Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

島耕作からマル経を学ぶ

2009-03-01 23:57:34 | Weblog
本屋の街にいる特権として,一日に最低一度は本屋に行く。そこはぼくにとって世界のすべてといってもよいぐらい,情報に満ちている。今日は「クルマ」分析の中間仕上げと什器設置のため大学に行くが,当然本屋を徘徊する。そして出会ったのが,弘兼憲史著『知識ゼロからのマルクス経済学入門』。しかも出版社は幻冬舍。ぼくにはかなり意外な組み合わせに感じられた。

知識ゼロからのマルクス経済学入門
弘兼 憲史
幻冬舎

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本書の狂言回しは島耕作だ。実際の漫画に使われたシーンがセリフを変えて挿入される。それがなかなか面白い。終わり近くになって,島耕作は天を仰いで「社会主義社会は訪れるのだろうか・・・」とつぶやいている。さらにページをめくると「労働者自ら立ち上がらないと何も変わらない」という島耕作がいる。おいおい,リストラや M&A を敢行する社長・島耕作はどこにいったのか?

社長島耕作 2 (2) (モーニングKC)
弘兼 憲史
講談社

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『社長・島耕作』最新巻に,島が共産主義もケインズ経済学も現代には通用しないと述べるシーンがある。ケインズ経済学? ではマルクス経済学は? 登場するキャタクターが同じだからといって,2つの異なる出版企画を一緒くたにするのは馬鹿げているかもしれない。しかし,島耕作の頭にある経済学がマル経であると考えてみることは,なかなか面白い思考実験のように思う。

団塊の世代である島耕作が大学生であった頃,マルクス経済学はいまと比べものにならないほどパワーがあったから,ノンポリの島でさえ影響を受けていても不思議ではない。そして,マルクス経済学が企業戦士にとってありがたいのは,派遣労働者を解雇し,従業員の労働強化を強いたとしても,それは自分が強欲なせいでなく,資本主義経済の必然として説明できるからかもしれない。

・・・てなことはともかく,いまマルクス経済学を学ぶべきかどうか。学生時代,宇野弘蔵『経済原論』を授業の教科書として読んだものの,肝心の『資本論』はまだ読んでいない。辻村江太郎氏が,経済学者として名をなしてから初めて『資本論』を読み,彼なりの解釈を雑誌に連載したことを思い出す。初めて読むなんていわないほうがよいと,同僚に忠告されたということも書いてあった。

いま19世紀の大学者の本を読むとしたら,ダーウィンが最優先で,次をフロイドとマルクスのどちらにするかで悩むことになるだろう。マーケティングでは消費が最も重要な現象で,そこでは個人の選択行動が無視できないので,マルクス経済学の使い道を見つけるのは難しそうだ。むしろ,マルクス経済学が知的消費の対象になるような,現代社会の消費行動を研究するほうが面白そうだ。