rakitarouのきままな日常

人間様の虐待で小猫の時に隻眼になったrakitarouの名を借りて政治・医療・歴史その他人間界のもやもやを語ります。

幸福感・資本主義経済・宗教そして国家

2017-06-26 22:58:13 | 社会

直接関連がなさそうな単語を列挙しましたが、それらの関連について検討したいと思います。

1) 幸福感を感ずる脳の思考回路は5次元

 

人が幸福であると感ずるのは思考や感覚によって感ずるのであって、脳以外で幸福を感ずることはできません。その内容も人様々で必ずしも全ての人が同じ事で同じだけの幸福感を感ずる訳ではありません。現実世界は縦横高さといった三次元空間からできています。楽しい経験をしたり、美味しい物を食べたりすることで我々は直接現実世界から幸福感を感ずることはあります。しかし過去の楽しかった事を思い出しても幸福を感ずることも可能で、来るべき楽しいイベントにわくわくする事で幸福感を感ずることも可能ですから、脳内においては時間を越えて4次元の世界で幸福を感ずることも可能といえます。それだけでなく非現実の世界を妄想することで幸福を感ずることもできる、ゲームの中だけのバーチャル世界での幸福もあり、しかもその非現実の世界に現実から瞬時に移動できることを考えると、脳内においては5次元で思考が行われていて幸福感も5次元世界を自由に行き来する中で感ずる感覚であることがわかります。

 

2) 貨幣を介する資本主義経済は4次元

 

物々交換が行われていた時代では、経済は3次元の世界でのみ行われていたといえるでしょう。しかし紙幣(紙切れ)や貨幣(物)を異なる個人間で同一の価値があるものと認識するようになってから、過去の自分から金をもらう(貯金)ことや、将来の自分から金を借りる(借金)が可能となって経済は時を越えて4次元的に行われるようになったと言えるでしょう。現実には存在しない価値を「あるもの」と仮定して取引を行うレバレッジを5次元的と解釈するかどうかは判りませんが、レバレッジとは単なるごまかしであって、損失が出た場合は実際に「あると仮定した額」を支払わないといけないのですから次元を超越できているとは言えないと私は思います。だから資本主義経済は4次元で行われていると考えます。

経済は現実世界における物欲を満たすための方策ですから、資本主義経済の発達によって人間は幸福感を得ることは可能ですが、衣食住を満たすために必要条件ではあるものの幸福感を感ずる全てではないことは理解できると思います。

 

3) 宗教の次元

 

旧来の宗教は現実世界で生きる心構え、生きることの意義、神の御心に沿うにはどうするか、といった「心」に問いかける内容であることが多かったと思われます。宗教的な喜びや幸福感を法悦と表現する事がありますが、法悦を得るために現実世界に寺社や像などの偶像を作り出して、感覚に訴えることも行われてきましたが、偶像崇拝を禁じて内面世界のみで法悦を得ることを説く宗教もあります。宗教の世界はどちらかと言えば現実世界の幸福感とは離れてパラレルワールド的な思考によって幸福感を得るという意味で現実世界をのぞく縦横高さを持った異次元における4次元的な世界観から成り立っていると言えるかも知れません。

しかし一部の新興宗教には現世利益を謳った宗教があり、その現世利益に引かれて入信する人も多くいた事実があります(島田裕巳著 宗教消滅 SB新書332 2016年刊)。こうなると宗教によって得られる法悦に現実世界から得られる幸福が入ってきてしまい場合によっては「宗教で全ての幸福感が得られる」「宗教で全てが満たされる」といった事態がおこりかねないことになります。最近減少傾向ですが、一部の新興宗教によって生活の全てが変わってしまう、洗脳、といった事態が起こる理由もここにあると思います。高度成長時代の終焉で宗教によって現世利益を保証することが困難になってくると若い人達が新たにこの手の宗教に入信することが減って、戦後できた宗教の信者が高齢化する一方になっているというレポートが「宗教消滅」で述べられています(同書183頁)。

