rakitarouのきままな日常

人間様の虐待で小猫の時に隻眼になったrakitarouの名を借りて政治・医療・歴史その他人間界のもやもやを語ります。

新しい免疫治療は癌の治療を変えるか

2017-09-27 16:27:36 | 医療

先日さる講演会の開会講演(opening remarksという露払いみたいなもの)を依頼されて専門外ではありますが、知り得る範囲での免疫治療についてのOverviewを話したので備忘録として載せておきます。

昨年亡国の薬剤(1年使用すると一人3,600万円かかる)として保険収載されたものの物議をかもしたNivolumabですが、悪性黒色腫、肺がん、腎癌、そして胃癌にも適応追加となり、多くの臨床知見が集積されてくると、今までの免疫治療ではありえなかった高い効果が確認され、また転移癌にも関わらず2-3割の患者さんは完治や進行停止が長く続くことが確認されるようになってきました。今までの化学療法剤による抗がん剤治療では転移を有する癌の完治は、一部白血病などを除いてなかったのですが、これが実現するとなると癌の治療自体が根本から変わってくる可能性が出てきました。そのような現状を踏まえての希望のある講演会(薬剤費については今年半額になったといってもまだ亡国の薬剤と言えますが)でした。

 

本日はお疲れの所、本研究会にご参集いただきましてありがとうございます。専門的な内容は講師の先生方に御願いいたしますが、オープニングとしまして、がん免疫について考え方について、さわりの部分をごく簡単にご紹介をしたいと思います。

 

ご存知の通り人口の高齢化に伴い、がんによる死亡が増加しております。右の図でも解りますように、年齢調整別人口10万人あたり死亡率は、15年程の違いでも赤線で示した2011年においては高齢者において、がん死亡率が1994年よりも増加していることが解ります。つまり年をとるほど癌になり易いという事です。

 

 

なぜそうなるかと申しますと、最もクラシカルな「がん免疫」の概念とも言える「免疫監視」という概念から説明されます。これはノーベル賞を授賞したフランク・バーネット博士が提唱したものですが、体内では自然発生的に1日3,000個癌細胞が生まれているけれども、これらを免疫細胞が排除しているために臨床的な癌にならずに済んでいる、という考え方です。しかし高齢になるほどその免疫監視をすり抜けて臨床的な癌になる機会が増えるために癌になるという理論です。細胞や核酸の老化や癌源物質の暴露による変異の増加も癌化の機会を増やしていると言えるでしょう。

 

 

ここで「自然免疫」と「獲得免疫」という概念があります。「自然免疫」とはハエなどの下等な生物にも備わっている異物を排除する初歩的な機構で、自然発生の癌細胞も一つ二つであれば自然免疫で排除されます。しかし特定の異物に対して集中攻撃による排除を可能とする「獲得免疫」こそが、高等生物を感染や外傷等の危機から防御し、長寿化や種の繁栄に役立って来た原資と言えます。そしてこの獲得免疫という機構をいかにより活性化するかという問題が、現在のがん免疫療法を考える上での課題になっていると言えます。本日のメインテーマであるニボルマブもこの機構に働きかけたものと言えます。

 

 

現代の免疫治療において、癌化に伴う変異の何を認識して攻撃するか、は重要な課題と言えます。細胞の癌化に直接関与する遺伝子変異を「ドライバー変異」、癌化に伴って副次的に現れる遺伝子変異を「パッセンジャー変異」と言います。免疫治療ではありませんが、癌細胞が特異的に発現させる各種サイトカインなどを拮抗させる「分子標的剤治療」はドライバー変異をターゲットにしたものと言えます。一方抗原性が強く、より普遍的な変異として広く癌免疫に利用しえるのはパッセンジャー変異の方であるとも言われています。癌細胞は一様ではなく、特定の物質をターゲットにする治療には限界があるからです。

 

宿主の免疫細胞が、自己の免疫機構の暴走を防ぐための調整機構が今話題の「免疫チェックポイント」と言われるものですが、自己の免疫細胞の活性を抑えるために出すPD-1という分子に対するリガンド(分子に結合して機能を活性化させる物質)PD-L1をがん細胞が発現させることが知られています。これらの機構もパッセンジャー変異の一つと言えるでしょう。(図の説明としては、血中のT細胞ががん細胞に接して活性化され、エフェクターT細胞になるが、活性化が過ぎると各種自己免疫疾患などが惹起されてしまうので制御性T細胞<チェックポイント分子であるCTLA4やPD-1、LAG3などを発現している>がこれを抑えにかかる。作用時間の長いPD-1は活性化前のナイーブTから発現され続けているが、リガンドが作用することで活性化が制御される。このPD-1やPD-L1に対する抗体<nivolumabなど>は分子を中和して機能させなくなることで免疫永久活性化<お祭り状態>が保たれて免疫が癌<時に正常細胞も>殺しまくることになる。)

 

免疫細胞が発現する活性を抑える機構PD-1、或はがん細胞が発現するそのリガンドであるPD-L1を抗体によって中和させてしまうことで免疫機構の活性化を恒久化する各種薬剤がスライドに示しますように現在開発されて臨床応用されてきています。そしてこれらの薬剤が現在のがん免疫療法の新しい展開につながってきたと言えます。本日はその新しい展開についてさらに理解を深めて行きたいと思います。以上。

 

と言う事で今までの免疫治療というのは効いて10-20%と言われて来たのですが、今回注目されている薬剤は使用した患者の50%近くに効果が発現し、しかも20%位は非常に効果が長く保たれることが解ってきました。しかし夢の薬剤と断定するには早く、今まで経験したことがないような副作用にも遭遇することが報告されています。やたらと高い費用を要求するインチキ免疫療法に騙される人達(騙す方が悪いですが)も困りますが、正規の病院で治療に使われるこれらの薬剤は本当に効果がある(保険が効くものの費用が高いことはインチキ免疫治療と同じ)ことは確実です。これらの薬剤を使用した後は既存の抗癌剤や化学療法剤の効きが良くなる(宿主と腫瘍の性情に共に変化が起こる可能性が指摘されているー前回無効であった薬剤が有効に変わる)という報告も増加していて、今後の展開が期待できます。

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