2024年2月27日スウェーデンは1843年以来の中立政策を棄ててNATOに加盟しました。フィンランドは昨年31か国目のNATO加盟国になったのでスウェーデンが32か国目になります。元々ロシアに挟まれた北欧国家であったスウェーデンはイギリスとロシアとのバランス外交として中立主義を選択し、第二次大戦では枢軸よりではありましたが、独自の兵器開発にも従事しながら戦争に加担することなくうまく振舞ってきたと言えます。
ここで国民投票も行わず、EUに加盟していて、EUがウクライナを支援しているという成り行きのみであの第二次大戦中を含めて180年堅持してきた中立主義を廃棄する愚かさは「あはれ」なほど愚かな事です。
フィンランドに続いてスウェーデンNATO正式加盟を伝えるBBCの記事 銃身は伸ばされたということ
I. プーチン拡張主義(ロシア帝国主義)神話の馬鹿馬鹿しさ
21世紀になってから、普通に新聞などのメディアで知識をえていたヒトはプーチン大統領が就任初期以来、資源と工業を中心としたロシア経済の立て直しと西側と通じたオリガルヒの排除を行ってきた事は理解できるでしょう。そしてグルジア、ウクライナなどのロシアと国境を接する国のNATO加盟に対して警鐘を鳴らしてきた事も明らかです。しかし19世紀型の領土拡張による帝国主義を進める意図は全くなかったと言っても良いと思います。それは陸軍の編成を見ても明らかですが、今回のウクライナ戦争初期、Special Military Operationと称していた時点では、ロシアは平時の兵力と装備で作戦を行っていました。2022年の夏以降は動員令をかけて軍内の編成、経済体制も戦時体制に移行しました。「ロシアはウクライナと戦争しなければ日本に攻め入る予定であった」などと言う根も葉もない噂を広めて日本をNATOに加えようとする勢力がいるようですが、軍事音痴すぎるフェイクであり、信ずるほうも軍事音痴過ぎると言えるでしょう。19世紀型の帝国主義で資本主義的に儲けが出る時代ではない位少し考えればわかります。「土地がどの国に属するか」ではなく、「資本を持つ者」が儲ける事ができるのが資本主義なのですから。
II. 今までのNATO拡大とプーチンの対応
プーチン拡張主義が作り話である客観的証拠として、今までのNATO拡大とプーチンの対応について、コロンビア大学のジェフリー・サックス教授がまとめた年表があるので備忘録として以下に記します(赤字はrakitarou)。
1990年1月31日。ドイツのハンス・ディートリッヒ=ゲンシャー外相は、 ドイツ の再統一とソ連のワルシャワ条約機構の軍事同盟の解消を背景に、NATOは「東方への領土の拡大」を排除するとソ連のミハイル・ゴルバチョフ大統領に約束した。
1990 年 2 月 9 日。米国国務長官ジェームズ・ベイカー 3 世は 、ソ連のミハイル・ゴルバチョフ大統領と「NATO の拡大は容認できない」という意見に 同意した。
1990年6月29日~7月2日。NATO事務総長マンフレッド・ヴェルナーは ロシア高官代表団 に対し、「NATO理事会と彼(ヴェルナー)はNATOの拡大に反対している」と語った。
1990 年 7 月 1 日。ウクライナ議会は 国家主権宣言を採択し、その中で「ウクライナ・ソビエト社会主義共和国は、軍事ブロックに参加せず、非核の 3 つの原則を遵守する永世中立国になる意図を厳粛に宣言する。核兵器を製造せず、購入しないこと。」
1991 年 8 月 24 日。ウクライナは、 中立の誓約を含む 1990 年の国家主権宣言に基づいて 独立を宣言。
1992年半ば。ブッシュ政権の政策立案者らは、 最近ソビエト連邦とロシア連邦に対して行った約束に反して、NATOを拡大するという秘密 の内部合意に達した。
1997 年 7 月 8 日。マドリッド NATO サミットで、ポーランド、ハンガリー、チェコ共和国が NATO 加盟交渉を開始するよう招待されました。
1997年9月から10月。『フォーリン・アフェアーズ』(1997年9月・10月)の中で、元米国国家安全保障問題担当補佐官ズビグネフ・ブレジンスキーは、 ウクライナの交渉が暫定的に2005年から2010年の間に開始されるというNATO拡大のスケジュールを詳しく 述べている。
