rakitarouのきままな日常

人間様の虐待で小猫の時に隻眼になったrakitarouの名を借りて政治・医療・歴史その他人間界のもやもやを語ります。

歪んだ「殺しのライセンス」

2017-12-27 19:31:11 | 書評

・ かつてCIAは純粋な情報機関であった

 

「殺しのライセンス」というのは1989年の007の映画で邦題は1965年に別の映画で使われてしまったので「消されたライセンス」となっています。本来情報機関に働くスパイは自己防衛以外で相手を殺す事は許されていません。この映画では個人的な復習という内容でLicense to Killという題名が付けられたと思われます。しかし現在米国のCIAは国外においてやりたい放題人殺しをしているという認識が広がっています。

「我々が暗殺部隊を必要としないことは確かです。彼らは世界中で手柄を立てようと計画を練り、勲章を、そして本音では昇進を勝ち取りたいだけです。これではまるで自作自演です。」1976年フランク・チャーチ上院議員はCIAによる勝手な国外における要人暗殺を戒め、情報機関は情報収集に徹してその情報を活用、判断するのは別の行政機関に任せるようCIAから「殺しのライセンス」を取り上げました。1990年代に東西冷戦が終了すると、CIAによる情報収集の任務の重要性が低下し、予算と組織の縮小でCIAの存続意義が問われるようになります。しかし2001年9月11日の連続テロ事件を境にCIAが息を吹き返す事になります。9.11を防げなかったことでCIAの信用は失墜していたのですが、当時のブッシュ大統領はCIAに地球規模の人間狩りという任務を与え、再び「殺しのライセンス」を情報機関に与える決定をしたのです。

 

映画Good Kill(2014年、アンドリュー・ニコル監督、邦題ドローンオブウオー)においてドローンを操縦する米軍兵士に電話で攻撃命令を与えるCIA職員が描かれていますが、まさにこれが情報機関に与えられた殺人許可証と言える物です。

 

米国には表に示すように大きくは5つの情報機関があります。911後DHSの下に全てをまとめる動きがあったようですが各省の利害がまとまらず、結局緩い協力体制の下現在の態勢になっているようです。そのような中でも明確な殺しのライセンスを持っているのはCIAだけと思われます。

 

・ テロとの戦争におけるCIAの位置づけ

 

軍隊というのは、国際紛争においてある政治的な目的を達するために「相手国の軍隊に対して」限定的に使われるのが本来の使われ方であり、図に示すようにその指揮系統もその目的を達するために機能的に作られたものになっています(現在の自衛隊を含む西側諸国の陸軍組織図)。しかし国家をバッックボーンとしないテロリストの殲滅を目的に非限定的(相手国の治安、経済、政治の全てに渡りコントロールするために期限を設定せずに軍隊を使う)に行われている現在のテロとの戦争で軍隊がうまく機能しないことは以前から私が指摘してきた通りです。そしてテロとの戦争のための教本がやっとできたのが後のCIA長官で醜聞問題(本当の解任理由は別にありそう)で解任された当時の米軍司令官D.ペトレイアス氏が2006年にまとめたCOINです。軍人は基本的に個人の判断で敵を攻撃して良いかどうかの決断はできません。3部の決めた作戦に従って行動しなければ「国家の戦争目的を達成する軍」として役に立たず、デタラメな内容になってしまうからです。しかし「テロとの戦争」では目の前の民間人の格好をした相手国の国民がテロリストかどうかを兵士個人が瞬時に判断をして引き金を引く事を要求されます。基本的にこれは武装警察の仕事と言えます。しかし現実には情報機関であるCIAが(情報を上げて判断は軍司令官に任せる事をせず)引き金を引く命令を下す役割をしているのです。組織図で言えば、2部長が幕僚長や司令官を無視して勝手に実行部隊に指令を出しているのですからもうめちゃくちゃです。ドローンによる攻撃の8割はテロリストと関係ない人が殺されているという報告もあります。いかに殺しのライセンスが好い加減で人権も人道も無視した戦争犯罪であるか明らかなのですが、これを正面切って責任追及する動きは残念ながらありません。

 

 

・   トランプ政権におけるペンタゴンの巻き返し

 

