晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

井上靖 『夏草冬濤』

2023-09-10 | 日本人作家 あ

8月は投稿なしでした。学校のほうがいろいろやることがあって、小説を読んだのは移動時間くらいで、あまり読めませんでした。

 

という言い訳はさておき。井上靖さんです。この作品は井上靖さんの作品「あすなろ物語」「しろばんば」に続く自伝的作品で、洪作というメインキャラの背景はだいたい同じになってます。お父さんは軍医でお母さんと妹と転勤して、洪作は伊豆の複雑な家庭環境の中で育って、それでも勉強はできて旧制中学にトップ入学します。三島の伯母の家に下宿して沼津中学に通っています。

泳ぎが苦手な洪作は水泳講習会に参加しますが上級生に強制されて飛び込んで溺れます。そこに別の上級生がボートで救助に来てくれます。この上級生というのが、ちょっと不良っぽいグループで、ですが彼らの自由奔放さに洪作はちょっと気になります。

洪作は反抗期といいますが自我の目覚めといいますか、なんともやる気のない生活を送り、もちろん勉強もしないので学校の成績は落ちる一方。伯母は「うちに住んで成績が下がったなんて思われたくない」といって勉強しろとうるさく言いますが洪作はどこ吹く風。

しかし、離れて住む母から、これ以上成績が悪くなるなら寺へ預けると通告。

寺なんか行きたくないと洪作は勉強しますが、上級生のグループとひょんなことから付き合い始め、さらに彼らから「寺に住むのか、いいなあ」なんて言われて、洪作は勉強をやめてしまいます。

気になる女の子とのエピソードや、洪作が実家に戻ったときの幼なじみとのすれ違いなど、青春ストーリーにはなってます。

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ネルソン・デミル 『王者のゲーム』

2023-07-17 | 海外作家 タ

暑いです。と書いたところで涼しくなるわけもないのですが。

 

さて、ネルソン・デミル。この作品は「ジョン・コーリー・シリーズ」の第2作目でして、だいぶ前に3作目の「ナイトフォール」を読んで、主人公はいっしょでもそれぞれ独立した話で順番はバラバラでも別に構わないということでようやく6年越しに手にしました。「ナイトフォール」に出てた「妻のケイト」とはこの作品でジョンと初めて出会って結婚したんですね。

元ニューヨーク市警の刑事、ジョン・コーリーは、連邦統合テロリスト対策特別機動隊(ATTF)のエージェントで、中東セクションに所属してます。ニューヨーク市警の刑事だった時に銃撃戦に巻き込まれて撃たれて、その後退職、刑事の学校で教員をしていましたが、連邦政府が警察での勤務経験がある人材をATTFで募集していると聞き、入ることに。

チームのメンバーは、CIAのテッド・ナッシュ、FBIのジョージ・フォスター、ニューヨーク市警のニック・モンティ、FBIのケイト・メイフィールド。

 

パリのアメリカ大使館に、アサド・ハリールというリビア人が亡命を希望してやって来ます。アメリカやイギリス、フランスなどの捜査機関が調べたところ、ハリールが訪れた西ヨーロッパ各地で爆破事件やアメリカ空軍士官殺害事件、アメリカ人小学生が銃撃されて殺された事件に関与が疑われているのですが、どれも立証されておらず、監視対象になっていたのですが、なんとパリのアメリカ大使館に堂々とやって来ます。

ハリールを保護勾留してパリからニューヨークの飛行機で連れてくるのですが、空港について車に乗せて無事にマンハッタンまで送るまで見届けるというのが、今回のミッション。

ニューヨークの航空交通管制センターで、パリ発トランスコンチネンタル175便が無通報状態になっていると責任者が報告を受けます。しかしこれはよくある話で、周波数を間違えてたり、自動操縦にしてフライトクルーが眠っていたり。何度交信しても応答なしで、ケネディ国際空港の管制塔に連絡して、救難サービス隊に警戒態勢をとってもらうことに。もしやハイジャックされてるのでは。

結局、なんの応答もないまま、トランスコンチネンタル175便はケネディ国際空港に着陸。パイロットに交信しますが、応答なし。ATTFのチームにもハリールを載せた飛行機が滑走路上で止まったままになっていて、無通報状態で着陸したと報告が入ります。

