行くことに。

さまざまなトラブルに遭ったりもしますが、富治はマタギだけ
あって体力はありチームワークもあるので頭角を現します。
しかしそんな富治に山形県の鉱山に行ってほしいと・・・

なんだかんだで山形の鉱山に行った富治ですが、そこで見習い
鉱夫の(兄貴分)として面倒をみることに。ところがこの小太
郎という名前の弟分、名前とは反対で図体がでかく、おまけに
態度もでかく、富治にいきなりタメ口。
こりゃあハメられたと悔しがる富治でしたが、ある日、小太郎
がどこかに出かけるのを見かけます。しかも銃を持って。
跡をつけていくと小太郎は山に入っていき、なんとクマを仕留
めようとしているのです。ですが富治の目には小太郎の猟はあ
きらかにシロウト。そこで富治は小太郎に声をかけ・・・

この出会いがふたたび富治をマタギの世界に。

性描写やバイオレンスを描いてはいるのですが、エログロな
印象はまったく残らず、なんといいますか、自然の営みのよ
うに淡々と描いているのがとても印象的でした。
よく考えたら子孫を残そうとする繁殖行為も食うか食われる
かの生き残りの戦いもまさに自然そのものなんですよね。
それを人間が(見てはいけないもの・タブー)と勝手に決め
ただけで。

なんだか久しぶりに「強烈な小説」を読んだような気がしました。



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北村薫 『覆面作家の愛の歌』

2019-06-09 | 日本人作家 か
あれ、いつの間にかブログの記事に「ジャンル」でしたっけ、
項目がタグ付けに変わったんですか。

そう、そんな変更も気付かずに、先月は1回しか投稿しません
でした。ヒドイハナシデス。

さて、変な前置きやヘタな言い訳などせずに、さっさと読んだ
本の紹介と感想を。

この作品は北村薫さんの初期の作品で、「覆面作家」シリーズ
の第2弾。ざっと説明をさせていただくと、ミステリ誌の編集、
岡部のもとに新人の投稿があり、会いに行くとその人物は「超」
がつく大豪邸にお住いの女性で、まだ若くしかも超絶美人。
そんな「お嬢さま」、天才的な推理力であらゆる難問を解決して
ゆく・・・といった感じ。「お嬢さま」は、家の中ではおしとや
かなのですが、一歩外に出るとたちまち性格が急変します。
本名は(新妻千秋)なのですがペンネームは(覆面作家)。

「覆面作家のお茶の会」では、他の出版社、岡部にとってはライ
バルにあたる同じミステリ誌の編集、静が登場。
千秋に原稿を書いてもらうために家に来て、お土産に人気のケー
キ屋さんのケーキを持参。そこで、このケーキ屋の主人が最近
「修業し直す」といって姿を消したというのですが・・・

「覆面作家と溶ける男」では、下町で誘拐事件が発生し、静の
親戚の男の子も知らない男に声をかけられたというのですが、
その男は車に乗ったままで声をかけて、手紙をポストに投函し
てほしい、と頼んだのです。そして雨が降ってきたら急いで逃
げてしまいます。はたしてその男の目的は・・・

表題作「覆面作家の愛の歌」では、シェークスピア作品の上演
で人気の劇団の人気女優が殺害されます。容疑者は劇団主宰の
演出家、南条。しかし南条には女優の死亡推定時刻には劇団の
スタッフと一緒にいたというアリバイがあり、しかもその女優
は殺される直前に劇団事務所に電話をかけて、その電話を受け
たのは南条だというのですが・・・

ミステリのシリーズものといいますと、回を重ねるごとに敵側
がパワーアップしていって、そうなってくると主人公側ももち
ろんパワーアップして最終的にドラゴンボールみたいに人対人
じゃなくなってしまうといった作品もあったりします。
このシリーズは3作までですので、その心配はなさそう。
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北村薫 『覆面作家は二人いる』

2019-03-28 | 日本人作家 か
今年は、いや今年どころか去年も一昨年も、投稿する作品は
ほとんど時代小説か海外作品。
ま、読書をリラックスタイムとしているので、読んでる最中
は別の国、別の時代に浸れる、悪く言えば「現実逃避」でき
るということで、あえて国内の現代の小説は選ばないのかも
しれません。

