Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

日本商業学会関東部会@青山学院大学

2011-12-18 11:00:48 | Weblog
昨日は青山学院大学(南青山)で開かれた日本商業学会関東部会(全国研究報告会)に参加。もたもたしていて午前中の「日本商業学会と国際化」セッション等には間に合わず,午後から行われた「マーケティング戦略」のセッションを拝聴した。そこでは次の3つの報告があった:

「マーケティング戦略研究の進化と展望」
  恩蔵 直人(早稲田大学)
「サービスマーケティングのクロスボーダー化」
  小野 譲司(青山学院大学)
「マーケティング戦略における組織と資源の再検討」
  高嶋 克義(神戸大学)

発表順とは違うが,まず小野先生の報告について。サービス・サイエンスのような工学でのサービス研究の興隆を踏まえつつ,サービス・マーケティングの研究の流れをレビュー。その背後には膨大な文献レビューがあり,半端ではない密度があった(近々『流通研究』に投稿されるとのこと)。

小野先生によれば,サービス・マーケティング研究の最新動向は「サービス・エンカウンター」と「サービス・リレーションシップ」に大別される。前者では心理的側面が,後者では行動や成果の側面が重視される。そしていずれの領域でも,研究のフロンティアは動態的な側面に広がりつつある。

個人的に特に興味深かったのは,これらの研究の背後に心理学や消費者行動研究における「感情予測」等の研究のがあるということだ。ぼくのライフワークである(はずの)「選好形成」と深く関連するので非常に興奮を覚えた(必読論文リストがますます厚くなっていく・・・)。

それに先立つ恩蔵先生の報告では,日本で刊行されたマーケティング戦略に関する主要な専門書,コトラーの『マーケティング・マネジメント』(邦訳)の目次,Journal of Marketing に掲載された論文を振り返り,マーケティング戦略の「パラダイム」の大きな流れが概括された。

それによればマーケティングに「戦略」概念が導入されたのは70年代後半(コトラー第3版),本格的には80年代のことである。90年代に嶋口充輝氏が「戦争から恋愛へ」,コトラーが「ハンティングからガーデニングへ」というパラダイム転換を唱える。同時に関係性や協働が重視され始める。

そして現在では価値共創という概念が唱えられている。こうした流れはマーケティング・サイエンスにとっても無縁ではなかった。CRM の手法の精緻化が進み,ラストを筆頭にサービスのモデル研究もなされてきた。価値共創についても濱岡豊さんなどが精力的に研究している。

しかしながら,たとえば CRM の計量モデルに小野さんの指摘する豊かな人間的要素を導入する気配はさほど感じられない(せいぜいプロスペクト理論を導入するぐらいだ)。もちろん,大きなギャップがあるのであれば,自分がそれを埋めることを考えればいいわけである・・・。

恩蔵先生がマーケティング戦略に関する主要文献として最後に挙げた本は少し意外であった。それは,HBR のマッキンゼー賞を受賞した著者によるビジネスモデルに関する文献だ。これも購入済みだが未読の本の一冊・・・。同様の『コトラーのマーケティング3.0』とともに冬休みの宿題である。
 
ホワイトスペース戦略
ビジネスモデルの<空白>をねらえ
マーク・ジョンソン
阪急コミュニケーションズ

コトラーのマーケティング3.0
ソーシャル・メディア時代の新法則
フィリップ・コトラー
朝日新聞出版