機内に火災の兆候は見られず、救難サービス隊は中に入ってみることに。物音ひとつせず、乗客は全員死んでいたのです。しかし、乗客の顔は毒ガスや煙、無酸素のような悶え苦しんでいる状態ではなく安眠しているよう。トイレに行きたくなり化粧室を開けると中に男が。お前は誰だと聞くと「私はアサド・ハリール」といって・・・

様子がおかしいので、ジョンとケイトは飛行機に向かいます。そこで、死体運搬車と医学検査官の出動が要請されていると知ります。中に入り、亡命者のリビア人と両隣のFBI職員の席に行くと、真ん中の男はアラブ系の男ではありますがハリールとは別人。パスポート、身分証明書、財布の中の金は取られておらず、銃だけが盗まれていました。他の乗客を確認すると、毛布に覆われた男を見つけ、額にマスクがかけてあるので持ち上げると額には銃口が。最初に機内に入った救難サービス隊の隊員でした。

ジョンは、なぜアサド・ハリールは銃(だけ)を盗んだのか、何かがおかしいと思いFBI職員の手を見てみるとふたりの指が切断されています。「まずい!」と急いでATTFの作戦本部に戻ります。指紋認証のドアを開けると女性職員とニック・モンティの死体が・・・

アサド・ハリールはどこに消えたのか。飛行機の乗客300人を殺害してまでアメリカに来たかった理由とは。ジョンはハリールを捕まえることができるのか。

文庫の上下巻とも700ページを超える厚さで、つまり合わせて1400ページの大長編。他にやることがあったとはいえ読み終わるまで1ヶ月かかってしまいました。しかし面白いです。ものすごく面白いです。児玉清さんのあとがき解説で「僕が好きな作家のトップに迷わず推すのがデミル。だが残念なことに日本では人気度がいまひとつ」とありますが、本当になんでしょうね。

内容的には重苦しいといいますか陰惨な部分もあったりしますが、オフザケにならない程度に笑える、特にジョンとケイトのやりとりは最高。

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村瀬孝生 『おばあちゃんが、ぼけた』

2023-07-09 | 日本人作家 ま

今年度から、学校のほうのレポートやらなんやらであまり本を読めておりませんので、投稿は5月6月と1回のみ。ひどいもんです。今月にはどうにか今読んでるけっこうな長編を読み終わればいいなあと思っております。

さて、この作品は小説ではありませんが、いちおう「読書した」ということで。

村瀬孝生さんという方、老人ホームで働いてのちに現在は宅老所の代表をされていまして、谷川俊太郎さんと交流があり、あとがきを書かれています。

施設に入所されている入所者のおじいさんおばあさんの面白おかしいエピソードや時に悲しいエピソードが書かれています。あれは吉本隆明さんでしたっけ、「良いことをするときはコソコソと悪いことをやってると思いながらやるのがちょうどいい」ってありまして、大っぴらに「ワタシは善行をやってます!」ってなると、ともすれば自分は偉い、立派と思ってしまうので、というもの。ただの承認欲求ですからね。

認知症の知能検査で物品テストというのがあり、5つの鉛筆とかパイプとかを出して「覚えてください」といって1分後に隠して「何があったか思い出してください」というやつなのですが、あるおじいさんはこれに激怒。なぜなら「何があったか聞くぐらいなら最初から隠すな」という言い分。まったくその通り。

年配になればなるほど「人様に迷惑をかけてはいけない」という教育と家庭での躾の中で育っているので、介助も容易にできません。

「あなたらしく生きてください、生きがいを持ってください」と言いながら、何時から何時まで食事、何時から入浴、何時に就寝、という施設側の作ったスケジュールについてこれない入所者を「問題を起こす」と扱う。おじいさんおばあさんはひとりひとりの「時間」があって、自分たちのペースがあるのですが、そのペースを待てないのは職員のほうで、菓子パンが好きな人は誤嚥しないため少量ずつ鳥のようについばんで食べると何時間もかかるからミキサーでペーストにしてスプーンで口に入れる。雲を眺めるのがすきな人はいつまでも眺めているので時間を決めて中に入れる。読書が趣味の人は同じページを繰り返し繰り返し読んで食事や入浴時間を守らないので本を隠す。