ですが、時代小説と海外小説(しか)読まないというのも、
なんとなく不健康といいますか偏食といいますか。
そんなわけで選んだのが、北村薫さん。

「時と人」三部作、直木賞の「鷺と雪」など有名どころは読
みましたが、本職であるミステリって読んだことないなと思
い、デビューから3年目の初期の作品を読んでみました。

とある出版社の「推理世界」編集部に、(新妻千秋)という
ペンネームの原稿が届きます。
岡部良介は、先輩から「これ読んで」と言われ、次に「明日
この人に会って来て」と急展開。
原稿に目を通すと確かに面白いは面白いのですが、ところど
ころ(妙な)部分があるのです。
そもそもこの(新妻千秋)は男なのか女なのか。

さて、書かれていた住所に着いたのですが、江戸時代の武家
屋敷かというくらいの広大な敷地。インタホンを押して出て
来たのが「執事の赤堀です」というではありませんか。
この世に執事なんて実在したのかと驚く良介。

執事がいうには、原稿を送ったのは(お嬢様)ということで
送り主は女性であることが判明。そして部屋から出てきたの
は、絶世の美女。年齢は19歳。

そもそもこんな豪邸に暮らす何不自由ないお嬢様がなぜ小説
を書こうと思ったのか聞くと「自分でお金を稼いだことがな
いから」とのこと。

それはさておき、何気ない会話の中で、良介は彼女の推理力
に驚きます。そこで、数日前に良介の家の近くで起きたある
事件を話すといきなり「出かけます」と・・・

その事件のあった学校に行くというのです。

しかし、執事は彼女が外出することに反対。そして「お嬢様
は、非常に複雑な方でいらっしゃいますので」と意味深。

その謎はすぐに解決。家にいたときのお嬢様は、か細い声で
「はい・・・、はい・・・」という感じだったのですが、家
から出てすぐに「なんだてめえは」とガラの悪い感じに。
さっきまでの可憐なお嬢様はどこに・・・?

こんなスタートで、ある学校のクリスマスパーティーで起き
た殺人事件、女の子の狂言誘拐事件、女子校生の万引き事件
などに関わってゆきます。

ちなみに、良介は双子で、兄は警視庁勤務の優介。

この作品はシリーズでして、シリーズものを買う場合はまず
1巻を読んで、ああこれは面白いとなって、また本屋に行って
次を買う、場合によっては4巻か5巻くらいまでまとめて買う
こともありますが、今回は珍しく、すでに2巻も購入。

調べましたら、1998年にNHKで「お嬢様は名探偵」というタイ
トルでドラマ化されてますね、記憶にないなあ。
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海堂尊 『極北ラプソディー』

2018-08-19 | 日本人作家 か
この作品は、いちおうシリーズとしては「極北編」という
括りにはなっていますが、バチスタシリーズも関係してく
るし、「バブル3部作」という括りの、ドラマで話題にな
った「ブラックペアン1988」の登場人物も出てくるし、こ
れを読む前にいろんな作品を読んでおくと、より深く理解
できると思います。

さて、「極北」とは、北海道にある架空の街「極北市」。
第3セクターの失敗により巨額の財政赤字を抱え、ついに
自治体として経営破綻。・・・と見ると「ああ、メロンで
有名なあの」と思い浮かべますが、架空。

「極北クレーマー」では、極北市民病院に大学から派遣
されてきた今中という医師が、赤字病院の運営、地方医
療の現実、そして医療事故裁判という難しい問題に関わ
りますが、今中が所属する大学の医局から戻ってこいと
命令があったのですが、戻らず市民病院で医師を続けま
す。

そんな市民病院の新しい院長に「地方医療の再生請負人」
の世良という人物が就任します。大胆なコストカットと
リストラで一時期は注目を集めますが、患者数の減少や
救急の受け入れをしないなど各方面からの不平や不満が
湧き出てきて、そこで世良は、今中を隣の雪見市にある
救命救急センターに派遣することに。