「CIAの秘密戦争」(原題 The Way of the Knife)マーク・マゼッティ著 ハヤカワ文庫NF504 2017年刊は2013年に出されて米国で大反響を呼んだ著作の翻訳本です。本書では落ち目であったCIAが9.11後にどのように息を吹き返して戦後最大の世界一の情報組織として君臨するに至ったか、2013年においてまさに我が世の春を謳歌している(いびつな)様を、秘密情報も含む深く掘り下げた取材から明らかにしています。その詳細は書きませんが、米軍をしのぐ勢力を持つに至ったCIAは当然実行部隊である米軍と様々な軋轢を生む結果になります(米国の人気テレビ番組NCIS LAでも米軍とCIAが対立してCIAが米軍に対して陰謀を働くエピソードがあって興味深い=NCISLA season8 #13-15)。

 

現在のトランプ政権における閣僚は殆どが軍出身者で占められています。大統領選挙の際にトランプを支持したのも軍関係者が多数であったことも特徴でした。「CIA・国務省主導のテロとの戦争で血を流して痛い目を見て来た米軍が今巻き返しを計っている」と言う見方は正しいと思われます。具にもつかないロシア疑惑を突きつけられて解任されたマイケル・フリンは国防情報局長時代に「テロとの戦争」のやり方に疑問を呈してオバマに解任された経歴があります。まっとうな軍人であればテロとの戦争における軍の使い方のデタラメさに辟易とするのは当然です。CIAを敵視したフリンがCIAに監視されて嵌められた経緯は容易に想像されます(フリン氏が陰謀論者で根拠のない陰謀論を振りまいたからという報道もあります)。

 

「Drain the swamp」ワシントンに巣食うヘドロのような奴らを干上がらせて追い出し、政治を国民に取り戻そう、というのはトランプが選挙中、そして就任演説において第一に主張した公約です。このことについて全く報道しない日本のメディアはいつまでも国務省の幹部が決まらない(決めない)実体を「トランプが無能だから」と決めつけていますが、違うのです。トランプはCIAも敵視して長官に軍出身のポンペオ氏を当てました。表向きポンペオ氏はCIAの強引なやり方を評価しているようではあります。一方マーク・マゼッティ氏は、今トランプからニューヨーク・タイムズはフェイク・ニュース(実際フェイクニュースの例も)だと攻撃され、逆にトランプ政権を監視する最先鋒として活躍中ということです。バランス感覚としては「良し」でしょう。しかしCIAが非人道的であり、やってきたことが米国民の利益にも反していることはそろそろ明らかなのですから、2009年に拷問はやめなさいとオバマから禁止されていますが、私は「殺しのライセンス」も再度取り上げるべきだろうと思います。

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国家と宗教

2017-12-16 20:39:00 | 社会

前のテーマについての山童さんのご指摘に触発されて、国家と宗教をテーマとして取り上げてみました。一神教の苛烈さ、寛容性のなさというのはご指摘の通りで我々宗教に鈍感な多神教的な日本人には理解できない部分があると思います。今はクリスマスシーズンですが、私も米国留学中にユダヤ教の人に(ハッピー・ハヌカと言わず)「メリー・クリスマス」と言ってしまったり、トルコの留学生にカードを送ったりと「喧嘩売ってるの?」と言われかねない失態をしてました。西欧リベラリズムの寛容性のなさも一神教に原因があるのではという指摘もありました。今回のトランプ大統領の決定がどのような結果を生むのか、確かにパンドラの箱的でもあり、私も判らないというのが正直なところですが、私なりに西欧で理解されている国家と宗教の概念から推考してみたいと思います。

 

ご存知のように現在の国民国家の概念は1648年に30年戦争の結果成立したウエストファリア条約に基づいています。カソリックとプロテスタントという宗派の違いで「異端、異教徒は人間として扱わず皆殺しでよい」という常識があったものの、さすがに際限なく30年間も人殺しを続けることがいやになった人達が「戦争と非戦争の状態を分けよう」「国家と宗教は分けて考えよう」「異教徒であってもそれを理由に殺すことまでは止めよう」という合意(強制力のない合意法制)を国単位で作ったものがウエストファリア条約で、現在の国民国家のありかたの基になっていると考えられます。だからAという国の国民は特定の宗教、宗派でないといけないという憲法は近代国家においては存在しないことになっています。従ってイスラエルにもイスラム教徒はいますし、エジプトにもコプト教を信ずるキリスト教徒が多数暮らしています。