一方でイスラム原理主義など旧来の宗教の中で、現実世界に不満を持つ若者たちに対して、ジハードを行うことで来世において幸福を約束すると言う手法でひきつけているものが出てきました。これは現実世界で幸福感を得ることをあえて否定することでパラレルワールドにおける幸福感をより絶対的に大きなものとする新たな手法と言えるかもしれません。グローバリズムを主体とする現実世界の資本主義がある意味行き詰った状態で出現してきた手法という点で現代を象徴するもの、今後の世界のあり方を考えさせるものと言えるかもしれません。

 

4) 現実世界である国家が行うべきこと

 

人、国家からみた国民が幸福であるために国家ができることはある意味限られたものかも知れません。国家別国民幸福度ランキングというのが毎年発表されますが、経済が発展していれば国民が皆幸福というわけでもなさそうであることがこのランキングからも判ります(イタリアやロシアが日本より上??)。しかし国民が幸福感を感ずるために現実世界の大きな要素である国家ができること、やらねばならないことがあることも確かであると思います。突き詰めれば国民の衣食住と安全・自由を保証すれば国家の役割としては十分と言えるかもしれません。衣食住を保証するにはベーシックインカムの導入、経済システムの管理、安全を保証するには治安のための警察、防衛、医療と公衆衛生の整備が必要でしょう。自由は国家の存在目的を損なう事以外、各人の自由を制限する事はしないと憲法に定めて実行すれば良いでしょう。またこれ以上のことは国家が行うべきではないとも言えます。幸福感の感じ方は5次元世界の事ですから、各人によって異なる事は間違いありませんが、3次元の現実世界においてはある程度同じ要素で幸不幸を決定付けることは間違いありません。大飢饉や疫病の流行で次々と人が死んでいたら幸福であるはずがありません。現在憲法改正論議が行われようとしていますが、国家のあり方を決める基本法である憲法において、国民が幸福を感ずるために最低限行うべき事という視点で考える事も大事ではないでしょうか。

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限局性前立腺癌の部分治療(Focal therapy)、超音波治療について2017

2017-06-13 12:05:51 | 医療

今回の内容は泌尿器科における前立腺癌治療の専門的な事項の備忘録です。

2017年の米国泌尿器科学会に参加した本来の目的は、自分の専門である前立腺癌において、一昨年FDAで認められた前立腺に対する超音波治療(HIFU)が現在どのような位置づけにされているかを実際に見ることにありました。以下今回米国泌尿器科学会が発表した新しい前立腺癌治療ガイドラインのスライドを参照しながらまとめておきたいと思います。

 I.   限局性前立腺癌のリスク分類と治療

転移のない早期前立腺癌は局所治療(手術、放射線—外照射、内照射<brachytherapy>、その他-cryotherapy、超音波治療<HIFU>)か、治療を前提にした経過観察(active surveillance)が治療選択の基本であることは変わりません。治療選択にあたっては、早期であっても今後どのように癌が広がって行くかを予測するリスク分類が大事になってきます。近年では主に組織学的な悪性度をリスク分類の中心に据える傾向があります。

前立腺癌の組織分類は1970年代から改訂を経ながら使われているGleason scoreが有名ですが、2014年以降Gleason sumの5以下は癌とみなさないと考えられるようになり、しかも2カ所の合計が7であっても3+4と4+3の予後が異なるという意見が多くなり以下のようなGrade groupとしてリスク分類をするようになりました。

Low risk  Grade group 1 でvery lowとlowに分ける。

Intermediate risk Grade group 2と3でfavorableとunfavorableに分ける。

High risk Grade group 4と5 very high とhighはAUAとしては分けない。

 

 