ここで登場するのが、元・東城大付属病院の救命救急医
「血まみれ将軍(ジェネラル・ルージュ)」こと速水。
速水は雪見市の救命救急センターの副センター長になっ
ています。なんで東城大の医師が北海道に、というのは
「ジェネラル・ルージュの凱旋」に書かれていますが、
まあいろいろあって北海道にやってきます。

救急医としての腕は素晴らしいのですが、なにせあだ名
が「将軍」というくらいですからワンマン独裁で、周り
の医師やドクターヘリ会社の人たちとうまくいってない
様子で・・・

ちなみに、世良は「ブラックペアン1988」に登場した、
当時はまだ研修医。で、ここに大学生として出てくる
のが、バチスタシリーズでおなじみ田口、放射線科の
島津、そして速水。

医療費未払い患者を受診拒否し、その人が急死すると
いう事件が起こり、メディアの姿勢や医師の厳しい現
実を描いています。

クレーマーやバッシング体質も良くないですし、一方
の医師側の隠ぺい体質もまた良くないですし、この
「甘やかすな」「甘えるな」のやりとりが続けば医療
が良くなるとは思えませんが、他者に厳しくではなく
自分たちに「甘やかさない」「甘えない」に変われば
いいですね。
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海堂尊 『ケルベロスの肖像』

2015-04-19 | 日本人作家 か
さて、久しぶりの「バチスタ」シリーズ。

文中にたびたびでてくる「アドリアネ・インシデント」という言葉。
前作の「アドリアネの弾丸」のことなんですが、あれ、どんな内容
だったっけ・・・とすっかり忘れていました。

読んだ記憶はあったので当ブログで調べたら、2012年の1月に投稿して
ました。3年前じゃ覚えてないですねえ・・・

とにかく、ざっと書きますと、舞台の東城大付属病院、それから厚生労働省
では、新しい死因検証、エーアイ(死亡時画像診断)の導入が検討されて
いるのですが、従来の解剖をやってきた警察などからは猛反発。

そんな中、東城大に「エーアイセンター」ができることになり、田口は
高階病院長からセンター長を押し付けられていたのですが、今度は別の
頼みごとのようで院長室へ。

「八の月、東城大とケルベロスの塔を破壊する」

という脅迫文が送られてきて、院長は厚労省の白鳥に相談し、白鳥の部下の
姫宮がこの件の調査にあたるとのことで、姫宮に会いたいと願っていた田口は
この脅迫文を送った犯人探しに協力することに。

しかしこの件には桜宮市の過去の因縁が複雑に絡んでいるとのこと。
とくに碧翠院桜宮病院の火災事件。

それとは別にエーアイセンターの設立にあたり、運営連絡会議をひらく
ことになり、田口は会議の参加メンバーを集めることに。
その中には、日本人でもっともノーベル賞に近いとされている、
マサチューセッツ医科大学上席教授、東堂文昭の名前が。

東堂は世界に3台しかないというマンモスMRIを日本に持ってくるの
ですが・・・

はたしてエーアイセンターは無事開業できるのか。そして、脅迫状
を送った人物は、その真の目的とは・・・

東京にある大学病院で医療事故があって、裁判になってカルテの改ざん
が分かったり、北関東の大学病院でも短期間で同じ手術で8名も死亡
していることが分かったり、僕自身が長期間入院したこともあって、今まで
あまり関心を持たなかった医療関係のニュースも他人事じゃなくなり
ました。
これまで、普通に「ああ面白いなあ」といった感じでしか読んで
こなかった海堂尊の小説ですが、ちょっと感じ方が変わりましたね。

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北村薫 『ひとがた流し』

2015-02-10 | 日本人作家 か
更新にずいぶん間が開いたちょっとした言い訳。
入院期間中に早寝早起きの習慣がついてしまったため、
「さて寝ようか・・・」とベッドに入るとすぐに
寝てしまうので、今までの読書時間である就寝前の1時間
に本が読めない!という生活。
なので、起きてる時間帯のちょっとヒマを見つけては
読んでます。

