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あるマーケティング研究者の思考と行動

村上憲郎氏の読書案内は量子力学に及ぶ

2011-03-05 23:49:15 | Weblog
グーグルの副社長,日本法人の社長・名誉会長を歴任された村上憲郎氏による「仕事術」の本。というと IT を駆使して仕事を効率化する方法が書かれた本だと予想してしまうが,そうではない。村上氏が仕事を通じて辿った思索と読書の遍歴が書かれている。その範囲はいわゆるビジネス書を超える。

村上式シンプル仕事術―厳しい時代を生き抜く14の原理原則
村上 憲郎
ダイヤモンド社

第1部では会社の仕組みや簿記など,経営の基本が語られる。最後にデール・カーネギーが出てきたのには少し驚いた。村上氏はことあるごとにカーネギーに教えられ,助けられてきたという。これまで何となく敬遠してきたが,非常に合理的な村上氏が推奨するなら,せひ読んでみようという気になった。

人を動かす 新装版
デール カーネギー,山口 博
創元社

道は開ける 新装版
デール カーネギー,香山 晶
創元社

しかし,本書が本領を発揮するのは第2部からだと思う。村上氏は米国で勤務していたとき,米国人を理解するにはキリスト教の知識が必要だと気づき,勉強を始める。そしてその形而上学に違和感を覚え,原始仏教を学ぶ。これは,当時人工知能の開発に携わっていたことも関係するという。

村上氏は,あらゆる領域について原典ではなく,コンパクトにまとめられた良書を読むことを奨める。グローバル時代に教養としておさえておくべき西洋哲学については,以下の2つの本が推奨される。木田元氏,黒崎政男氏ともに過去に著書を読んだことがあるが,魅力的な哲学者だ。これも読まねば。

反哲学入門 (新潮文庫)
木田 元
新潮社

カント『純粋理性批判』入門 (講談社選書メチエ)
黒崎 政男
講談社

村上氏は,文系の学問のなかで唯一科学的なのは,経済学だと考えている。経済学を学ぶのに,さすがに薄い入門書はないようで,マンキューの教科書が推奨される。もう1冊はハイエクだが,こちらは池田信夫氏による新書サイズの解説書が推奨される。このあたり,村上氏の社会観が窺えて興味深い。

マンキュー経済学セット
N・グレゴリー・マンキュー
東洋経済新報社

ハイエク 知識社会の自由主義 (PHP新書)
池田 信夫
PHP研究所

最後に,村上氏は理系の読者に対して,量子力学を学ぼうと提唱する。そのために量子力学を学ぶという視点に立った数学や解析力学の入門書が紹介され,ついで量子力学,量子コンピュータの参考書が紹介される。一部を書店でチラ見してみたが,やはり自分は理系でないなと痛感する羽目になった。

文系の読者に対しては,村上氏は放送大学の「初歩からの物理学」「物理の考え方」を視聴するとよいという。テキストは不要だと。しかし,ぼくはとりあえず以下のテキストを購入した。量子力学を学びたいからというより,最近交流が増えている経済物理学を理解するうえで必要と思ったからだ。

初歩からの物理学―物理へようこそ
生井澤 寛,鈴木 久男
放送大学教育振興会

物理の考え方
木村 龍治
放送大学教育振興会

ついでにこれも・・・(村上氏が,数学を忘れた理系出身者に奨める再入門書)。

初歩からの数学
岡本 和夫,長岡 亮介
放送大学教育振興会

面白いのが,これらの本を amazon で検索すると,仏教の本が推奨されたことだ。その本は村上氏が推奨していた本であり,かなり多くの人々が,村上氏が推奨する多様な分野の書物を amazon で注文したことを示している。この本は出版市場でかなりのインパクトを持つということだ。

ブッダが考えたこと―これが最初の仏教だ
宮元 啓一
春秋社