rakitarouのきままな日常

人間様の虐待で小猫の時に隻眼になったrakitarouの名を借りて政治・医療・歴史その他人間界のもやもやを語ります。

現在のアメリカを理解する好著2冊

2008-12-28 23:02:09 | 書評
○アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない 町山智浩著 文藝春秋08年刊

○ 次の超大国は中国だとロックフェラーが決めた(上下) ヴィクター・ソーン(副島隆彦訳)徳間書店06年刊、文庫本08年刊

「アメリカ人の・・」はいろいろな所で取り上げられている話題の本で、週刊現代で06年から08年6月まで連載された著者のアメリカ観察のコラムを編集しなおしたものだそうです。表題や水道橋博士絶賛といったややB級的宣伝からは毒気のない肩の凝らない読み物を連想してしまうのですが読みごたえのある思わず「アメリカはどうなってしまうのか」と唸ってしまうような内容です。後者の「次の超大国・・」がアメリカの政治経済のストーリーを書いてきた人達、つまりアメリカを陰で動かす人達の存在を露にした本とすれば、前者はアメリカの一般ピープルがいかに何も考えずに動かされているかを市民目線から赤裸にした本と言えるでしょう。前に少し紹介した堤未果著「ルポ貧困大国アメリカ」(岩波新書08年)も庶民の目から現在のアメリカ社会を描いた好著でしたが、真面目に勉強して働こうとしても現在のアメリカは下層階級の人は中流になどなれず、一層酷い状態に落ちてゆくしかないような社会のしくみになっているという悲劇を描いているのに対して、「アメリカ人の・・」はそのようなアメリカ大衆が現在のアメリカに対して問題意識を持っていない、つまり愚民化され搾取されている「おばかな状態で良い」と思ってしまっていることを種々の例をあげて証明している点で一層救いがたい状況であることを明らかにしています。

アメリカを駄目にしてしまっている重大因子として氏は「キリスト教原理主義」「ユダヤ的拝金主義経済」「愚民化を促すメディア」の存在をあげています。「キリスト教原理主義」は聖書の教え通りにつましく生きるというよりも「異教徒の排除」とか「科学的合理的思考の排除」とか「同性愛の禁止や堕胎の禁止」など現代的思考から離れたエキセントリックな生き方を強要することで愚民化を促し闇の支配を行いやすくしていると言えます。「拝金主義」は現在の経済破綻とアメリカ製造業の衰退を見れば解るように「目先の利益追求」と都合の良いグローバル化が結局アメリカの製造業を衰退させ社会構造を貧困にさせてしまった原因です。「愚民化を促すメディア」は日本も当てはまりますが、民衆を都合よく洗脳するためには嘘やでっちあげも平気で繰り返し流すジャーナリズム精神など消滅した「利益集団にに支配されたマスコミの現状」のことです。「次の超大国は・・」でも触れていますが、テレビだけでなく大新聞も殆どが金融財閥に直結した一部の人達に所有されている現実はヒトラー時代のメディアによる大衆操作以上のものです。

町山氏はだからアメリカの時代が終わり、アメリカはもう駄目なのだと嘲笑しているのかというとそうでもありません。第6章「アメリカを救うのは誰か」と終章「アメリカの時代は終わるのか」の所でSFでしか存在しえなかった黒人大統領が21世紀早々に出現したことと、アメリカ的良心を体現したようなマケイン氏が大統領候補になったことへの期待が語られ、世界から金や資産がアメリカに持ち込まれ、世界各地から希望を持った人材がアメリカに集まってきている現実に触れています。アメリカに住む人達が期待できないなら世界から夢を抱いて集まってくる人達にアメリカのあるべき姿の実現を託そうよ、と言っているようです。

「次の超大国は中国だとロックフェラーが決めた」は副島隆彦氏の学問道場では「中国ロック本」と呼ばれて重要視されています。私は当初題名から中国のことを重点的に書いた本かと思っていたのですが、原題「The New World Order Exposed」が示すようにヴィクター・ソーンが原著で示したのは民主国家を偽装したアメリカを陰で動かしてきた勢力、つまりロックフェラーやロスチャイルド、ワールブルグといった巨大財閥とそれを取り巻く外交問題評議会や三極委員会がアメリカの政治経済のかじ取りを行っている現実であり、それを50冊以上の書物から抜粋・紹介しています。またアメリカ政治のバックグラウンドに暗い我々日本人読者の理解のために副島隆彦氏が解説文を注釈の形で挿入しているところが重宝します。日本語の題は「暴露された新世界秩序」では日本人にインパクトがないので(アメリカを食い尽くした)「国際ユダヤ資本が次に根城にしようと狙っているのは中国だ」という本の結論的な部分から付けられたものだと解ります。この本はある種の陰謀論を暴露した本とも言えるのですが、アメリカの様な超大国が、民衆による民衆のための政治をてきぱきと行えるはずがなく、誰かさんが書いた筋書きをあたかも民主主義的に決められたような劇場型政治に上手に持って行っているのだということを説明した本とも言えます。問題なのは優れたリーダーが国民全体の幸福のために筋書きを書いているのではない点で、だからこそ筋書きが決められる過程が隠されている、また隠されていることを国民が知りたがらないようにパンとサーカスを与えてごまかしていることにあるでしょう。

日本は幸いにして世界を征服している国ではないので、日本の政治経済の筋書きを裏で書いている人も所詮誰かの使い走りでしかなく、日本人の中に支配者と被支配者がいるわけではないのが救いですが、アメリカや世界の政治経済のレベルでは支配者と被支配者が存在するのだなということが良く解ります。解った所で自分が支配者の側に廻りたいとも思いませんが、このような状態を理解した上で世の中の動きを見て初めて21世紀の波乱の世界情勢の中を日本が生き抜いてゆく知恵が生まれるのではないかと愚考する次第です。

オバマ=クリントン政権は間違いなく中国重視の政権であり、アジアにおけるアメリカの存在が縮小する一方で中国が覇権を拡大することは明らかです。中国の経済発展と軍事的覇権拡大を容認する国務省がある一方でアメリカの覇権を維持したい国防総省は中国の覇権拡大には反対であり、日本に一層の軍事的パートナーシップの増大を期待してくるでしょう。国際ユダヤ財閥としてはここで日中に一戦交えてもらって一儲けしたい所でもあるでしょう。副島氏はその筋書きが見えているからこそ「アジア人同士戦わず」とのスローガンを掲げているのであり、天木直人氏が憲法9条を擁護するのも同じ危惧を抱いているからと考えます。

中国人が中華思想を刺激されて日本に対して覇権拡大の欲望を露にしてくることは大いにあり得ます。現在の日本の外交姿勢を考えると日華事変の前のように散々挑発した揚げ句に島の一つや二つ占領しにかかるかも知れません。日本に求められるのは、隠忍自重の揚げ句に結局挑発を正面から受けて立つような「狙い通りのうすらバカ」ぶりを発揮するのではなく、中国に挑発させる隙を与えないよう守りを厳重にしつつ、そのような意図を諦めさせることが大事だろうと考えます。簡単には日本と戦えないぞという姿勢を示すことも大事ですし、日本とは戦争するより経済その他で協力関係でいた方が得だと思わせることも大事だと考えます。

主題が逸れましたが、この2冊、隆盛を誇ったアメリカがなぜ現在のようになったのかを理解するには必読の書かもしれないと思います。

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