北村薫といえば、「鷺と雪」が直木賞を受賞したとき、
「あれ、けっこうベテランでも直木賞あげるんだ・・・」
なんて思ったものでした。

アナウンサーの千波、千波と小学校からの知り合いの牧子、
そしてふたりの友人、日高美々。

おおまかにいえば主役は千波、でも読み終わった感想としては
主役は3人。

ある日、牧子から千波に電話が。牧子は離婚してひとり娘の
さきと2人で暮らしています。
千波は独身。で、さきが気になるミュージシャンのライブが
東京の青山であり、それに行きたい、と。
でも牧子としては娘がひとりで行くのは不安、そこで、テレビ局
勤務で世慣れてそうな千波の意見を聞くために電話をかけてきたの
です。
最終的に千波、牧子とさき、そして美々とその娘の玲の5人でライブ
に行く事に。

そのライブで、千波のことをずっと見つめてる男がいるのをさきは
見つけますが、さきにとって千波は小さいころから知ってる「おばさん」
ですが、千波はテレビに出ているアナウンサー。そりゃ周りも「おっ」
となるだろうとその場は気にとめなかったのですが、後日、牧子と千波が
病院で人間ドックに行ったあとに寄ったファミレスに件の男が。
ファミレスの客の名前を書くところに、その男はスズキと・・・
しかしそこに千波はいません。というのも、検診が終わった後、千波だけが
看護師に呼ばれます。それから3人で食事に行く予定でしたが、千波は
キャンセルします。

ここで別の章に変わり、日高家の話に。
美々は娘の玲、夫で写真家の類と3人暮らし。そんな類が銀座で個展をひらいて
いて、そこに、千波がやってきます。
どうも様子がおかしいと類は牧子に電話をかけるのですが・・・

千波はどうしたのか。日高家で玲の知ってしまった事実とは。
そして千波のストーカー?疑惑の「スズキ」とは誰なのか。

やはり、北村薫は文章が巧い。読み終わって、そんな感想。

タイトルの「ひとがた流し」とは、川に人の形に切った紙を流す行事。
千波は小さい頃にそれをやって、紙に願い事を書いた記憶があるのですが、
大人になって調べたら、厄払いのように災いを人の形の紙に移して川に
流すというもので、七夕のように願い事を書く例もあるそうです。

そんな思い出を千波は思い出します。このシーンがさらっと書かれている
ようで、印象深い。
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海堂尊 『マドンナ・ヴェルデ』

2013-06-14 | 日本人作家 か
この作品は、「ジーン・ワルツ」と話が前後しているというか
交差しているような内容で、まだ両方とも読んでないという方は
セットで読むと、より分かり易いかと思います。

帝華大の講師で、非常勤でマリア・クリニックという産婦人科医院
に通ってる曾根崎理恵は、久しぶりに桜宮市にある実家に帰ります。

理恵は父を早くに亡くし、上京するまでは母のみどりとふたり暮らし
をしていて、母娘とても仲良しと思いきや、みどりはどこか理恵に
たいして、遠慮ぎみ。

さて、実家に帰ってきて、理恵は突然、母親に代理母になってほしい
と相談してきます。

いきなり何を言い出すのかと驚くみどり。よくよく話を聞いてみると、
夫の伸一郎はアメリカに単身赴任していて、夏休みに夫のところへ
行ったとき、妊娠したのですが、理恵は子宮に奇形があることが分かり
ます。

昔から、みどりの性格を見透かすようなところのあった理恵。「ママって
冷たい」という言葉は、みどりの心に突き刺さり、それが呪いのように
まだ残っていて、一番辛いのは理恵なんだ、と自分に言い聞かせ、承諾
するのです。

ところが、肝心の伸一郎には代理母の許可はもらってないというので、
みどりはアメリカに手紙を出します。

さっそく、東京にあるマリア・クリニックに出かけるみどり。
そこで、妊娠できる体にするためにホルモン治療を受けることに。

さて、家に戻ったみどりですが、伸一郎からの手紙に衝撃を受けます。
そこには、伸一郎は精子を採取された記憶などない、と書かれていて・・・

その後、理恵から「次にこの病院にくるときはなるべく素性を隠して
ほしい」と言われます。なんでそんなことをするのと聞くと、「代理母
は日本では正式には認められてないから」というのです・・・

