Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

勝利の統計学~科学は負け犬のために

2011-10-08 08:58:35 | Weblog
野球にデータ解析を持ち込んだセイバーメトリクス。このドキュメンタリーでは,その考え方がイメージ映像や CG を使ってわかりやすく描かれる。セイバーメトリクスの創始者であるビル・ジェームズを軸にしながら,この手法を支持する GM,監督,選手(マイク・ピアザ!)が登場する。

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データを野球に持ち込むことは19世紀から行われてきたという。確かに野球は数字で溢れている。セイバーメトリクスが革新的なのは,既存の指標の有用性を疑い,独自の指標を提案したことだ。手の込んだ料理の方法を考える前に,素材の価値を問い直したわけである。

次に重要なのは,条件付確率を求め,それらを組み合わせて一定の推論を行うことである。たとえば,ノーアウト1塁の場面で送りバントをするは1つの典型的な戦術だが,それは得点の期待値を高めるのか。盗塁は MLB では成功率7割だが,それに挑む価値は本当にあるのかが検討される。

推論はいくつかの仮定に基づく。あまりに高次の交互作用は考慮されない。だから完全ではないが,平均的に勝率を高めればよい。一試合ごとの勝ち負けでなく,シーズン全体を通してしっかり勝っていることを重視する立場である(試合ごとの勝ち負けに一喜一憂しない落合監督の姿が目に浮かぶ・・・)。

セイバーメトリクスの次の目標は守備に向かっているという。難しいのは,データの入力にある程度専門性のある人間の評定が必要となることだ。それは通常のスコアブックを超えているから,データ収集には新たな費用が発生する。それを上回る価値が得られるという見込みがあるのだろう。

米国の野球ビジネスは進化していくが,翻って日本はどうなのか。素人目には,根拠のない「経験則」に基づく采配や選手の登用がたびたび行われているように見える。弱いチームこそ革新を起こすべきだが,その気配はない。なぜなら負けても負けても,生き残ることができるからだ。

最後は愚痴になってしまったが,野球だけでなく,世界のかなりの部分が誤った因習的知識で支配されているとしたら,データ解析やシミュレーションが活躍する場が相当あるということだ。重要なことは,どこにそうした機会が眠っているかを見いだすセンスだろう。そこでは直感が役割を果たす。

なお,このドキュメンタリーには『マネー・ボール』の主人公,ビリー・ビーンがちらっとだけ登場する。