「あなた」って誰ですか。

具体的な話は書けませんが、入院していたおばあさんが生まれ故郷の西日本にある離島の病院に転院することになりました。何十年も前に家族の都合で関東にやって来たのですが、もう会話もしなくなって亜空間を見てるだけ。ところが島の病院からの報告で喋るようになったそうです。やっぱり空気感といいますか、聞き慣れた方言を耳にしたからか。

介護保険制度って、できた経緯は「住み慣れた家や地域で余生を送ってもらう」だったのですが、姥捨て山状態。これじゃイカンということで食事とベッド代は自己負担に変更。

「老い」とか「ぼけ」は、いずれ誰でも来ることですが、現状は社会からの隔離と抑制。そして施設間のたらい回し。このような状態で「一生懸命生きる」ってできますかね。

決して小難しい話ではなく、ライトタッチで書かれています。挿し絵もコミカル。ポップなメロディで警鐘を鳴らしています。

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東川篤哉『探偵少女アリサの事件簿 溝ノ口より愛をこめて』

2023-06-05 | 日本人作家 は

当ブログの自己紹介にもありますがただ今大学生(通信制)でして、3年前の秋入学ですのでまだ3年生なのですがスケジュールは春入学に合わせなければならず、つまり履修期間は4月〜2月(初年度のみ10月〜)で、進級を希望する人は学年末の2月に次年度の履修科目の登録をする、ということになります。よって、今はまだ3年生なのに4年生の科目を受けているというメンドクサイ状態ではあるのですが、面白いのが、このままちゃんと卒業要件である単位を取得すれば来年の秋(9月)には卒業できますが、その翌年の3月に卒業つまり半年の履修期間延長ができるのです。もちろんその期間の学費は無料。どうせタダなら半年間大学生を満喫しましょうかね、といってもキャンパスライフはほぼ無縁ですが。

はじめてあの娘に出会った朝は 僕は二十歳でまだキャンパスも春。

 

さて、東川篤哉さん。

スーパーに勤めていて発注ミスでクビになった橘良太は地元の神奈川県川崎市の南武線沿いに戻って「なんでも屋」をはじめます。ある日、以来の電話が。今度の土曜日の夜、3時間ほど力を貸してほしいというのです。なんとその報酬3万円、つまり時給1万。いちおう「犯罪以外は何でも受ける」と宣伝はしていますが、大丈夫なのか。最寄りの武蔵新城駅から南武線に乗って武蔵溝ノ口へ。今回の依頼人である篠宮龍也から聞いた住所に着くと豪邸が。龍也の父の篠宮栄作は有名な画家で、龍也も画家。で、その依頼とは、ヌードのデッサン。終わりかけた頃に突然女性の悲鳴が。地下の栄作のアトリエに入ると、頭から血を流して倒れている栄作が。この事件に関わった良太ですが、別件の依頼でまた溝ノ口へ。そこで出会った名探偵夫婦の娘、綾羅木有紗という10歳の女の子の子守りをすることに。ところが有紗は近所で起こった有名画家の殺害事件の関係者の中に良太がいた事を調べていて、事件現場に連れて行ってほしいと・・・という「名探偵、溝ノ口に現る」。

次の依頼はまたしても綾羅木家からで、今度は有紗に武蔵溝ノ口から分倍河原まで電車で行って分倍河原駅の近くの喫茶店で有紗の父親の知り合いに原稿を渡してきてほしい、良太はその「見守り」をする、というもの。喫茶店にすでにいた中崎という男に原稿を渡したのですが、その帰り、ベンチで女の人が死んでいるという噂を聞き、その後警察が有紗のもとにやって来て詳しく話を聞きたいというのです。じつはそのベンチで死んでいた女性というのは中崎の浮気相手で・・・という「名探偵、南武線に迷う」。

ある日「なんでも屋タチバナ」に女性の依頼人が。内容は浮気調査で、依頼人の夫はパチンコ屋やゲームセンターを運営してる会社の社長で、妻が出かけている間に浮気相手を家に連れ込むかもしれないのでその証拠を掴んでほしい、というのです。そして、依頼人の母の友人という設定で良太と有紗が家に泊まることになったのですが、翌朝、夫が起きてこないので部屋に入ると頭から血を流して・・・という「名探偵、お屋敷で張り込む」。

