Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

Matlabによるマクロ経済モデル入門

2011-12-19 16:08:03 | Weblog
Matlab はデータ解析やシミュレーションはもちろんが,データの加工を行うのにも大変便利なので重宝してきた。コマンドを書いて計算を行うという点では,フリーの統計ソフト R でもいいが,計算速度は Matlab のほうが早いと聞いたことがある(実際に比較したことはない)。

Matlab とほぼ同じ文法・機能の Octave というフリーソフトがあるようで,学生にはそちらがいいかもしれない。ただ,Matlab のエディタはなかなか賢く,ありがちな文法ミスを即座に指摘してくれる。マルチコア CPU を生かした並列計算のオプションがあるのもありがたい。

最近,経済学でもモデルが複雑になるにつれシミュレーションが行われるようになり,Matlab が使われるようになった。そこで日本語で書かれた教科書として登場したのが以下の本である。Matlab の教科書は理工系の学問を対象にしたものばかりなので大変喜ばしいことだ。

Matlabによるマクロ経済モデル入門
小黒一正,島澤諭
日本評論社

ただし,本書は最近マクロ経済学で使われる世代重複モデルへの応用が主題になっている。このモデルは長期に及ぶ経済主体の最適化行動や一般均衡を仮定しているという点で,経済を複雑適応系として捉え,エージェントベース・モデルを使うという,ぼくが好む立場とは一致しない。

どうせシミュレーションで解を求めるのであれば,世代重複モデルが仮定する強い合理性の仮定や均衡論的枠組みを緩めてはどうか・・・などと門外漢ながら考えてしまう(すでになされているかもしれない)。いずれにしろマーケティングでは何世代にもわたる現象を考えることはあまりない。

では本書は,マクロ経済学とは異なる立場で Matlab を使おうとする社会科学の研究者にとって役に立たないのか?そうとはいえない。他人のコードを読むことで Matlab のコマンドについて学ぶ効用は意外に大きい。少なくとも電気工学分野のコードを眺めるよりはずっとよい。

なお,マーケティング・サイエンスでデータ解析を行う場合,Matlab を使うことも一つの選択肢である。特に MCMC のようなシミュレーションによるデータ解析を行う場合にはそうである。そのためのツールボックスが計量経済学者によって用意されている。これも大変ありがたい。