ブラッド・ピット主演で 11 月に公開される映画「マネー・ボール」。その原作はすで翻訳され,多くの人々に読まれてきた。まだ読んでいない人がいたら,野球ファンであればもちろん,そうでなくても強くお奨めしたい。本書はイノベーションの傑出したケースを提供している。
主人公はMLBのオークランド・アスレチックスを低予算で強いチームに変えたGMビリー・ビーン。彼はデータを徹底的に分析して,他チームから低評価を受けている選手を安い値段で獲得する。また盗塁や送りバントを嫌い,四球を含めた出塁率の高さを評価するなど独自の戦術を採る。
だが,それはプロ野球の現場で長く信じられてきたことと真っ向から対立する。強烈なリーダーシップがないと実行できない。選手たちは安く買われるだけでなく高く売られる。あたかも金融商品のように取引される。そして,選手の価値を正しく判断できない他チームが搾取される。
原書は(訳書も)2003年に出版されたが,ビリー・ビーンはいまでもアスレチックスのGMである。ウィキペディアによれば,盗塁や送りバントを嫌うといった戦術には変化が見られるという。データに基づく「客観的知識」によって戦術を立てるのだから,そうした進化があるのは当然だろう。
従来の常識を覆し,低コストで常勝チームを作り上げたことは,紛れもないイノベーションだ。何十年も野球に携わってきたプロたちが,必ずしも選手の潜在的な力を正しく評価しているわけではない。そうした情報の格差を利用してアスレチックスは富を生み出す。非効率性が搾取されるのである。
経済学者なら,そのような情報格差はたちどころになくなると考える。確かにデータの活用(セイバーメトリックス)は他チームにも広がっている。だが,依然として伝統的な考え方も強い。すべてデータで説明されるわけではなく,偶然の関与も大きいから,様々な見方が残存しがちなわけである。
データを人一倍虚心に眺め,深く分析することで情報格差を生み出す。それを利用して安く買って高く売る。それができる領域は,プロ野球以外にも数多く存在するのではないか。道端におカネを落としてもたちどころに拾われるから,現実には落ちているはずがないと最初から仮定すべきではない。
最後に日本のプロ野球について。カネに飽かして有名選手を採りまくるヤンキーズ型のチームには,マネー・ボール的なイノベーションは必要ない。カネのない球団こそデータを駆使し,知恵を絞って効率的な経営を目指す意味がある。その筆頭にあがるのは,何といっても広島カープだろう。
広島カープは親会社がなく,広告費による補填がない唯一の球団だ。低収入のもとでの独立採算制。そこに和製ビリー・ビーンがいたら,20 年近く優勝から遠ざかり,15 年近く B クラスを続けることはなかっただろう。だがまだ遅くはない。貧乏球団こそクリエイティブな物語を紡ぎ出す資格がある。
![]() | マネー・ボール (RHブックス・プラス) |
マイケル・ルイス (中山宥・訳) | |
武田ランダムハウスジャパン |
主人公はMLBのオークランド・アスレチックスを低予算で強いチームに変えたGMビリー・ビーン。彼はデータを徹底的に分析して,他チームから低評価を受けている選手を安い値段で獲得する。また盗塁や送りバントを嫌い,四球を含めた出塁率の高さを評価するなど独自の戦術を採る。
だが,それはプロ野球の現場で長く信じられてきたことと真っ向から対立する。強烈なリーダーシップがないと実行できない。選手たちは安く買われるだけでなく高く売られる。あたかも金融商品のように取引される。そして,選手の価値を正しく判断できない他チームが搾取される。
原書は(訳書も)2003年に出版されたが,ビリー・ビーンはいまでもアスレチックスのGMである。ウィキペディアによれば,盗塁や送りバントを嫌うといった戦術には変化が見られるという。データに基づく「客観的知識」によって戦術を立てるのだから,そうした進化があるのは当然だろう。
従来の常識を覆し,低コストで常勝チームを作り上げたことは,紛れもないイノベーションだ。何十年も野球に携わってきたプロたちが,必ずしも選手の潜在的な力を正しく評価しているわけではない。そうした情報の格差を利用してアスレチックスは富を生み出す。非効率性が搾取されるのである。
経済学者なら,そのような情報格差はたちどころになくなると考える。確かにデータの活用(セイバーメトリックス)は他チームにも広がっている。だが,依然として伝統的な考え方も強い。すべてデータで説明されるわけではなく,偶然の関与も大きいから,様々な見方が残存しがちなわけである。
データを人一倍虚心に眺め,深く分析することで情報格差を生み出す。それを利用して安く買って高く売る。それができる領域は,プロ野球以外にも数多く存在するのではないか。道端におカネを落としてもたちどころに拾われるから,現実には落ちているはずがないと最初から仮定すべきではない。
最後に日本のプロ野球について。カネに飽かして有名選手を採りまくるヤンキーズ型のチームには,マネー・ボール的なイノベーションは必要ない。カネのない球団こそデータを駆使し,知恵を絞って効率的な経営を目指す意味がある。その筆頭にあがるのは,何といっても広島カープだろう。
広島カープは親会社がなく,広告費による補填がない唯一の球団だ。低収入のもとでの独立採算制。そこに和製ビリー・ビーンがいたら,20 年近く優勝から遠ざかり,15 年近く B クラスを続けることはなかっただろう。だがまだ遅くはない。貧乏球団こそクリエイティブな物語を紡ぎ出す資格がある。
原作が素晴らしいので、やや不安ですが。。。
それでも、この本のメッセージが広く伝わると良いと思います。
それは、makmizさんが仰るように、「カネがないなら知恵を絞る」かと。
ちなみに、経営学は知恵を絞って、新しいこと(イノベーション、クリエイション)をするための学問だと思います(←宣伝(笑))。
仰る2つの事柄(新しいことへのチャレンジ、企業統治)はカープの足を引っ張っていますね(悲)。
経営学の研究者として、そういう点に貢献できれば良いのですが。。。
企業統治は稲水さんにお任せ(?!)するとして、自分は「新しいことへのチャレンジ」≒イノベーション・マネジメントを考え続けたいです。