今度の依頼は、地元商店街の草野球チームのメンバーが足りないから出てくれ、というもの。良太が助っ人に入ったチームは惜しくも負けますが、なんと今度はその試合の対戦相手から助っ人として呼ばれることに。試合開始のだいぶ前にグラウンドに着いてしまった良太は、マウンド付近で人が倒れていることに気付きます。近寄ってみるとその人物は今日の良太が入るチームの監督だったのです・・・という「名探偵、球場で足跡を残す」。

東川篤哉さんの作品は基本オフザケ満載なのですが、ミステリやアクション、サスペンスが好きな人が思わず「ニヤリ」とするネタを盛り込んで来るのでその部分が楽しみでもあります。まずタイトルがそうですね。あと有紗の親が依頼があって出かける事件の内容が「アレじゃねーか」と思わずツッコミたくなります。

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ロザムンド・ピルチャー 『夏の終わりに』

2023-05-14 | 海外作家 ハ

今年の、公共放送では大型連休と呼んでいるでお馴染みゴールデンウィークですが、夜勤が1日おきに入ってましてゴールデンウィーク期間中はずっと仕事でした。もっとも土日も祝日も盆も正月も関係ないような職種ですから世間の休みと自分の休みが重なると出かけたくなくなるといいますか。平日のほうが空いてますし。

ワーカホリックではありません。

さて、ロザムンド・ピルチャー。スコットランドの女性作家。だいぶ前ですが「9月に」という作品を読みまして、作者の名前も作品もしらずに買って読んだらこれがまた面白かったのです。「面白い」というのはハラハラドキドキのスリルとかジェットコースターのようなスピード感とかではありません。そういうのは全くありません。ごく普通の登場人物でごく普通の話が淡々と述べられていく、ぶっちゃけ地味な内容なのですが、なぜか物語に引き込まれてしまい、読後にはとても良い本を読んだと心がほんのりあったかくなるような気分になります。

アメリカ西海岸カリフォルニアの観光客はまず来ない場所にある家に住んでいる娘ジェインと父のふたり暮らし。飼い犬もいます。ジェインの父は映画やドラマの脚本家で、もともとはスコットランドに住んでいたのですが、ジェインの母親の死後にアメリカに移り住んではや7年。ある日のこと、父は出かけていてジェインが家にひとりでいると一台の車が家の前に停まり、男が父に用があって来たと告げ、玄関越しにジェインの声を聞くと「ジェインだね?」と言います。

男はデイビッドといいスコットランドに住むジェインの祖母の弁護士。アメリカまで来た理由は祖母が何度も手紙を出しても返事が来なかったからで、ジェインはそのことを知りません。手紙の内容はジェインにスコットランドに帰ってきてほしいということなのですが、じつは父娘がアメリカに来る前、父と祖母が言い争っていたことがあったので、父がそれを読んで娘を帰らせたくなかったので隠してたのか。

もっとも、父と飼い犬を残して帰ることは難しく、スコットランドには帰らないと言いますが「火曜までいるので気が変わったら連絡をくれ」といって帰ります。父の机を開けるとそこには祖母からの手紙が。するとジェインの脳裏に懐かしいスコットランドの情景が思い浮かんできます。翌日、父が恋人のリンダといっしょに帰ってきます。なんとこれからいっしょに暮らすというのです。

ジェインはスコットランドに帰ると決心し父に告げ、弁護士が来て手紙の件も知ってしまったことを言うと「とめないよ」と許してくれます。そして、デイビッドといっしょにイギリス行きの飛行機に乗ります。ロンドンから寝台列車でエディンバラを過ぎてスロンボという駅に着きます。そこから車でしばらく行くとエルヴィー湖があり、ほんの半マイル先にエルヴィー荘が。到着すると中から祖母が出てきて7年ぶりの再会。

デイビッドが帰り、家に入ると祖母が「驚かせたいことがある」といってジェインが振り向くと「お帰り、ジェイン」と、ロンドンに住んでいるはずのいとこのシンクレアが立っています。休暇を取って戻ってきて、ジェインはシンクレアと懐かしい人に会ったり懐かしい場所へ行ったりします。

