ローマ教皇フランシスコ氏の2025年4月26日の葬儀では、トランプ大統領とゼレンスキー大統領が簡素な椅子にひざを突き合わせて会談する様子が公開され、新たな停戦への展開が期待されました。
ローマ教皇葬儀でのトランプ・ゼレンスキー会談
一方で同日、ロシア軍のバレリー・ゲラシモフ参謀総長がウラジミル・プーチン大統領に対し、ウクライナ軍からクルスクを解放する作戦が完了したと報告したと発表しました。この作戦でウクライナ軍は7万6000人以上の兵士が死傷したと報告され、またこの作戦に朝鮮の戦闘員が参加していたことも明らかにされて、この北朝鮮軍の参加は金正恩自身も認めました。rakitarouは、北朝鮮軍参戦はフェイクだろうと言う立場でしたが、誤りでした。ヨンハップニュースによると北朝鮮軍はロシアに派遣されて数か月後から前線に参加したという事で、元々精鋭部隊であった上に、ウクライナ戦の戦闘訓練も加えて参戦した様です。要はドローン戦、西側のミサイルや砲火などの実戦的知識を習得する目的で2024年6月に締結した相互援助条約に基づいてプーチンに頼み込んで参戦したのでしょう。北朝鮮は砲弾も供給しており、ウクライナ戦争には深くコミットし続けたと言えます。
公開されたロシアで訓練中の北朝鮮軍兵士とプーチン、金正恩による条約締結
I. 負けている側は勝っている側の条件を呑む以外停戦できない
開戦当初の2022年4月の段階の様に、ロシア、ウクライナ側の犠牲が五分五分の状態であれば、双方が条件を出し合って停戦に持ち込む事は可能ですが、まとまりかけた停戦をウクライナ側から一方的に破棄し、その結果敗北に至っている現在、停戦を承諾してもらうには勝っているロシア側の条件を全て呑む以外仕方がないのは実戦を伴う戦争では常識です。セルゲイ・ラブロフ外相は、4月28日のメディアインタビューでウクライナ和平に対するロシアの要求を改めて語りました。以下、必要条件として
- ウクライナによるロシアとの直接交渉。
- ウクライナが、1990年代のウクライナ国家主権宣言に従って、中立かつ非同盟国の地位に戻る。
- ウクライナ国内において、言語、メディア、文化、伝統、ロシア正教など、ロシア文化を破壊する政策の終焉。
- クリミア、DPR、LPR、ヘルソン地域、ザポリージャ地域のロシアの所有権の国際的な承認。
- これらの立場を法的に修正し、恒久的なものにし、執行メカニズムを持つための措置。
これらに次いで西側に対しては、プーチン大統領が昨年6月に再度明らかにした
(1)ウクライナにおける脱ナチ化のスケジュール
(2)ロシアへの制裁、行動、訴訟、逮捕状の解除
(3)そして西側で「凍結」されているロシアへの資産の移転
(4)ロシア連邦の安全、およびNATO、EU、および個々の加盟国の西側の国境での敵対的な活動によって生み出された脅威に対する信頼できる保証。
これらの要求は、ウクライナ及び西側に何度も騙されてきたロシアの側から見ると妥当な要求に見えます。このまま戦争を続けて、ウクライナが国家として崩壊し、ロシアによる完全な傀儡政権が樹立されて戦争が終結するよりは、いくらかでもウクライナの主体性(西側への交流の余地)が残された状態で停戦に向かえる方が、ウクライナ国民にとっては良いようにも思います。
米側ケロッグ氏が提案する和平後のウクライナ(ロシアの要求とはかなり遠い)
II. ウクライナ市民の本音
西側メディアがウクライナ市民を自由に取材して本音を報道する機会は極めて少ないですが、スイスのジャーナリストがウクライナ国内で2か月取材した結果をロシアのMeduzaに出した長い記事の一部翻訳を転載します。
(引用開始)
シュラ・バーティン氏による、ウクライナ人の間で増大する戦争の疲労感についてのレポート
2025年3月28日午前4時12分 出典:Meduza
ロシアとウクライナは3年以上にわたって全面戦争を続けています。この間、ウクライナ人はロシアの侵略に対して激しい抵抗を続けてきたが、その力は衰えているように見えます。スイスの出版社「Reportagen」のジャーナリスト、シュラ・バーティン氏は、ウクライナに2カ月間滞在し、キエフやドンバス地方を旅し、その間ずっと人々と話をした。彼は、過去1年半で著しく変化した国民の気分を観察しました。徴兵される可能性に怯えた多くのウクライナ人は、軍のパトロールから逃れるために隠れている。前線では兵士が不足しており、現在、そこの兵士は数ヶ月間ローテーションできていません。脱走は日常茶飯事になっています。負傷者の避難も難しくなり、主にドローンが古い兵器よりもはるかに効果的に歩兵を殺すため、生存率が急落しています。
激戦が続いたChasov Yarの現在
メドゥーザは、ウクライナ軍の前線と背後の雰囲気を描写した数十の証言を含むバーティンの報告書を掲載しました。これらは、痛み、無力感、絶望に満ちた悲惨な話です。
