日本の急速な人口減がどんな事態をもたらすかは、すでにあちこちで語られている。多くの場合、その結果は深刻であるという結論に導かれる。しかし、人口減だけで日本人の生活が悲惨になるというは短絡的だと、昨年出版された吉川洋氏の『人口と日本経済』は主張している。
経済成長率は、長期的には労働力人口の伸び率と労働生産性の伸び率の和で決まる。人口が減少しても労働生産性がそれ以上に上昇すれば問題はない。高度経済成長期の日本では、労働力人口は微増したに過ぎず、労働生産性が大きく増加していたことを著者は指摘する。
生産性を上昇させるのは技術進歩、イノベーションである。イノベーションさえ活発であれば、人口減少は怖くない。それが本書の基本メッセージであろう。まさにその通りだと思う。そこで関心は、どうやったらイノベーションを活発化させ、労働生産性を高めるかに移る。
これからの日本経済を飛躍させるイノベーションはプロダクト・イノベーションであり、需要側を無視できない。しかし、医療・社会保障に関する将来不安が消費を抑制していると著者は述べる。これもその通りだと思うが、消費を抑制させるのはそれだけなのだろうか。
需要が飽和したという説もある。著者によれば、経済学に古くからある考え方だという。実証研究によれば、製品カテゴリーの需要はロジスティック曲線に従い、その限りでは飽和説が成り立つ。しかし、イノベーションによって新たな成長が生じるなら、飽和は生じない。
著者は最後に、日本企業において貯蓄性向が高まり、果敢に投資を行うアニマル・スピリットが低下している現状に警鐘を鳴らす。確かにそれではどうしようもない。経済政策として有効なのはさらなる金融緩和なのか、規制緩和なのか、それとも何らかの産業政策か・・・。
企業側からすれば、全般的に消費需要が伸びるという展望を持てず、個別の需要はきわめて選択的なので高いリスクを感じてしまう。ではどうすべきかは、マーケティング研究者もまた取り組むべき課題だろう。自分としても、次の「大」研究課題にしたいぐらいである。
本書は統計データを用いて手堅く分析する一方で、マルサス、リカード、ミル、マルクス、ヴィクセル、ミュルダール、ケインズといった経済学の巨人・・・最近ではディートンらを参照し、人口と成長の問題がどう論じられてきたかを概観する。読書量の幅に驚かされる。
新書なのでページ数は適量、文章も読みやすく、年始にあたり日本の将来を考えるのにオススメの本だ。古典から最新のデータまでをバランス良く取り上げたこんな本を、いつか書いてみたいなと、身の程知らずにも思ってしまった。
人口と日本経済 - 長寿、イノベーション、経済成長 (中公新書) | |
吉川洋 | |
中央公論新社 |
経済成長率は、長期的には労働力人口の伸び率と労働生産性の伸び率の和で決まる。人口が減少しても労働生産性がそれ以上に上昇すれば問題はない。高度経済成長期の日本では、労働力人口は微増したに過ぎず、労働生産性が大きく増加していたことを著者は指摘する。
生産性を上昇させるのは技術進歩、イノベーションである。イノベーションさえ活発であれば、人口減少は怖くない。それが本書の基本メッセージであろう。まさにその通りだと思う。そこで関心は、どうやったらイノベーションを活発化させ、労働生産性を高めるかに移る。
これからの日本経済を飛躍させるイノベーションはプロダクト・イノベーションであり、需要側を無視できない。しかし、医療・社会保障に関する将来不安が消費を抑制していると著者は述べる。これもその通りだと思うが、消費を抑制させるのはそれだけなのだろうか。
需要が飽和したという説もある。著者によれば、経済学に古くからある考え方だという。実証研究によれば、製品カテゴリーの需要はロジスティック曲線に従い、その限りでは飽和説が成り立つ。しかし、イノベーションによって新たな成長が生じるなら、飽和は生じない。
著者は最後に、日本企業において貯蓄性向が高まり、果敢に投資を行うアニマル・スピリットが低下している現状に警鐘を鳴らす。確かにそれではどうしようもない。経済政策として有効なのはさらなる金融緩和なのか、規制緩和なのか、それとも何らかの産業政策か・・・。
企業側からすれば、全般的に消費需要が伸びるという展望を持てず、個別の需要はきわめて選択的なので高いリスクを感じてしまう。ではどうすべきかは、マーケティング研究者もまた取り組むべき課題だろう。自分としても、次の「大」研究課題にしたいぐらいである。
本書は統計データを用いて手堅く分析する一方で、マルサス、リカード、ミル、マルクス、ヴィクセル、ミュルダール、ケインズといった経済学の巨人・・・最近ではディートンらを参照し、人口と成長の問題がどう論じられてきたかを概観する。読書量の幅に驚かされる。
新書なのでページ数は適量、文章も読みやすく、年始にあたり日本の将来を考えるのにオススメの本だ。古典から最新のデータまでをバランス良く取り上げたこんな本を、いつか書いてみたいなと、身の程知らずにも思ってしまった。