 

「国家における首都」をどこに置くかは、宗教とは一応関係なく国家主権の下に決められるべき事項ということになっています。米国はイスラエルを独立宣言と同時に国家と認めた第一号の国で、米国は未だパレスチナを国家として認めていません。「2国あっても良い国であれば良いのでは?」とトランプ氏は言及してパレスチナとの2国体制を認める発言をしましたが、まだ米国議会を含めて正式にはパレスチナを国家と認めてはいません。ところが国連はパレスチナを国家として認めている。日本も認めている。だから両国がエルサレムを首都に置きたいと言い合っている状態に対しては「両国が相談して決めてください。」という国連事務総長の発言は、国際法の上でも正しい反応と言えます。米国は国としてパレスチナを認めていないのでイスラエルが首都をエルサレムに置きたいと言えば「別に良いのでは」と反応することは国際法上何ら違法ではない。問題にするのならば、むしろ今までの民主党政権時代にエルサレムを首都と認めた議会の議決を否定し、しかもパレスチナを国家として認めるよう発議してこなかった怠慢(或いはイスラエルロビーの言いなりであったこと)こそ最大限批難されるべき事柄であるように思います。現在の日本のマスコミを含めて「トランプ批判キャンペーン」の一環でトランプのやることは全て「失態」とあげつらって批判していますが、殆どはオバマがやってきた事、失敗・遣り残してきたことの後始末をしているように思います。

 

「エルサレムをイスラムの聖地としては認めない」と「エルサレムをイスラエルの首都と認める」は別の話、エルサレムはキリスト教の聖地(聖墳墓教会があるし)でもありますが、今回の件でローマ法王は宗教の意味からは批判してないと思われます。私は20年ほど前にエルサレムを訪れて、嘆きの壁、岩のドームほか全て見て回りましたが、勿論宗教者として真剣に祈りを捧げている多くの人もいる中で、観光地として異教徒である私のような沢山の傍観者が出入りすることについて「礼を失する」ことさえなければ寛容であったように思います。当時でもイスラム統治地域でイスラエル側からの観光バスに投石があってガラスが割れたといった事件も起こっていましたが、単独で行動している分にはあまり問題なかったように記憶しています。

 

イスラム教と国家

 

そうは言っても、ウエストファリア体制はキリスト教同士の勝手な話し合い・取り決めであって、イスラム教には関係ないというのも正論。キリスト教はルネッサンスによって日々の生活が宗教(教皇)から開放されて、プロテスタントの倫理観によってなおさら科学や商売について「一生懸命励む事」は宗教上矛盾しない行為とみなされてほぼ日常生活の世俗化、非宗教化が完成していると思います。一方でイスラム教は日常生活全てに宗教がかかわっていて「世俗化」についてはいつも喧々諤々の問題になっています。ウエストファリア的な国家にとっては「世俗化」「政教分離による国民国家化」は都合が良く、現実的には中東諸国は世俗化した少数派による高圧的な政治によって多数を抑えることで「国家としての安定」が計られて来たのが最近の歴史だと思います。「民主化」をして国民の多数派が政権をとると途端にイスラムの本性が出て政教分離していない非ウエストファリア型国家ができてしまい、ウエストファリア型の国家からなる国際社会が困ることになります。その最たるものがほぼ絶滅しましたが「イスラム国」だったのだろうと思います。

 

前回の話題とも重なりますが、共通の経済的価値観で国家の壁を取り払おうというのがグローバリズムならば、共通の宗教的価値観でウエストファリア型の国家観を打ち破ろうというのがイスラム原理主義であり、拝金主義に基づく生活の強制をテロリズムによって強く否定する形で経済グローバリズムの完成に立ちはだかったのがイスラム教であったことも確かです。そして反グローバリズムも反テロリズムも結局ウエストファリア型の国家が再度世界規模で協調することで機能し始めているというのが現在の世界ではないのかなあと思います。