II.   低リスク群における部分治療、HIFUの位置づけ

低リスク群でも生検のコア50%以下にGleason6以下の癌しかなく、PSAも10以下ならばVery low risk群として「経過観察(active surveillance)」というのは世界中の泌尿器科医で異論がない所でしょう。だからこの状態で手術など勧めてくる医者は信用できない医者と言って良いです。

それ以外のlow riskの患者には何らかの治療を勧めても良いとされます。基本Grade group1というのは放っておいても転移を来さない前立腺癌に対して付ける診断である、と病理学的に決められています(これは分類を決めた病理学の医師から説明された)。だからactive surveillanceも良いのです。但し家族性の前立腺癌などは進行したり多発性であったりしがちであり、積極的治療の対象となりえるということです。

このLow riskにおける治療の中にFocal therapyやHIFU治療がAUAのコンセンサスとして認められていることが解りました。

 

 

III.   中リスク群における部分治療、HIFUの位置づけ

中リスク群において、治療は原則手術かホルモン併用の放射線治療になります(エビデンスレベルA)。またFavorable riskの放射線治療はエビデンスレベルBでホルモンなしの放射線単独でも良いとされています。ここで部分治療やHIFUは治療を進めるエビデンスはない、とされます(実験的と言う意味)。凍結治療についてはレベルCのエビデンスですが腺全体を治療(whole grand)として選択肢に入っています。

 

 

IV.   高リスク群における部分治療、HIFUの位置づけ

治療は手術か放射線+ホルモンになります。余命が短い高齢者などを除いて経過観察やホルモン治療のみは勧められません。凍結治療、部分治療やHIFUはtrial以外駄目とされます。これも現状ではある程度納得できる所でしょうか。

 

 

V.   自分の考えと今後の部分治療などのあり方

学会では半日かけて新しい機械を用いてのHIFU治療の模擬演習の講習などがあり、参加しました。現在前立腺癌の診断を行うための生検もMRI画像と生検時の超音波画像をfusionさせた方法で行うことが勧められています。それはMRI診断において前立腺癌の検出率が機器の高度化とPIRADS scoreなどを用いて診断する診断率の向上で良好になってきたという背景があります。但しFusion 生検は悪性度の高い癌を検出する可能性は高めるものの、系統的生検で見つかる中リスク以上の癌を見逃す可能性も指摘されていて現状では両方併せて行うのが良いというのが結論です。

HIFUを用いて部分治療を行うには、MRIの画像と治療時の超音波画像をfusionさせて行う方がより確実なのでSonacare medicalのサイトもEdap tms Ablathermのサイトも新機種はこのMRI fusion systemを用いたHIFU治療が主体になっています。講習もこれに沿って行われました。しかし率直な感想としては「本当にこれ必要?」という感じです。現状治療の対象になるのは限られた前立腺癌の患者さんの群にすぎません。その人達を対象に超高額なこれらの機械(fusion機能がない古い機械でも1台1億4千万円する)が必要かい?と明確に言えます。まして部分治療では癌は根治できず、延々と経過観察をする必要があるのです(再度治療するという治療者側のうまみはありますが、患者側にとってはメリットないと私は思います)。

   MRIとのfusion機能を持った高価な機器

 

私は、HIFU治療は真の低侵襲治療であると確信しているのですが、それはwhole grandを確実に治療した場合のみに言えることだと考えます。凍結治療(cryo surgery)は会陰から複数の太い導子を挿入して凍結させるため、真の低侵襲治療とは言えないと思います。症例数が少ないものの、ホルモンを短期併用したHIFU治療などが、今後リスクの低い限局性前立腺癌の低侵襲治療として認められて行く事が望ましいように思います。