みどりは妊娠するのですが、はたして出産はできるのか。

「ジーン・ワルツ」にもちょっと出てきた、みどりと同時期にマリア・
クリニックに通う、お腹の赤ちゃんの相手が誰だかわからない、遊び半分
で妊娠したユミという少女がいるのですが、『マドンナ・ヴェルデ』では
ユミとみどりの交流が描かれていて、それが、みどりが理恵にとって思い
もよらぬ行動に出ることになります。

ここでも、官僚や医学界の権威たちは、誰のために法整備をしているのか、
という辛辣なメッセージが込められています。
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海堂尊 『ブレイズメス1990』

2013-01-31 | 日本人作家 か
この作品は「ブラックペアン1988」の続編にあたるのですが、なにせ
ブラックペアンを読んだのはだいぶ前、正直どんな話かほとんど覚えて
なかったので、当ブログで前に書いた感想を見て、ああ、と思い出し
でから読み始めました。

東城大学医学部総合外科学教室の垣谷という講師と、外科医になって
僅か3年の世良は、国際学会のシンポジウムのため、フランスのニース
に来ています。

本来は、垣谷よりも上のポジションの人が来るはずだったのですが、
英語がダメやらなんやらで垣谷の役目となりますが、世良はただの
”お供”ではなく、病院長の佐伯から、ある”密命”を仰せつかって
いたのです。

学会では垣谷の発表が終わり、いよいよ注目の「ダイレクト・アナスト
モーシス(直接吻合法)」という、聞いたことのない術式を発表する、
モンテカルロ・ハートセンターの天城雪彦という医師の講演がはじまる
ところですが、その天城はなんと、このシンポジウムをドタキャン。

しかし、なんとしても天城に会わなくてはならない世良は、ニースから
モナコへ移動。カジノにいる、と病院の人に教えてもらい、ようやく天城
に会うことができ、世良は佐伯病院長の手紙を渡します。

それを読んだ天城は表情が一変、その手紙の内容は、天城に東城大学付属
病院の新施設、心臓外科センターのセンター長になってほしい、ということ
だったのです。

この天城という医者は、ここモナコで治療をする際、患者に全財産の半分を
カジノで賭けさせて、当たれば手術、外せば手術はしない、という方針を
とっていて、さらに、天城は世良に、赤か黒かの一発勝負で勝ったら日本に
行く、と提案。これに垣谷は納得できません。が、世良は了承します。

結果は負けとも勝ちともつかず。しかし天城は、日本行きを承諾することに。

さて、いくら病院長が直々にセンター長に要請したとはいえ、当然もともと
総合外科にいた人達は面白いはずもなく、しかし天城はどこ吹く風で余裕。
世良は天城の”お守り役”に任命されて、総合外科の先輩たちから白い目で
見られます。
ここで、天城に食ってかかる急先鋒が、バチスタシリーズでは病院長の高階
(1990年の時点では講師)です。

世界で天城しかできないという心臓手術の「直接吻合法」を、まったく行う
こともせず、他人の手術を覗いたり、会議に茶々を入れたりの日が続きます
が、ある日、天城は唐突に、今度手術をする、と告げます。

ところがその手術というのが、東京で行われる学会の、なんとステージ上で
公開手術をする、と・・・

この作品でも、「医療」とは何か、という、根源的、本質的な問いを読者に
ぶつけてきます。といっても禅問答みたいなものですが。

文中に、桜宮が一億円で作った「黄金の地球儀」や、珍しい深海魚の話題が
出たり(「夢見る黄金地球儀」に出てきます)、”でんでん虫”こと、碧翠
院桜宮病院が出てきたり、スピンオフの中にさらにスピンオフが取り上げられ
ていて、今まで海堂尊の作品はほとんど読んできましたが、ここにきて桜宮を
取り巻くいろいろな話がこんがらがってきたので、一度「チームバチスタの栄光」
から読み直してみないとだめですね。

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角田光代 『八日目の蝉』

2012-12-11 | 日本人作家 か
文学賞を受賞する前から話題になって、映画化もされドラマもやって、
なるべく情報(話の内容)をスルーするようにして、そんな『八日目の
蟬』、ようやく読みました。