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グローバリズムの終焉が近づく世界情勢か

2017-12-15 18:26:38 | 社会

トランプのアジア歴訪と北朝鮮情勢

 

トランプ大統領の就任後初のアジア歴訪が終わりましたが、その成果や意味については様々な見方があり、評価は一定のものではありません。話題の中心は北朝鮮情勢であり、そこにいかに中国を取り込んでゆくかが焦点であったことは間違いないと思います。特に地盤を固めた習近平率いる中国がどのような対応を取るかが注目され、北朝鮮でさえミサイルや核実験による挑発を一時止めて事態を見守っていました。「政治家よりも商売人であるトランプ」という評価は私も正しいと思いますが、商売人であるからこそ、損をせずに米国の得になる結論を目指すことになると思われ、最終的には将軍様を放逐して北の管理は中国に任せ、韓国は現状維持としたいという事になると思います。後はロシアがその結論をどこまで飲むかですが、ロシアに対してはシリアとイランについてロシアの意向を尊重する形で譲歩してアジアは中国を立てることを目指していたはずです。そこに真っ向から反対するのが旧来のグローバル陣営でロシアとの戦争を未だに画策し、トランプのロシア疑惑を騒ぎ立て議会にロシア制裁決議を議決させたりしています。この決議は、ロシアからの燃料を必要とするEU各国から早速クレームが出ており、グローバリストの思惑通りには行かないだろうと思います。

 

 

2017年11月29日未明に北朝鮮はICBMをロフテッド軌道で打ち上げるという挑発をしてみせました。今回は打ち上げる前から日本や韓国から騒がれていたこともあり、アメリカが空母5隻を日本海に集結させている情勢からも遠くへ飛ばさず近場に打ち上げて大気圏への再突入実験をすることにしたのでしょうが、米朝ともにかなり厳しい情勢であることを認識しているでしょう。しかも大気圏への再突入で弾頭部は分解したと言われていて、それについて北朝鮮はコメントしていません。

 

北朝鮮は韓国のムン大統領から、何とか平昌五輪に形だけでも参加して欲しいという執拗な誘いを受けていた折りであり、結局ミサイルを飛ばしたことで正式に「No!」を突きつけた格好になったと思われます。この平昌五輪、既にロシアは別件から個人参加が決定しており、米国は未定(アイスホッケーは不参加を表明)、フランス、オーストリアは安全が確保されなければ不参加を検討となっていて、北朝鮮国境から80km、交通の便も悪く、チケットもまだ半分が売れ残り状態と言われていて中国政府も未だ正式な参加表明がなされていないなど、もうどうなるか解らない状態と言えます。

 

シリアでは既にグローバリスト子飼いのISは壊滅状態です。サウジアラビアは新進気鋭の皇太子が旧来の王族達を腐敗追放の名目で逮捕削除しつつあり、レバノンの大統領もヒズボラとの関連を追及されて排除されました。この皇太子はカタールと断交して、米国から武器を大量購入することでトランプを味方につけようとしましたが、カタールがより多くの武器を米国から購入して、しかも米軍基地がカタールにあることから米国はカタール支持に変わりました。イエメンの内戦も絡んでサウジ・イランのスンニ・シーア派戦争に発展しそうな危険があるのですが、私は最終的にはロシアが間に入って何とか収めるのではないかと思います。イスラエルがどう動くかも鍵になりそうです。そのような中、トランプはエルサレムをイスラエルの首都にする事を認めると声明を出して世間を騒がせました。これは某ユダヤ富豪からの強い希望に答えたという説がありますが、「エルサレムにある領事館を即大使館にする」という命令でなく、「変更する準備を命じた」というのがミソで、本音ではやる気なしだろうと思います。数ヶ月前、パレスチナとの二つの国家をトランプが認めた経緯からも、ガツンとかましてから譲歩して半分で落とすというトランプ流の政治をやっているだけだろうと思います。

 

グローバル企業・グローバリスト達の苦戦

 