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米国医療裁判事情

2017-06-06 16:08:54 | 医療

先日参加した2017年米国泌尿器科学会総会では、裁判社会である米国の実情を反映して、医療裁判において、被告(defendant)となった場合にどのような対応をするべきか、また医療鑑定(expert witness testimony)で被告側、原告側(plaintiff)の証人(witness)になった場合にどのようにそれぞれの弁護士(attorney)または検事(district attorney/prosecutor)から質問されるかについて、模擬裁判の形で2週間くらいかけて行われる審理を1時間にまとめて3件披露するsectionがありました。医師も弁護士も実戦で活躍している一流の本物の人達が出ており、追求の様子も迫真の演技(実際にやっている通り)なのでテレビドラマのようでもあり、見ているだけで面白かったです。普段病院の事例検証を担当し、また裁判にも度々関係した事がある私としては実生活上も大変参考になったので備忘録的にまとめておこうと思います。

 

壇上で第一線で活躍する医療系の法律家達が実際の裁判さながらに被告や証人を追求する

 I.  以前裁判における医療鑑定でまとめたように、医療過誤(medical malpractice)を証明するには、

 

1)   安全さを欠いた治療であることを証明すること。

2)   過失(negligence)による障害の存在を明らかにすること。

3)   公正な正義に基づく主張であること。

を明らかにする必要があります。

 

 II. また医療過誤訴訟における論点として

 

1)治療義務(Duty of care)— 患者:医療者関係を築いた時点で普通成立。

2)治療義務の完遂(Breach of the duty of care)— 標準的な規準に照らして、当然行われねばならない医療内容(検査や治療など)が行われる事。

3)因果関係の成立(Causation)— 行われた(行われなかった)医療によって問題となる障害が生じた法的責任(liability)があること。

4)障害・損害の確定(Damage)— 精神的或は身体的障害が明らかであることを原告側(plaintiff)が証明。

などが挙げられます。

 

 

今回の模擬裁判では以下の3事例についての審理が行われました。それぞれについて医療過誤を訴求しえる理由、その論点を上記 I.II.に沿って短くまとめます。

Case 1. ロボット補助腹腔鏡による前立腺全摘手術で直腸損傷が生じ、術後それが判明したが、保存的治療を行った結果、膀胱直腸瘻になり、結局開腹手術で修復術を行って現在排尿状態などは問題ないがPSA再発をおこしつつある。

 

○    医療過誤を訴求しえる点。(1)前立腺全摘で直腸損傷(2)術中に判明し得なかった(3)解った時点で即治療せずに保存的治療(4)再度開腹手術が必要であった(5)完治に時間がかかっている間にPSA再発

○    上記それぞれについて標準的な基準に照らして当然行わねばならなかった医療内容ではなかったか(Breach of the duty of care)が原告側の弁護士から被告自身、被告側の証人に対して追求され、一方で原告側の証人は当然行われるべきであった治療などを文献やガイドラインを示しながら表明します。つまり術中に発見して即座に修復していれば2度の手術にならず、PSA再発も早期に対応できたはずとして損害の確定がなされます。

○    本例は日本であれば起こりえる合併症を適切に対応して完治できているので医療過誤の対象にはならないと考えますが(米国でもほぼ同じ考え)無理にいろいろ追求すればこうなりますという事例として示されました。

 

Case 2. 糖尿病で勃起障害のある60代の患者が、Viagraなど使用しても効果がなかったので男性ホルモンの補充を行った所、勃起可能となったが程なくして心筋梗塞を起こして死亡した。

 

○    医療過誤を訴求しえる点。(1)糖尿病で高脂血症なども伴う男性に男性ホルモンを補充することで心筋梗塞になるリスクが増加することは文献的にも指摘されているので、施行前に循環器科の受診を勧めるべきであった。

○    安全さを欠いた治療である、という主張に対して、被告側からは当然患者の希望でホルモン投与のリスクも説明した事などから過失(negligence)はなく、法的責任(liability)は問えないと主張されます。

○    本例も日本であればたまたま起こったで終わる例。男性ホルモン補充と心筋梗塞も100%の因果関係がある訳ではないので言いがかりに近いとも言えますが、裁判社会である米国ではきちんと対応しないと有罪になりかねません(弁護士の説明として、いかに素人の陪審員<jury>に専門医療の内容を解り易く<自分の主張したい方向に>納得させるかがポイントと解説してました)。