ふたりでピクニックに出かけると、いきなりシンクレアが「結婚しよう」とジェインにプロポーズを・・・

ジェインがまだ小さかった頃、密かにシンクレアに恋心を抱いていたことはあったのですが、ジェインはオーケーするのか。そして、知ってしまった家族に関する秘密とは。

 

こういう感想だとロマンスぽい内容のようですが、ロマンチックな結末ではありません。冒頭、カリフォルニアから始まったのでびっくりしましたが、その後のメインストーリーはスコットランドになったので安心。そしてスコットランドの情景描写はとても美しく、行ったことがなくてもなんだか懐かしい気持ちになってしまいました。「蛍の光」や「故郷の空(誰かさんと誰かさんが麦畑)」、「スコットランド・ザ・ブレイブ」といったスコットランド民謡やバグパイプの演奏を聞くとなぜか懐かしさがこみ上げてきます。音楽の専門的な話になりますが日本の歌とスコットランド民謡の共通点として「ヨナ抜き音階」というのがあって、ドレミファソラシドを数字にして4と7つまりファとシが無い、ドレミソラドの5音で構成されているメロディーが多いのです。ちなみに沖縄音楽は2と6(レとラ)抜きの「ニロ抜き音階」といいます。じっさいに弾いてみたらわかります。

 

 

 

 

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井上ひさし 『おれたちと大砲』

2023-04-27 | 日本人作家 あ

週に2日か3日くらいですがウォーキングをしてまして、その距離だいたい7〜8kmほど。それくらい歩いてますとシューズのすり減りもたぶん早くて、そろそろ新しいのを買わないといけないのですが今までスニーカーというかランニングシューズを買っていたのですがやはりウォーキングシューズを買ったほうがいいんでしょうかね。

ウォーキングバイマイセルフ。

さて、井上ひさしさん。

江戸、深川の料亭で下働きをしている土田衛生(もりお)。名字があるということは微禄とはいえ一応は御家人つまり直参の武士。この衛生、ある特殊な「芸」があります。それは「尿筒(しとづつ)」というもので、もとは将軍の用足しの際の御用を務めます。将軍様に御尿意をお催しの気配ありと察すれば尿筒を御装束を着たまま御裾から差し入れて御立小便をなさっていただく、という代々の御役が土田家なのですが、衛生は末端のそのまた末端で、生きているうちに将軍様の御用を務めるのは難しいので尿筒の修行と金稼ぎで料亭で働いているのです。

幕末に幕府が設置した武芸訓練機関「講武所」が「陸軍所」と名前を変え、その中に特別幹部養成所というのができ、そこを卒業すれば将軍様の身辺警護の御番人になれるという情報を聞き、衛生は試験を受けることに。そんなこんなで料亭に着くとたいした芸当の新入りがいるというのです。見てみると客の履物をシャッシャと投げて玄関先に立っている客の前にピタリと着地します。この男の顔を見た衛生はあっと思い話しかけると「隊長!隊長の衛生さんじゃないですか!」と気付きます。この男、鶴巻重太もじつは御家人で、将軍様の草履持。しかしお目見得以下でお近づきになることはできないので遠方から将軍様の御足許にピタリと揃うように草履を投げるという御役。衛生と重太は子どもの頃に「黒手組」という貧乏御家人の悪ガキ集団を組んでいて、それ以来の再会。そこで陸軍所の話をしていっしょに将軍様の御役に立とうと誘います。

陸軍所には武芸の試験があるので適当な道場に入門した衛生と重太。ある日のこと、稽古帰りに湯屋に寄ると髪床師に出会います。その床師は衛生と顔を合わせると「土田の衛生ちゃん・・・?」というので「甚吉!北小路の甚吉だろう!」。甚吉も黒手組で、将軍様の月代を剃る髪結之職という御役。そんなこんなで甚吉も陸軍所の試験を受けるために道場に入門します。

ある夜、道場に泥棒が侵入します。3人が泥棒を捕まえて顔を見ると泥棒のほうが先に「あッ、衛生ちゃんに甚吉ちゃんに重太だ」というではありませんか。黒手組の一力茂松は西丸駕籠之者、つまり将軍様の御駕籠を担ぐ御役なのですが背が低く失格となり落ちぶれて泥棒に。