話は転じて、CRS・SWIFTコード・BEPSと書いただけで中身がわかる人はかなり税に詳しい人だと思います。私も「決裂する世界で始まる金融制裁戦争」渡邉哲也 著 徳間書店 2017年刊 を読むまでは知らなかったことなので威張れませんが、タックスヘイブンを介したグローバル企業やグローバル金持ちの租税回避を阻止する国際的な枠組みが今年になってから次々に具体化している事実があります。CRSというのは非居住者の口座情報を自動的に報告する国際基準のことで、2017年9月から施行されます。昨年からマイナンバーを用いなければ確定申告ができなくなっていますが、外国との金融取引や証券取引を行うにも銀行口座にマイナンバーの提示が必要になっているのはこのためです。国際間の銀行で取引決済をするには各銀行が持つSWIFTコードから口座まで特定できるよう国際決済銀行(コルレス銀行)経由で追跡できるシステムが国際ルールとして2017年には100カ国が加盟してできるようになったそうです。BEPSというのは「税源侵食と利益移転」のことで要するにタックスヘイブンを利用した租税逃れを指し、今年3月にドイツで行われたG20財務大臣・中央銀行総裁会議において、BEPS防止に向けて国際的に協力して取り組むことが声明として出されました。これでグローバル企業・グローバル金持ちの税逃れは非常にやりにくくなることが決まったのです。こういったことは国民の生活や税収をいかに確実に増やすかに関心がなく、グローバル企業寄りの日本のマスメディアはあまり話題にもしようとしないので一般国民はあまり知ることがありません。前回話題にした仮想通貨ビットコインへの資産変換が今年の秋から急速に進んでいる背景もこれに関連があるかもしれません。

 

テロ等準備罪法案とマイナンバーの意味

 

11月22日に米国は北朝鮮をテロ支援国に再指定しました。2008年に1988年からテロ支援国とされていた指定が解除されましたが、これで再び六カ国協議などへの敷居も高くなったと考えられます。テロ支援国の国民は自由に米国圏での経済活動や移動も制限されることになります。これは日本に住む北朝鮮籍の在留者にも適応されるので影響は大きいと言えます。日本国民はマイナンバーを持つ事で口座開設から納税に至るまであらゆる活動は日本国民として保証されますが、日本にいながら北朝鮮籍である人達はかなり困ったことになるでしょう。結果日本国籍や韓国籍への移籍も増えると思われます。暴力団関係者も通名など使用して資金の移動他自由にできた事もできなくなります。またテロ等準備法案で「テロの準備」とみなされる行為があればテロを行う前でも取り締まれるようになった事は2000年12月に日本が署名した国際犯罪に対する情報共有を促すパレルモ条約の履行にも必要な処置であり、これでパレルモ条約についての取り締まり機関FATFの認証を得て多くの国際的なテロ情報の共有も可能になると思われます。

 

国家を中心とした国際協力の世界へ(one world=globalismの否定へ)

 

最近の世界情勢は、それぞれの「国家の対応」が一段と重きをなしているように思われます。数年前までは、国家の壁をできるだけなくして、ヒト・物・金の流通をいかに自由にするかが問われていました。ヒト・物・金の流通が自由になりすぎた結果生じている様々な不都合や安全治安上の問題を、今各国の政府が再度協調しながら調整に乗り出しているのが現在の姿ではないでしょうか。以前書いたようにGlobalismから健全なInternationalismへの変革が今行われているように思います。

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ビットコインの隆盛とシムズ理論

2017-12-12 16:52:11 | 社会

仮想通貨であるビットコインが1BTC100万円につりあがったという報道を受けて、数日のうちに200万円まで上昇といった乱高下(下は少しですが)をしています。そもそも国家としての後ろ盾がなく、ブロックチェーンという一見堅牢な構造に守られただけのデジタル上の価値単位であるビットコインが何故このように注目されているかというのは自分が財テクに興味がなくても非常に面白く思います。経済には全く不案内ではありますが、素人なりに何故仮想通貨(千種類くらいあるという)が今注目されているのかを考えてみました。

 