 

Case 3. 尿路感染を起こしていた腎結石の患者に経皮的腎結石砕石術(PNL)を行った所、結石は除去されたが手術終了直後から敗血症をおこして集中治療が必要になった。

 

○    医療過誤を訴求しえる点。(1)尿路感染の既往があれば治癒後であっても再度尿培養等行い(感染性の結石であるから)それに応じた抗生剤を使用してから手術を行うべきであった。(2)術後感染を起こし易いPNLよりも他の治療(体外衝撃波とか経尿道的治療とか)を選択すべきであった。

○    治療と感染の因果関係は成立していますが、安全性を欠く治療であったか、が争点。感染性結石であることはほぼ間違いないので検査を行ってから、という主張は説得力はある。

○    日本の場合、法的責任を問えるようには思えませんが、Morbidity and Mortalityカンファレンス(M & Mといって20年前米国留学していた当時から欧米では行われていて、最近では私の病院を含む日本でも普通に行うようになった)を行って、教訓として皆で知識を共有すべき事例と思われます。

 

Law & Orderなどの米国裁判ドラマでも良く見かけるのですが、弁護士が被告や証人に「YesかNoで答えて下さい。」と迫る場面があります。しかし医療では0%か100%で答えられる事柄は普通ありません(絶対安全とか100%治るとか)。その場合”Answer yes or no!”と迫られても”This subject can not be answered yes or no”と突っぱねて意見陳述をする場面が模擬裁判でもありました。これはこれで実際の裁判であっても良いのであって、yes, noで答えられない質問をする弁護士(検事)が悪いということのようです。大抵陳述中に発言を遮られて別のyes, noで答えられる内容に改めて質問される(絶対安全ということではありませんよね?のような)ことが普通のようです。だから無理にyes, noで答えて自分の意図しない思惑に乗せられることがないようにすることも大事と説明してました。

 

最近私が関係した医療裁判においても、I.IIの考え方から、標準的な基準に照らして当然行われなければならない検査が行われていなかったので注意義務違反である(治療義務の完遂が不十分)、という訴えに対して、検査は適切に行われており、その時に疾患が発見できなかった(後で別の病院で発見された)事は注意義務違反には当たらず、発見が遅れたことによる精神的・身体的障害が発生したという因果関係は成立しないとしてカルテなどの証拠を取り揃えて反証の文を作成して訴えを突っぱねた経験があります。日本においても医療裁判は一定の数行われており、仕事をしている限りいつも意識していなければならない事項であり、基本を抑えておく事は大切と思いました。

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エリートは何故グローバリズムが好きか

2017-06-01 17:08:38 | 社会

トランプ大統領がG7に出席して米国の国益のために各国首脳と丁々発止交渉を続けている一方で米国内ではトランプ降ろしのための画策が全力で進められています。反トランプ陣営にとっては国益などもうどうでも良いのでしょう。現在米国にとって脅威ではないロシア(グローバリズム陣営には脅威ですが)とのどうでもよいような疑惑をことさらあげつらってトランプの邪魔をし続けています。私は5月中旬に米国ボストンの2017年米国泌尿器科学会総会に出席してきましたが、その間米国で見聞した事も含めて「何故エリートはグローバリズムが好きか」(グローバリズムから脱却できないか)について考察したいと思います。ここで私の言うグローバリズムとは「世界を拝金資本主義という統一の価値観以外許さず、各国の自主的な規制よりも市場原理主義を全てに優先させる考え方」を言うのであって、国際的な広い視野で多極的な価値観を認め合って行く「インターナショナリズム」とは別です。

 