この元・黒手組の4人が揃って陸軍所の試験を受けますが全員不合格。道場の師匠から木製の大砲と金をもらって横浜へ向かいます。なぜ横浜かというと、薩摩の船が停泊してるだろうということで、どこかで大砲の弾丸を手に入れて薩摩船に一発ドカンと当ててやろうと計画します。

甚吉は髪結いの仕事、茂松は力仕事を見つけ、衛生と重太は「花火師見習募集」という求人を見つけて花火屋へ行きますが今は打ち上げ花火の玉は作っておらず線香花火を細々と作っているだけ。しかし火薬の勉強ということでふたりは線香花火を作ることに。線香花火の合間に一貫目ほどの砲丸も作り、いよいよ薩摩船に打ち込んでやろうと小舟で近づいて点火しますがなぜか真上に発射してしまい上空で花火が見事に咲きます。これには薩摩の船上の人が拍手するわ波打ち際にいた英吉利人は金をくれるわ、挙げ句、衛生は波飛沫を被って風邪を引きます。次の作戦は、三寸玉の手投げ弾が8個ほどあるので薩摩船に投げ入れて船に火を放ってやろうとします。夜に壮行の宴を開こうと横浜の遊郭に4人が集合、それぞれ相方を決めて部屋へ。ところが衛生が相方の部屋に入ると若い衆が入ってきて相方さんは黴毒だというではありませんか。しかし衛生は覚悟を決めてるので帰ろうとしません。そこに代診の先生が来て「衛生くんは相変わらずだな。病気になったら本所のお母さんが嘆くよ」というではありませんか。「おまえ、時次郎だな、丸本の時ちゃんだろ?」時次郎の家は代々将軍様の馬方でしたが時次郎の代で御家人株を売って英語と医学の勉強のために横浜に住んでいます。

黒手組の5人が揃って、将軍の慶喜様をお守りするために何をするのか・・・

直参の中でも末端の御家人の、それも御役にありつけない若者が将軍様をお守りしなければということで無謀にも薩長に戦いを挑もうとするあたり、滑稽でもあり哀しくもあります。時次郎が異人言葉で詩を作るのですがその詩が「タウンライツ アー ベリ ビューティフル ヨコハマ ブルーライト ヨコハマ ユー アンド アイ ボース アー ベリ ハッピー」というもので、はじめは普通に読んでたのですが途中で意味が分かって声を出して笑ってしまいました。そして、物語の後半、とある「やんごとなきお方」が読まれた歌が「ひさかたの光のどけき春の日にしづ心なく鮓(すし)をくうらん」「うれしさに席を立ちいでて眺むればいずこも同じ志士の顔立ち」で、なんといいますか、イギリスの作家が有名な詩や戯曲をジョークに使ったりしますが、あんな感じで、「教養あるオフザケ感」がいいですね。

 

 

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ネルソン・デミル 『アップ・カントリー 兵士の帰還』

2023-04-12 | 海外作家 タ

先月は1冊しか投稿できませんでした。

 

さて、ネルソン・デミル。まだ2作品しか読んでませんが好きな作家です。

アメリカ陸軍犯罪捜査部を辞めたポール・ブレナーに、ポールの元上司のカール・ヘルマン大佐からメールの着信が。「明日16時、ザ・ウォールにて K」という文面のみ。ザ・ウォールというのはワシントンDCにあるヴェトナム戦没者記念碑のことで、なぜそんなところで会いたがってるのか全く検討がつきません。そこで、ポールの恋人で現在も犯罪捜査部の職員であるシンシアに連絡してみることに。するとこの件に関しては知らない様子。

指定された時間にザ・ウォールに行くと、カールがやって来て「この壁には戦死ではなく他人に殺害された者の名前がある」と告げられます。1968年にヴェトナムのクァンチ市で中尉が大尉に殺害されたという情報が犯罪捜査部に届いたというのです。その証人は当時の北ヴェトナム軍兵士で、負傷して廃墟に隠れていたときにふたりのアメリカ兵が廃墟に入ってきて激しく口論し、大尉が銃で中尉を撃った一部始終を目撃していたのです。彼らの階級は軍服の肩章でわかります。そしてこの目撃情報の手紙を同じく兵士の兄に出したのですがその兄は死亡、その手紙をあるアメリカ軍兵士が見つけて持ち帰ってトランクにしまいっぱなしにして、30年近く経って退役軍人会に送ったそうで、それを英語に翻訳したら、これは殺人事件の目撃情報だということになって犯罪捜査部に話が来たということ。

