rakitarouのきままな日常

人間様の虐待で小猫の時に隻眼になったrakitarouの名を借りて政治・医療・歴史その他人間界のもやもやを語ります。

米国泌尿器科学会2024のまとめ

2024-06-01 13:36:14 | 医療

今回は専門的な内容の備忘録です。2024年5月3日から6日に米国テキサス州サンアントニオで米国泌尿器科学会総会が開かれ、rakitarouは現役として最後だろうと考えて出席してきました。全体の印象は前回出席したBostonの総会に比べて内容含めて「地味」の一言に尽きる様に思いました。最近の泌尿器科全体として注目に値する新しい話題がない事もありますが、日本の泌尿器科学会も教科書的な総論が多く、現在の日本において倫理規定が厳しすぎてユニークな研究がほぼできなくなっている事も背景にあると思います。Plenaryと呼ばれる専門に特化しすぎない教育的内容の催しもBostonにおいては医療過誤の模擬裁判や当時先進的であった遺伝子治療や免疫治療について判りやすく問題点などを解説する内容で参加する意義があると感じたのですが、今回は「そうだよね。」と既に納得している内容が多く、わざわざ米国南部まで来なくても、と感ずる物が多いと感じました。

その様な中でもいくつか今後のために特記するものを記しておきます。

会場となったHenry B. Gonzalez Convention Center街の中心部にある巨大な会場

I.  BCG抵抗性の膀胱上皮内癌に対する全摘手術以外の治療法

1) ICI(免疫チェックポイント阻害剤)Keynote-057でも報告済で、日本でも化学療法後であれば保険適応になっており、私も実際に患者さんに使用したこともあります。研究では投与中央値が7回で、3か月時点で40%に完全奏効CRが見られたとされます。

2) TAR-200徐放性膀胱内注入デバイス これは日本では未導入ですが、化学療法で用いるジェムシタビンを2週間かけて膀胱内に徐放性に効かせるデバイスで、平均6回注入して奏効率80%以上という良好な成績です。血中移行は代謝物が少量検出される程度で膀胱痛など副作用も少なく(8%)(SunRISe-1試験)、膀胱全摘に代わる優れた治療と思いました。

膀胱内にコイン大のジェムシタビン徐放性デバイスを2週間留置する。ジェムシタビンやシスプラチン注射液の膀胱内注入はショックなど悲惨な結果だっただけに、徐放剤は期待できる。

 

3) 腫瘍溶解性ウイルス感染による治療 正常細胞に感染せず、がんに特異的に感染するウイルスを用いて腫瘍を壊死させて新たに免疫誘導もすることで治療する。これはまだ実験段階。

腫瘍溶解性ウイルス治療の概念図。各種ウイルスで効果試験中。

 

II.  前立腺癌に対する集束超音波治療(HIFU)

これは自分が専門に行っていて、全摘に匹敵する効果が期待されたのですが、標準治療にはならず、現在部分治療(Focal therapy)が中心になっていますが、フランスからの報告では、比較的悪性度の低い治療群においては全摘手術に非劣勢の結果であった(HIFI trial)。

米国ではwhole gland治療は否定されて部分治療のみになったが、フランスでは見直されている。

 

MRIガイド経尿道的超音波治療(TULSA)が経直腸HIFUに代わって紹介されていますが、1年生検での再発率が11.8%(18/152)と予想通り悪く、今一つと考えます。私が行っていたDegarelixを2回投与した中間の2週目にHIFUを行うやり方(5年で再発率6.7%1/15)の方がはるかに有効だと思う。

TULSAはあまり期待できないと思う。右はHOLEPとHIFUを同時に行って肥大症と癌を同時に治療するというもの。力業であまり勧められない。TUR-P先行で後日HIFU+Degarelixが確実。

 

III.  前立腺肥大症の新しい治療 iTIND

米国オリンパスがイスラエル企業と共同で開発(合併)した尿道に6日間拡張デバイスを留置した後除去することで、肥大組織が圧迫壊死を起こして肥大症が改善するというもの。数年は効果があると言われる。局所麻酔でも挿入可能で、高齢者の前立腺肥大による尿閉でカテーテルを留置している患者さんにも安全に行い得るため、日本でも需要が多いと思いました。会場にいた日本から派遣されたオリンパス技術部員に日本でも発売するよう話しました。

前立腺部に拡張ワイヤーを留置する。国内での発売が待たれるiTIND

 

IV.  前立腺癌治療後のMRI、生検のGleason分類、PSMA―PET

初回診断時にPSMA-PETはMRIや生検の代わりにはならず、使えない。逆に治療後はMRIにおけるPIRADS-Scoreや生検のGleason分類は意味がなく、PSMA-PETで癌の有無を検索する意味がある。

以上


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