Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

2010年の「研究」を振り返る

2010-12-30 23:58:55 | Weblog
その年の研究成果を振り返るといつも暗澹たる気分になる。だが,それでも総括しておかないと進歩はない。今年を振り返ると,どん底の時期を脱しているのではないかと思うが,どうだろう?今年の4月1日に研究の進行状況について記したので,そこを基準にレビューしてみよう。一昨年学会発表した

1)クルマの過剰(過小)装備に関するデータ分析
2)消費者の「予測能力」のフィールド実験
3)新製品の普及と情報伝播のエージェントモデル
4)選択におけるトレードオフ回避の統制実験

のうち,3はなんとか査読付き論文として採択された(はずである)。来年4月ぐらいには刊行されるのではないかと楽観しているのだが,どうだろう・・・。研究としてはほぼ完了している1と2は早急に論文化すべきなのだが,既存研究のサーベイ等々がネックになって行き詰まっている。

他にも積み残しが山ほどあるが,このなかで

8)顧客DBを用いたロングテール・ビジネスモデルの研究

は某学会の研究支援を受けることになった。困難はまだ残っているが,来年こそ結果を出さなくてはならない。これに関連して,春に刊行される予定の「社会経済物理学」のハンドブックに,「ロングテール・ビジネスモデル」について概説を執筆した(ただし,自分の研究成果はそこに含めていない)。

9)インサイト獲得に関するクリエイター取材

はようやく脱稿し,某機関のディスカッションペーパーにしようとしたが,資格がないことがわかり方向転換。年明け早々に投稿する予定だ。取材から1年半経っていることを考えると決して自慢できるスピードではないが,他に塩漬けになっている研究と比べるとまだいい。あとは採択されるかどうか・・・。

3については,モデルに負のクチコミを導入する拡張を試みた。ただし実データは用いず,エージェント・シミュレーションのみ行った。 カッセルの WCSS で "The Effects of Valence of Word-of-Mouth and Its Propagation by Non-Adopters on New Product Diffusion" と題する発表をした。

4月1日に「今年着手することになるテーマ」として挙げたのが以下の3つである。

12)アフィリエイト広告の理論的・経験的研究
13)Twitter 上のオピニオン・ダイナミクス
14)コンセプト創造手法の実践的研究

このなかで一定の成果をあげたのが 13 だ。構造計画研究所の新保,高階,田内,城の各氏とともに Twitter を用いた企業の情報発信とクチコミ効果を研究した。その成果は 11月の JIMS で「Twitterによる企業と顧客の対話:企業ツイートのコミュニケーション効果分析」と題して発表された。

そうした研究に取り組むことになったおかげで,『大ヒットの方程式』を著した鳥取大学の石井晃先生やデジタルハリウッド大学の吉田就彦先生たちと,ソーシャルメディア研究の相互交流を盛り上げる方向で話が進んでいる。そこから,社会的に意義のある研究を生み出せないかと考えるようになった。

なお,具体的な研究成果とは別に,今年大きな研究上の刺激になったのは,CALTEC の下條信輔先生と何回かお話しする機会を得たことだろう。それを生かし得るような自分の研究はいまのところカケラもないが,本来の自分の関心事はそこにあることを再確認した。これは来年以降,大きな課題になる。