現時点で、クァンチ市にその日にいた第一騎兵師団所属の大尉と中尉をある程度までは絞り出していますが確定できておらず、ポールにヴェトナムに行ってもらい、その証人がまだ生きていたら探し出して写真を見せて確証を持って帰ってきてほしい、もしすでに亡くなっていたとしても、生家に行けば証人が中尉の遺体から盗んだとされる物を持ち帰ってきてほしい、とお願いします。

ポールは心のどこかでヴェトナムに行った「過去」と心の中で折り合いをつけなければならないと思っていて、ヴェトナムに行くことに。

手紙に書いてあった「タムキ」という村は地図には存在しません。

ポールはサイゴン(ホーチミン)に着き、アメリカからのメッセージを待っていると、アメリカ人女性が声をかけてきます。スーザンという女性はこのミッションにどうやら関係がなさそうなのですが・・・

はたしてポールは証人に合うことができるのか。

文庫の上下巻で約1600ページにおよぶ長編でして、ミステリーであり、サスペンスでもあり、アクションエンタテインメントでもあり、ロマンスもあり、またロードムービー的でもあり、読んでてものすごく疲れましたが、シリアスな内容の中にユーモアのエッセンスが散りばめられていてどうにかこうにか途中で諦めずに読み切ることができました。

若いスーザンにとっては「私にとってヴェトナムとは戦争ではなく単なる国名であり地名」と言いますが、ポールにしてみればそのような単純に割り切れるものではありません。あのヴェトナム戦争とはアメリカにとって、そしてポールにとってなんだったのか。

ポール・ブレナーが主人公の作品はこれが2作目で、この前に「将軍の娘」という作品があるのですが、読んでみたいのとどうしようかなという気持ちが半々。

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海でコーヒーが飲みたくて

2023-04-10 | 自転車

本日は晴天なり。トゥデイイズファイン。というわけで自転車で海まで行ってランチしましょう。しかも今回はコーヒー豆を挽く手動のコーヒーミルとコーヒー豆とお湯とドリップ用の器具を持って、海に着いたら挽きたての豆でドリップコーヒーをやろうというわけ。

いつもの川沿いの道。風もなくおだやか。

家を出て45分くらいで海にとうちゃこ。ハワイ気取りでヤシの木。いちおうベンチはあったのですが海からの強い風が直撃してドリップコーヒーのペーパーが飛ばされちゃうので他のところを探します。海沿いをしばらく走っていたらちょうどいい場所を発見。海風も防げます。

家で作ったコロッケパン。あとはドリップコーヒーをセッティング。

豆を挽いてフィルターに粉を入れてお湯を注いで淹れたてのコーヒーをいただきます。うまい。

しばらくコーヒーを飲みながら海を眺めてボーッとしました。

高台があったので登ったらナイスビュー。

Googleマップによると家から最初のヤシの木の海岸、そしてランチの海岸まで片道20.2キロ。往復40キロですか。

ある人に休みの日にサンドイッチかなにか作って飲み物も持って海まで自転車で行って海を見ながら波の音聞きながらお昼食べるといったら、ステキなことやってるのねと言われ、じつはとってもいい環境にいるんだなと実感。あと、こういうことができることに感謝しないとですね。

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井上ひさし 『東慶寺花だより』

2023-03-12 | 日本人作家 あ

今年の桜の開花予想が関東では三月の半ばぐらいだとか。もう入学式シーズンで桜というセットはもっと北へ行かないと無理なんですかね。ようやく寒さが収まってきたと思ったら次は花粉症。今年は目のほうは今のところ大丈夫なのですが、鼻の方はマスクをしててもダメですねえ。

春なのに ためいきまたひとつ。

 