パート1
採用センター(TRC)
1年半前、キエフはウクライナ東部での戦争から苛立たしいほど孤立していると感じていました。今日、侵略の影は明らかに近づいています。朝の5時に駅を出て歩いていると、すぐにサイレンが聞こえました。肌寒く灰色で、粉雪の中、数人の通行人がヤロスラビブ渓谷を急いでいました。この1年間で街の雰囲気が変わったことはすぐに明らかになりました - それはどういうわけかより荒涼としていて、絶望的になっていました。すぐに、強力な爆発音が鳴り響き、ミサイルがホリデイ・インに命中した。その後、ニュースは誰かがそこで亡くなったと報じました。
しかし、ミサイル攻撃以上に、首都を戦争中の都市のように感じさせるのは「TRC」です。厳密に言えば、採用センターは軍の入隊事務所を指しますが、日常会話では、略語は、街頭で男性を捕まえて前線に送る軍のパトロールを意味するようになりました。今日、「TRC」はおそらくウクライナで最も話題にされる言葉です。
徴兵官に召喚状を渡される市民
戦争が始まったとき、ウクライナは兵士に事欠かず、膨大な数の男性が自発的に前線に赴きました。しかし、多くの人が亡くなり、今では戦う意欲のある人ははるかに少なくなっています。当初、TRCのパトロール隊は単に街頭で徴兵通知を配るだけで、その後州は徴兵忌避に対する罰則を強化しました。これが不十分であることが判明すると、当局は武力を行使し始めた。パトロール隊に止められ、バンに押し込まれ、軍の入隊事務所に連れて行かれて健康診断を受けます。このプロセスは「バス化」と呼ばれ、おそらく今日のウクライナで2番目に広く使用されている言葉です。バス化されると、その日の夜遅くから翌朝に厳重な警備の下、基本的な軍事訓練などを受ける、森の中にあるブートキャンプに送られます。
1年半前、人々はすでにバス化についてささやいていましたが、脅威はまだここまでではありませんでした。TRCのパトロールは村や小さな町を席巻しましたが、キエフはまだ首都のリラックスした生活を楽しんでいました。その後すべてが変わりました。インターネットには、TRCの警官が逃げようとした男性を殴ったり、健康診断を拒否したり、ブートキャンプに送られるのに抵抗したりする様子を映したこのようなビデオがあふれています。
一人の男がウサギのようにジグザグに通りを疾走し、兵士たちが熱心に追いかけてくる。血まみれの顔をした男たち。移動中のバンから飛び降りる男たち。ウクライナのソーシャルメディアでは、このような光景は今や当たり前になっています。政府は介入を約束したが、何もしない。一方、男性は軍の入隊事務所で亡くなり始めています。TRCによって数人が殺害された。前線やロシアの爆撃で亡くなった人々の数に比べれば、取るに足らないことのように思えるかもしれませんが、これらの事件はウクライナ国民の士気を深く低下させています。
Poltava TRCのレポートは、採用オフィス内の雰囲気を捉えています。
2025年3月14日午後3時頃、入隊所で、25歳の市民が兵役に適していると判断されたことを知った後、故意に鍵で腕をこすり始めました。同日午後6時頃、32歳の徴集兵が割れた瓶のガラスを使って同様の行動を繰り返した。どちらの場合も、軍事委員会の医師が応急処置を提供した。TRCの当直担当官が呼んだ救急車は、男性の生命に対する脅威がないことを確認した。しかし、これらの「男たち」が国を守るよりも自殺する方がましだと述べたため、彼らは精神病棟に移されました。メディアは、これらの恥ずべき臆病な行為と自傷行為を「自殺未遂」と表現しているが、ポルタバ地域TRCと入隊局の司令部は、これらを兵役逃れの試みと見なしている。
ウクライナでは、動員に反対することは実際には不可能です。法律により、人は兵役の代わりに懲役刑を選択する権利があり、多くの人がこの選択肢を選ぶでしょう。実際には、これらの男性でさえブートキャンプに送られ、その後前線に送られます。
ウクライナの多くの人々は、TRCの将校を敵と見なしている。キエフや他の都市には人気のテレグラムチャンネルがあり、地元の人々はパトロールの目撃情報について常に最新情報を共有しています。海外の反体制派ブロガーはTRCを激しく批判しているが、ウクライナの主流メディアは、徴兵忌避者に対する刑事事件、軍の入隊事務所での殺害、脱走をほとんど報道しない。多くの男性が兵役に就くことを望んでいないことを認めることは、国益に反すると考えられてきた。スローガンは、「勝利が近い、軍隊に栄光、国は握りしめた拳のように団結している」などというウクライナの一般的なレトリックを煽る。
前線の野戦病院の様子
ウクライナのメディアは、軍の問題をどのように報道してきたのでしょうか?