リーマンショック以降のここ数年の世界経済の潮流は、先進国の経済停滞を何とかすることを目標にとにかく流通する貨幣を増やす事をしてきました。米国のQEや日本の黒田バズーカと言われるもの、EUも中央銀行が同様に量的緩和を行ってきました。これは所謂シカゴ学派といわれる人達の提唱するリフレ理論に基づいたもので、下図のように本来は実体経済が栄えると結果として自然に株価が上昇するところを、株価を上げてやれば実体経済も上がるはずである(原因と結果が逆になっても成り立つのではという夢想とか期待)に基づいた理論でした。しかし結果は「流動性のワナ」にはまった結果、投資や債券購入に回らない大量の貨幣が、仮想経済の中を循環するのみで、株などの投機的経済を扱う人達のみの中で蓄積されて貧富の差が開き、実体経済は活性化されないという惨めな結論になったことは誰も否定できないと思います。実体経済が活性化されず商品の行き来が増えないので貨幣をどんなに増やしてもインフレーションにならず、日銀のインフレターゲットの目標達成も延々と先延ばしされ、最近では誰もターゲットの達成を口にしなくなってきました。

 

そこで2011年にノーベル経済学賞を取った米国プリンストン大学のクリストファー・シムズ教授が2016年8月に出したシムズ理論というのが注目を集めています。これはFTPL(fiscal theory of the price level財政出動させて物価を調節しよう理論)と呼ばれていて、日本でも内閣参与の浜田宏一氏などが早速取り入れて安倍総理に提言しているようです(麻生財務大臣は財務省から止めてくれと言われてこれには反対を表明していますが)。

 

このシムズ理論というのは際限なく財政出動をして政府の債務を増やしてゆくと国債の返済が税収を超えて、国家財政が破綻して国家が保証する貨幣の価値が下がる(懸念が生ずる)ので(ハイパー)インフレが起こるという理論です。だから「どんどん国債を発行しなさい」「最後はハイパーインフレが起こって100万円が10円の価値にまで下がるので沢山発行した国債もちゃらになります。」「財政再建のために増税をする必要はありません。」という理論です。この理論の基になっているのはリカードウ・バーロウの中立命題と呼ばれるもので、「国債の発行はいつか税金で返すのだから増税と結果的には同じことである。」という否定しがたい真実に基づいています。これを増税でなく貨幣価値を下げるインフレによって棒引きにする、結果的には貨幣を持っている国民が皆で損をするということで「国家の借金をちゃらにする理論」ということです。

 

このシムズ理論というのは実際には現在日本で行われている国債の大量発行とそれを日銀が買い取っている(2016年末で国債の40%を日銀が保有しているーアベノミクスで景気が良くなっている部分はこの財政出動によると思われます)構図そのままのように見えます。2017年末には520兆円の国債を日銀が保有する予定と言われています。政府が50%以上の株を持っている日銀が結果的に「破綻した日本国」を保有することになってもあまり問題はなさそうに思いますが、何事も無く借金を棒引きにして日本銀行がつぶれない保証はなく、日銀がつぶれると日銀券(円)も紙切れになると考えるのが普通と思います。

 

最初に仮想通貨は「国家の後ろ盾がなく、ブロックチェーンが後ろ盾である」と書きましたが、実はこの特徴こそが、現在仮想通貨を蓄財の手段とする人が増えている原因ではないかと思います。金(Gold)も実態としての蓄財手段にはなりますが、仮想通貨と異なり決済に使うことができません。この細分可能性が通貨としての利便性を保証する鍵でもあります。現在ビットコインの大部分は一部の資産家の所有であると言われ、決済に用いられていることは可能であっても殆ど無いのが実態であると言われています。マイニングを行っているのも中国の専門の企業が行っていて、いずれは貨幣経済を銀行から切り離すことも計画の中にあるとも言われています。各国やEUなどの集合体の都合で貨幣が作られている限り貨幣の安定性というものの担保はシムズ理論を待たなくとも限界があると考えられます。現在は国家の後ろ盾がある法定貨幣が基本で仮想通貨は不安定と言われますが、その価値観が逆転する時も来るかもしれません。仮想通貨というふわふわした感じを連想する訳語ではなく、Crypto Currencyを暗号通貨と訳す方がブロックチェーンの後ろ盾という実体に合っているという説もあります。仮想通貨獲得に走る資産家達は法定通貨の不安定化という未来まで読んでいるということでしょうか。

(参考 アメリカに食いつぶされる日本経済 副島隆彦 著 2017年刊 徳間書店)

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