さて、井上ひさしさん。「手鎖心中」を読んですっかりハマってしまいました。

滑稽本を一冊出したことのある戯作者の信次郎は、新作の原稿を書くために鎌倉の東慶寺の御用宿「柏屋」に逗留しますが、なかなか書けません。この東慶寺とは「縁切り寺、駆け込み寺」として有名で、現代で言うところの家庭裁判所。当時は離縁はそう簡単にはできず、ましてや離縁なんてバツイチなどといった気軽さではなくもっと深刻で重大で、特に男性は妻から離縁したいと申し出されても承知しないケースが多く、女性側の保護そして離婚調停としてこの東慶寺は機能していました。ここでは本人が敷地内に入るか身に付けているもの(簪など)を敷地内に投げ込めばたとえ追手がいてもそれ以上手出しはできず、寺の中で二年間過ごした後に正式に離縁が成立します。で、調停があるのですが、その人たちの宿泊場所が東慶寺の御用宿で、柏屋、松本屋、仙台屋の三軒。夫側と妻側は別々の宿に泊まらなければなりません。

柏屋には主の源兵衛、おかみさん、娘のお美代、番頭の利平、飯炊きのお勝といった人たちがいて、さまざまな事情を抱えた女性たちが東慶寺にやって来ます。信次郎は若かりし頃に江戸で医者の付き人をしていたことがあります。

砂糖の商人の夫にはなんの不満もないけど離縁したがって・・・という「梅の章 おせん」。

寺内で病人が出たので、東慶寺御用医の代理で信次郎が診察に・・・という「桜の章 おぎん」。

製鉄の職人の妻が東慶寺の畑作業中に地元の漁師に見初められ・・・という「花菖蒲の章 おきん」。

東慶寺に駆け込んだのはじつは替え玉なのでは・・・という「岩莨の章 おみつ」。

女房と離縁したいと駆け込んできたのですが男子禁制で・・・という「花槐の章 惣右衛門」。

信次郎の幼なじみの女房が東慶寺に向かうと家出をし・・・という「柳の章 おせつ」。

妻の実家に金を都合してもらうかわるに離縁したいといっても夫は承知せず・・・という「蛍袋の章 おけい」。

あまりにドケチな姑が嫌になって・・・という「鬼五加の章 おこう」。

親孝行で話題の夫に嫌気ださして東慶寺へ・・・という「白萩の章 おはま」。

江ノ島で芝居の興行をやっている一座の看板役者が柏屋に・・・という「竹の章 菊次」。

去年、二年間のお勤めを終えたのに、また駆け込みにやって来て・・・という「石蕗の章 おゆう」。

柏屋の客の米屋の夫婦と夫の仲間の二人。ところが妻は離縁状を・・・という「落葉の章 珠江」

急病人の診察をした信次郎。しかし男子禁制の寺内にいるのに子を宿して・・・という「黄檗の章 おゆき」。

寿司職人の女房がなぜかその夫から東慶寺に行って二年間入ってきなさいと・・・という「蓼の章 おそめ」。

剣術道場の娘が道場破りをして勝手に父の道場を継いだ男に勝手に結婚させられて・・・という「藪椿の章 おゆう」

 

ホロリときてしまう人情話あり、笑ってしまう話もあり、まるで名人の小咄を聴いているよう。この時代の演芸に関わってる人の素養として落語や浪曲、講談などはあったはずですからそういう印象を持ちますよね。青島幸男さんの書く小説もそうですし。

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沼ってきました

2023-03-04 | 自転車

自転車は真夏は暑いので乗りたくない真冬は寒いので乗りたくない夜は危ないので乗らない雨の日も濡れたくないので乗らないと、あくまで苦行ではなく趣味で楽しみたいだけでして、そんなこんなで自転車を車載して行ってきました印旛沼。

 

印旛沼の外周にサイクリングコースがあって、一周15キロだそうです。

オランダ風車があります。この写真だけ見たらオランダ?となりますが、千葉です。佐倉です。4月にチューリップ祭りがありますね。

サイクリングロード。ずっとなだらか。気持ちいいですね。途中にあった「かっぱ公園」。かっぱには遭遇しませんでした。そして沼の写真。

  

帰りに近くのスーパー銭湯みたいなところに寄ってきました。あー気持ちよかった。

レンタルサイクルもありましたし、ロードバイクでガッツリ本格的な方もいましたし、水鳥の写真を撮ってた方や犬の散歩してた方もいたりして、とても良いサイクリングコースでした。今度はお弁当持ってこうかな。

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