1999年3月24日~6月10日。NATOがセルビアを爆撃。ロシアはNATO爆撃を「国連憲章の重大な違反」と呼んでいる。
2000 年 3 月 ウクライナのクチマ大統領、 「この問題は極めて複雑であり、多くの角度から関係しているため、今日、ウクライナが NATO に加盟することに疑問の余地はない」と 宣言。
2002年6月13日。米国は弾道兵器禁止条約から一方的に離脱したが、ロシア下院国防委員会副委員長はこの行動を「歴史的規模の極めて否定的な出来事」と 特徴づけた 。
2004 年 11 月から 12 月にかけて、ウクライナで「オレンジ革命」が起こります。この出来事を西側諸国は民主主義革命と特徴付け、ロシア政府は米国の公然および秘密裏の支援による 西側が仕組んだ 権力掌握と特徴付けています。
2007 年 2 月 10 日。プーチン大統領は、 ミュンヘン安全保障会議での演説で、NATO 拡大を支援して一極世界を築こうとする米国の試みを強く批判し、次のように宣言した 。「相互信頼のレベル。そして私たちには、この拡張は誰に対して意図されたものなのかと問う権利があります。そして、ワルシャワ条約機構の解散後、西側パートナーが行った保証はどうなったのでしょうか?」
2008年2月18日。ロシアの激しい反対にもかかわらず、米国が コソボの独立を承認 。ロシア政府は 、コソボの独立は「セルビア共和国の主権、国連憲章、国連安保理決議第1244号、ヘルシンキ最終法の原則、コソボの憲法枠組みおよびハイレベルのコンタクトグループ協定」に違反していると宣言している 。
2008 年 8 月 20 日。米国は ポーランドに弾道ミサイル防衛 (BMD) システムを配備し、その後ルーマニアも配備すると 発表。ロシアは BMDシステムに対して 断固たる反対を表明している。
2014年1月28日。ビクトリア・ヌーランド国務次官補とジェフリー・パイアット米国大使は、2月7日に傍受され YouTubeに投稿された通話でウクライナの政権交代を計画 しており、その中でヌーランドは「(副大統領)バイデンは協力する用意がある」と述べている。
2014 年 2 月 21 日。ウクライナ、ポーランド、フランス、ドイツの政府は、 ウクライナの政治危機の解決に関する合意に達し、年内の再選挙を呼びかけました。極右右派セクターや他の武装勢力は代わりにヤヌコーヴィチ氏の即時辞任を要求し、政府庁舎を占拠した。ヤヌコーヴィチは逃亡する。議会は弾劾手続きを経ずに直ちに大統領の権限を剥奪する。
2014 年 2 月 22 日。米国は 政権交代を直ちに承認。
2014年3月16日。ロシアはクリミアで住民投票を実施し、ロシア政府によると、ロシア統治を支持する票が多数を占める結果となった。 3月21日、ロシア下院はクリミアをロシア連邦に加盟させることを可決した。ロシア政府は これをコソボの住民投票に例えている。 米国はクリミア住民投票を不当なものとして拒否している。
2015 年 2 月 12 日。ミンスク II 協定の署名。この協定は、 2015 年 2 月 17 日の 国連安全保障理事会決議 2202によって全会一致で支持されています。アンゲラ・メルケル元首相は後に 、ミンスク II 協定がウクライナに軍事強化の時間を与えるために設計されたものであることを 認めました。この協定はウクライナによって履行されず、ヴォロディミル・ゼレンスキー大統領は 協定を履行するつもりがないことを 認めた。
2019年2月1日。米国は中核戦力(INF)全廃条約から一方的に離脱。ロシアはINF撤退を安全保障上のリスクを煽る「破壊的」行為として厳しく批判している。
2021年6月14日 ブリュッセルで開催される2021年のNATO首脳会議で、NATOはウクライナを拡大し包摂するというNATOの意図 を再確認し 、「我々は、ウクライナが同盟の一員となるという2008年のブカレスト首脳会議での決定を繰り返し表明する」と述べた。
2021年9月1日。米国は、「米国・ウクライナ戦略的パートナーシップに関する共同声明」の中で、ウクライナのNATO願望への支持を改めて表明した。