5月のボストンは気温10度前後、雨も振ってやや肌寒い感じでした。近くのニューヨークには20年前に1年住んでいたものの、ボストンは初めてで米国独立の元になった都市であり、100もの大学がある学問の街として落ち着いた雰囲気のある所でした。市内の移動は徒歩と地下鉄(1週間20ドルのリンクパスがどこの地下鉄の駅でもキャッシュで購入できて便利でした)で十分と思います。地下鉄はいろいろな人が乗っているので少し怖い感じもありますが(学会参加で背広着て乗っていたらハーバード大学のそばで黒人の若いのに「よお兄弟」と一度握手を求められた)ニューヨークも似たようなものなのでまあ大丈夫でしょう。

 

   ボストンの地下鉄(red line)と米国泌尿器科学会の会場

ホテルで暇な時はテレビを見ましたが、どこを見ても反トランプで「コーミー長官解雇」を問題視するニュースばかり。滞米中に北朝鮮が弾道ミサイルを発射しましたが、そのニュースなど30秒ほど形だけ報じて終わりで、後はサタデーナイトライブで喜劇役者がスパイサー報道官のパロディをやって傑作だといった下らないニュースを延々と何回も流す始末。パロディをやるのは良いとして他局の7時のニュース、9時のニュースで繰り返し紹介するような内容ではないのに視聴者を愚弄するのも好い加減にしたらどうだと思われます。オルタナのサイトでは「現在行われている報道機関の反トランプキャンペーン自体が一番の米国安全保障への危機である」といった識者の意見も紹介されています。

    スパイサー報道官のパロディとそれをニュースとして報道するテレビ

「コーエン教授は、政府には、行政府と議会によるアメリカ外国政策運営を妨害する諜報機関という四番目の権力の府があると言う。一例として、彼は“2016年、オバマ大統領が、ロシアのプーチン大統領と、シリアでの軍事協力の話をまとめたことを指摘している。少し前まで、トランプがロシア協力するはずだったのと同様に、彼は諜報情報をロシアと共有するつもりだと述べたのだ。国防省は諜報情報を共有するつもりはないと言った。そして数日後、アメリカ軍は合意に違反して、シリア軍兵士を殺害し、それで話は終わりになった。だから、我々の疑問は、現在、ワシントンで外交政策を決めているのは一体誰なのだろう?”」という指摘は全く当を得ています。

 

ボストンではBoston Scientificというまさにボストンに本社があるグローバル医療器械企業の主催する晩餐会に招待されて出席してきました。日本はAsia Pacific, Middle East, Africa部門の一部とされていて、総売上の18%程度だそうです。この地域のCEOを勤めているのはレバノン出身のOsama氏という30歳台の頭の良さそうな若手で、「数ヶ月前の出張では名前のせいで米国に入国できなかったのですよ」とトランプ政権への皮肉を込めて自己紹介してくれました。レバノンと言えばイスラエルとの確執(トランプや娘婿のクシュナー氏は親イスラエルだし)やヒズボラがシリア政府軍と協同してISと戦闘したりで国内は大変ではないかとも思われるのですが、その辺の話はスルー(多分故国には住んでないから)して「きっとこの若者も完全にグローバル企業のエリート社員であり、グローバリストなのだろうなあ」と感じました。

 