とはいっても漏れ伝わるものでして、どこぞの女が赤ちゃんを誘拐して
逃げ回って、けっこうな年になるまで女の子を育てて捕まって、みたいな
話だ、ということは知ってしまいましたが。

希和子は、前に不倫関係だった同じ会社の男の家にいます。毎朝、男の妻
は駅まで送って数十分は留守になることまで調べています。
家に忍び込む希和子。そこには、男とその妻の間に生まれた赤ちゃんが。

衝動的に赤ちゃんを抱く希和子。そして、抱いたまま家を出ます。

赤ちゃんの実名は知らないので、勝手に「薫」と名づけ、とりあえず希和子
は友達の家に。赤ちゃんの存在は適当に話を作ります。しかしいつまでも
お世話になっているわけにもいかず、希和子はあてもなく彷徨います。

そして着いたのは名古屋。公園で薫をあやしていると、謎の老婆が「家においで」
と誘ってくれるので、行ってみることに。とはいったものの、老婆は希和子と
赤ちゃんには無関心。それどころか薫が泣くと「うるさい!」という始末。

とりあえずお世話になっている希和子ですが、この家は立ち退きを迫られて
いるようで、あまり長居はできそうにありません。そして、ある日、新聞を
読んだら、そこには、赤ちゃんを連れ去った男の家が火事になった、という
ニュースが。たしかにストーブはつけっぱなしだったけど、私はやってない・・・

ある日、この家の近くをふらふら歩いていると、友達の家にあった、アトピーが
治るとかいう水を売ってる、ちょっと怪しい「エンジェルホーム」という団体の
移動販売車が。

そして希和子は、「エンジェルホーム」に入会することに。そこは女性だけで
共同生活をしている集団で、外部との接触は基本的に禁止。それどころか、
このホームで暮らすには、全財産をホームに渡さなければならず、しかし希和子
は、当面はここにいたほうがいいということで、父の遺産や自分の貯金の、かな
りの大金をホームに差し出します。

さて、ホームでは、俗世間とは違う呼び名といえばいいのか、みんなカタカナ名
でお互いを呼び合います。寝るとき以外は薫と引き離される、たまにホームの外
には「娘を返せー!」という集団が。そんな奇妙な生活をしばらく続けていくうち
に、希和子は瀬戸内海の小豆島出身の久美と親しくなります。

ここでの生活も、やがて難しくなり、希和子は久美の手助けで脱走することに。
そして希和子と薫は、久美の実家へと向かいます。

小豆島での生活は、はじめはラブホテルの住み込みのバイトをして、そのうち久美
の母親が家の仕事を手伝ってくれ、といってくれたので、久美の実家にお世話に。
薫はすっかり島に溶け込んで友達もできます。
そのうち、希和子にお見合いの話まで出てきます。
しかし、ある日、久美の母親から「今日はこなくていい」という電話が。事態を
察した希和子は急いで島から逃げようとするのですが・・・

ここで第一章の終わり。そして二章では、薫こと秋山恵理菜が大学2年になっています。
居酒屋でのバイト帰り、いきなり「リカちゃん」と声をかけられます。
「リカ」とは、恵理菜が”あの女”に連れ去られていたときに、怪しい団体の内部で
呼ばれていた自分の名前。
「リカちゃん」と呼んだ女は、同じくエンジェルホームにいた、いっしょに遊んでいた子
、マロンこと千草。

千草は、エンジェルホームでの生活を自費出版で本にしようと、当時いた人を探していて、
特に恵理菜から「あの事件」について詳しく聞きたがっているのです。

ここから、「あの事件」、つまり”誘拐犯”の希和子が捕まったことですが、あの日から
今まで、薫として育ってきたことが全部嘘で、実の両親のもとで”恵理菜”として過ごして
きた過程が描かれてゆきます。

そして、希和子が赤ちゃんを連れ去った動機というか経緯、秋山家と希和子の関係が、
マスコミや希和子の取り調べ、裁判での陳述などから分かってきます。


ずいぶん陰鬱なテーマですが、これをさらっと読ませ切るのは、作者が文中で説教じみた
内容を書いてないことですかね。これによって登場人物に感情移入しそうでできない、
そこらへんのバランス配分が絶妙。
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