今年キエフに到着したとき、パトロールが常駐しているため、友人たちはもう地下鉄を利用していないことを知りました。彼らは他の都市に旅行することはなく、必要でない限り外に出ることを避けます。これらの予防措置にもかかわらず、TRCは数週間以内にこれらの人々のうち2人を「バス化」しました。将校が彼らを外に捕まえた後、彼らは入隊事務所で一夜を過ごし、翌日にはブートキャンプにいた。
日曜日に30分間の電話アクセスが許されたとき、彼らの散らばったメッセージは、そこが刑務所のようであることを明らかにした:酔っぱらいでいっぱいで(より慎重な男性は正しいテレグラムチャンネルをフォローし、いつ屋内にいるべきかを知っているからだ)、外に出るチャンスがない。1ヶ月の基本を学んだ後、あなたはすぐに前線に送られます。志願する男性には、サービスの部門、トレーニング、専門分野など、いくつかの選択肢が与えられます。しかし、路上で捕らえられた場合、健康状態、職業、好みに関係なく、歩兵として最前線に配置されるだけです。
私の友人の一人が並外れた才能を持つプログラマーだったので、彼は何かの無線情報部隊に配属されるのだろうと思っていました。
私たちの共通の友人であるヴァーリャは、これに別の解釈を加えました。彼は私に言った:「まるで彼らが今彼を行かせるかのようだ - それは奴隷市場だ」と、旅団がいわゆる「バイヤー」を基本的な訓練キャンプに送り込み、一定数の新兵を要求する方法に言及した。
パート2
殺人鬼
2月の1週間で、衝撃的な話がいくつもありました。ザポリージャでは、24歳の男性が軍の入隊事務所で殺害されたが、彼の母親が弁護士であることが判明し、事件の調査を開始した。リヴィウ出身の核物理学者が、彼をブートキャンプに運んでいた移動中のトラックから飛び降り、頭蓋骨の付け根を骨折した(彼は脱出を試みる前に殴られていた可能性もある)。フメリニツキーでは、TRCの男性が自分の喉を切り裂いて死亡した。ポルタバ地域では、狩猟用ライフルで武装した男が、徴兵者を基礎訓練に護衛していたTRCの将校を撃ち殺した。これがオンラインで悪意のある喜びの噴出を引き起こしたとき、愛国的なサークルは、ウクライナの保安庁がそのようなコメントを投稿した全員を特定し、彼らを前線に送るよう要求しました。また、警官の殺人者をリンチする声もあった。
以下略(引用終了)
以降パート10まで憂鬱な内容の実話が続くのですが、西側の鉄砲玉として戦争をさせられているウクライナ市民の実相を知れば、一日も早く戦争を終わらせるべきだという考えが正しい事は理解できると思います。
記事ははてなブログでも読めます(rakitarouのきままな日常)
「独立言論フォーラム」さんで来る5月27日(火曜)に「コロナとウクライナの戦略的失敗に学ぶ」と題した小さな茶話会を開催します。お時間とご興味のある方は是非左記サイトからご参加ください。