2021年12月17日。プーチン大統領は、NATOの非拡大と中距離および短距離ミサイルの配備の制限に基づく「安全保障に関するアメリカ合衆国とロシア連邦との間の条約」草案を提出。
2022年1月26日。米国はロシアに対し、米国とNATOはNATO拡大問題をめぐってロシアと交渉しないと正式に返答し、ウクライナ戦争の拡大を避けるために交渉による道への扉を閉めた。米国は NATOの政策を援用し 、「同盟への加盟国を招待するいかなる決定も、全同盟国の合意に基づいて北大西洋評議会によって下される。第三国はそのような審議において発言権を持たない。」
2022 年 2 月 24 日。プーチン大統領は 国民に向けた演説の中で次のように宣言します。「過去 30 年にわたり、我々は平等かつ不可分な安全保障の原則に関して NATO 主要諸国との合意に達するために辛抱強く努力してきたのは事実です」ヨーロッパで。私たちの提案に対して、私たちは常に冷笑的な欺瞞や嘘、あるいは圧力や脅迫の試みに直面しましたが、一方で北大西洋同盟は私たちの抗議や懸念にもかかわらず拡大を続けました。その軍事機械は動いており、先ほども言ったように、まさに国境に近づいています。」
NATOの勢力範囲を一貫して拡大してきたのは西側であって、プーチンが領土拡張主義を画策してきたわけではない事は明らかと思います。
―――そしてウクライナ戦争につながります。―――
III. Nation Statesの両義性
Nation Statesという英語には「国民国家」「民族国家」という二つの意味があることは以前説明しました。Nation Statesの概念はウエストファリア条約に遡って、封建制、民主制に関わらず、領土と支配権が確立された土地に住む者を国民として全体を国家と定義づけてゆく体制にあります(国民国家)。そしてフランス革命によって住民に主権の概念が生まれると、同じ生活習慣や言語を共にする人々の集団を「民族」として一体感を持って考える概念が芽生え、第一次大戦後の民族自決主義の高まりによって一民族一国家を望む風潮が高まったと言えます(民族国家)。ウクライナが国境を守る事は国民国家として正義ですが、ドンバス・ルガンスクのロシア語圏住民が自治を求めて独立し、ロシアへの帰属を国民投票で決めたのなら独立勢力とロシアに正義があります。米国は2008年にコソボの独立を認めたのですから、ウクライナ東部のロシア語圏の独立も認めないと矛盾してしまいます。ミンスク合意というのは国民国家、民族国家の両義性を両立させた優れた解決法だったのですから協定の遵守がウクライナ国民にとって最大の利益だったことは間違いありません。
IV. EUという資本主義による政治支配体制に国家の命運を委ねて後悔しないか
EUは一時独自の軍備をフランス主導で検討したことがありましたが、現在は非軍事的な経済中心の連合国型合同政治組織で、米国はEUに加盟していません。また2020年1月に英国がEUから正式に離脱しましたが、コロナ騒動が始まり物流やヒトの移動も制限されたので、ブレグジットの冷静な分析はなされていないようにも思います。2022年のウクライナ戦争開始からは、EUも戦争当事国の様にウクライナへの武器支援などに積極的にコミットしており、EU自体がNATO加盟国の様な印象を持ちます。
マクロン大統領は参戦に前のめり(派遣していた特殊部隊がロシアのミサイルでやられたから?)
欧州のNATO加盟各国は、ウクライナ戦争にはやや腰が引けた対応であり、市民の選挙が関係ないEU政府の閣僚の方が戦争支援に積極的と感じます。要はウクライナ戦争は欧州内国家間の争いが趣旨ではなく、経済的欧米支配をロシアにも広げる、露中封じ込めを趣旨とした代理戦争であることが明らかなのだと思います。
他のNATO諸国は自国の軍は派遣しないと一斉に反論
EUを脱退した英国はむしろ主導してウクライナ戦争に関わっているよね、と暴露され。
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そのような状況下で、スウェーデンが180年堅持してきた軍事的中立主義を易々と放棄してNATOに加盟することが国民の総意なのか、きわめて疑問であると思います。ちなみにフィンランド、スウェーデンは1995年にすでにEUには加盟して、経済的な恩恵は享受しています。