rakitarouのきままな日常

人間様の虐待で小猫の時に隻眼になったrakitarouの名を借りて政治・医療・歴史その他人間界のもやもやを語ります。

変異種に対する免疫的多様性とワクチン

2021-04-16 22:52:46 | 医療

2021年4月に入ってから、落ち着きを見せていた新型コロナ感染症の新規感染者が世界的に増加傾向にあり、日本でも大阪府を筆頭に関東一円で新型コロナ感染症患者が増加しています。その理由は感染性が高い「変異種」の出現にあると言われています。報道によると、大阪府では変異株PCR検査陽性率は73.7%と、感染スピードが速いとされるイギリス型の変異株の感染が急拡大しているとされます。大阪府の分析によると、第4波は第3波と比べ、発症から重症化するまでの日数が7日と1日短くなっており、変異株陽性者は6日とさらに短くなっているそうです。重症化率も従来株で3%、変異株で5%程度となっており、「母数の少なさ等から単純比較は困難」としつつ、「重症化率は従来株と比べて高い傾向」と指摘しています。また、大阪府内の10万人当たりの新規陽性者数は週47人で、感染状況を示すステージ4の目安となる25人を既に大幅に上回っている由です。

 

今回報道をそのまま引用したのは、今まで新型コロナ感染症の脅威を必要以上に煽るために「医療ひっ迫」をオオカミ少年の様に何度も訴え続けてきたのが、本当に重傷者が増加する傾向が見え始めて、「今度は本当の脅威」になる可能性が出てきたからです。いつも引用するCorona world meterの集計では、全体としての死亡率、治癒率には変化はありません(図)。しかし日々の感染者数と特に重傷者数の推移をみると明らかに増加していて、特に変異種は従来種よりも若年者に感染する確率が高い事は確かなので、重症化した場合の勝負所も長期に渡る可能性が高く、結果的に重傷者が蓄積してしまう可能性があります。軽症者用の病棟の拡充は比較的簡単にできますが、ICUなど重傷者を扱える病床は簡単に増やせません。それは新型コロナだけが病気ではなく、他の疾患による重症対応も今まで通りに行わねばならず、ICUの病床もほぼいままで通りの疾患による患者数に合わせて全国的に作られているからです。私は毎日県内の感染者数や重傷者数を知り得る立場にいますが、明らかに変異種が増加し始めてから重傷化する率や重傷者が増加傾向にあることは明らかです。

世界における新規患者数は3月に一度減少してからまた冬場の様に増加しつつある   死亡率、回復率は全体としては変わらない

そうは言っても、上記図の様に、全体の患者数から見れば、変異種といえども無症状や軽い症状の患者さんが圧倒的に多いのであって、「人類が絶滅するような病気ではない」ことも確かではあります。だから医療者を含む一般の人は今まで通りの「三密を避けて、マスク・手洗い・うがい」以上の事をする必要はありません。

現在治療中の患者は全体としてやはり増加している。感染しないように注意は必要だろう。

 

〇 なぜ特定の変異種が注目されだしたか

 

以前から指摘している様に、新型コロナウイルスSARS Cov2 virusは2019年秋の発生以来、数百種類の変異種に分かれてきました。しかし科学誌Science(1)やNature(2)に特定の変異種の感染性や重症化率が高いことが報告され、WHOは 特定の変異種を2021年になってVariants of concern(VOC) 「懸念される変異種」と定義づけるようになりました。これらはイギリス型とされるB,1.1.7南アフリカ型とされるB,1.351ブラジル/日本型とされるP1などがあります(図)。他にも注意すべき変異種(variant of interest)、医学的に異なる結果をもたらす変異種(variant of high consequence)などの定義があります。

これらの懸念される所は、感染力や重症化率のちがいのみでなく、世界中で施行されているワクチンが効かない可能性がある事で、既にいくつかの報告(3)があります。

本来遺伝子的な変異は1か所ではないが、ウイルス自体の特徴が変わった原因と推定されるものを代表してB,1.1.7の様な表記でなく、N501Yと表しているようだ。

 

〇 なぜワクチンが効かなくなるのか

 

現在世界中で施行されている遺伝子ワクチンは単一のスパイク蛋白に対する抗体を作成します。その抗体は1種類ではありませんが、鋳型となるタンパク質は1種類であり、変異種となってアミノ酸の成分が変わるとタンパク質の立体構造に微妙な変化が生じます。その変化に関係なく宿主の既存抗体が反応してくれれば「交叉免疫」として有効になるのですが、反応しない場合は新たに鋳型を宿主の免疫細胞が認識して新規B細胞に抗体の作成を命じないといけなくなります。しかしワクチンによって宿主免疫細胞が役に立たない従来型のスパイク蛋白に対する抗体を全力で作成し続けていると、本当に必要な変異種に対する抗体を作る余裕がなくなり、かえってワクチンを打ったために他のウイルスに感染しやすくなってしまいます(図)。猫の遺伝子ワクチン投与の実験が失敗に終わって宿主の猫が全て自然のウイルス感染で死亡してしまったのはこのような経過であったと思われます。

従来のワクチンも必ずしも全てが有効ではありませんが、交叉免疫的に有効な例として表示しました。

 

〇 細胞性免疫の重要性

 

遺伝子ワクチンを推奨するにあたって、私が懸念したのは、前回のブログでも紹介した様に「中和抗体の産生量」ばかりが有効性の指標として喧伝されている事で、本当に大事なのは前ブログ内で紹介した論文に述べられていた様に(メモリー)T細胞があらゆる種類のコロナウイルスに対しても反応しえる多様性(図)を維持して存在する事(ファクターX)なのです。だから単一の抗原を作り続ける遺伝子をブースター投与(複数回投与)したり、DNAウイルスを感染させて半永久的に宿主に抗原を作り続ける事は「自然な免疫反応に対して邪道」だと考えます。私は生理的状態より異常に長く蛋白を作り続けるのが不安でしたが、いずれは消えると予想されるmRNAを1回投与なら良いだろうと考えてファイザーのワクチンを1回だけ打ち、2回目は打ちませんでした。私の外来に通ってくれる高齢の患者さんたちから、最近ワクチンの相談を受ける機会が増えましたが、私を信頼してくれる患者さんには、「副反応が強い可能性があるから1回だけ受けたら良いですよ」と余計な説明はせずにお話しています。

遺伝子再構成による10(12乗)種可能と言われる多様性獲得のメカニズム(Kotai bioさんのページから)

 

〇 コロナパンデミックは終息しないのか

前回のブログでは、世界においてはもうある程度集団免疫に達しつつあるのではないか、という見通しを述べましたが、それは今も変わりません。日本が欧米の様な大量感染発生に至る事は今後もないだろうと見込んでいます。また世界における流行もあと1-2回はピークを迎えるかも知れませんが、大きくは終息に向かってゆくだろうと予想します。既にテキサス州のように一切の制限を撤廃して1か月以上経過しても感染者が増加していない地域も出てきています。もっとも「新・新型コロナCovid-21」の様なものが新たに出現したらその限りではありませんが。

参考

(1)Davies, N.G., et al., Estimated transmissibility and impact of SARS-CoV-2 lineage B.1.1.7 in England. Science, 2021.

(2)Davies, N.G., et al., Increased mortality in community-tested cases of SARS-CoV-2 lineage B.1.1.7. Nature, 2021.

(3)Kustin T., et al., Evidence for increased breakthrough rates of SARS-CoV-2 variants of concern in BNT162b2 mRNA vaccinated individuals medRxiv preprint doi: https://doi.org/10.1101/2021.04.06.21254882


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