そこで本題の「エリートは何故グローバリズムが好きか」という問いですが、結論的に言うと「キリスト教的な奇麗事を言いながら我欲の追求ができるから」という事に尽きると思います。表面的な差別をなくし、実力本位で評価され、頑張った分だけ自分の物になる、うまくやれば無限に財産(権力)を増やせる、というのは実力のある者にとっては住み易い環境です。人間も動物も特定の能力の配分は正規分布を示している事は誰も否定しないと思います。義務教育における試験の成績が、母集団が大きくなる程正規分布を示してくることからも明らかです。社会が安定して成り立つにはあらゆる能力において正規分布を示している人達全てが程々に衣食住足りて生活してゆける環境にある事だということも誰も否定できないでしょう。一部の能力に優れた人が全ての富を独占する社会が安定的なものでないことは「真の知者」であれば理解できるはずです。だから人間社会は長年の試行錯誤の結果、国家と言う社会を造り、税を徴収して富を再配分することで社会の構成員が何とか皆暮らして行けるよう努力をしてきたのです。しかしグローバリズムは国家社会の枠組みを破壊し、税による富の再配分も拒否する方向で動いてきました。それに代わるセーフティネットの確立は「トリクルダウンセオリー」という現実には機能しない夢物語を語る事で済ませてきました。キリスト教文化においては富める者が貧しい者に施すことは善であり、富の独り占めは許されない(トマス・アクイナス 貪欲は大罪   ”金持ちになりたがる人たちは、誘惑とわなと、また人を滅びと破滅に投げ入れる、愚かで、有害な多くの欲とに陥ります。”新約聖書 テモテへの手紙 第一 6章 9節)はずなのですが、資本主義が盛んになるにつれてユダヤ人を中心にした金融業が栄え、マックスウエーバーの「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」以来天職に勤勉に励んだ結果。財をなして投資に資する事は社会にとっても善であるという思想が普及することで資本主義的行動が神の思想に反することではないと考えられるようになったのだと思います。その上神の思想に添うような「奇麗事」がグローバリズムには付いているので尚更抵抗感なくエリート達は受け入れることができるのだと思います。

 

ネオコンと呼ばれる人達が元々は社会主義者の左翼陣営から資本主義に鞍替えした人達であることは周知の事ですが、グローバリストと言われるエリート達は20世紀後半であれば左翼的な思想で世界統一を指向していた人達と考えられます。以前、「インテリは何故左翼が好きか」でも論考しましたが、本来左翼とは論理や理屈で社会が制御できると考える人達であって、グローバリズムエリート達と集団としてはかぶる人達であると考えられます。だからグローバリズムで世界が統一されることに抵抗感がないのだと思います。

 

先日訪れたボストンのハーバード大学で、同大学を中退して、いまや世界的大富豪であるFacebookのマーク・ザッカーバーグが卒業生にスピーチをしました。日本語訳全文がここで読めますが、なかなか感動的で良い事を述べてはいます。彼はグローバリストでありながら微妙にグローバリズムを批判するような言質も言いつつ、「自分の生き甲斐を探すのではなく、全ての人に生き甲斐を与える事を使命とするべきだ」というハーバードを卒業する将来の社会のエリート達に送る言葉を述べています。しかしグローバリズムをひっくり返して、多極化した世界に戻し、それぞれの小さな社会で各人が自分らしく生きられるようにとまでは言ってないですね。

 

   Harvard 大学  右はこれも名門のマサチューセッツ工科大学(MIT)で近所にある

「キリスト教的な奇麗事を言いながら我欲の追求ができる」というグローバリズムの本旨は実力のあるエリート達にとっては捨て難い魅力だと思います。大手メディアのプロデューサーやキャスターもエリートであり、グローバリズムを信奉して止まないからことさら反トランプに余念がないのだと思います。ボストンではUrology care foundationという医学に資する慈善的基金が主催するコンサートが開かれて、その司会を地元ボストンのCBSTVキャスターで父や兄弟がこれまた世界的に有名なMassachusetts General Hospital(MGHハーバード大学医学部の病院と言って良い)の泌尿器科医だというPaula Ebbenさんが勤めました。私は最低限の150ドルしか寄付しなかったので3階席の端っこでしたが、上限なく寄付できる人達は1階のテーブル席で食事をしながらコンサートを楽しむという趣向でした。John Williams特集でスターウオーズ等の知っている曲を良い演奏で聴けて満足だったのですが、まあグローバルエリートとは良いものだなと見せつけられた感じもありました。

 

  名門MGH  Paula Ebben嬢 Urology care foundationのコンサート

ということでグローバリズム的都市のボストンでグローバリズム的学会に参加した報告をかねて何故エリートはグローバリズムが好きかを考えてみました。

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