Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

ネットワーク+影響=社会動学

2010-12-29 23:58:16 | Weblog
今年読んだなかで最も面白かった本・・・について語ることは,本来それなりの読書家にしか許されない行為である。そして,今年といっても最近読んだ本のほうが印象に残りやすいというバイアスもまた認めざるを得ない。と,前置きをしたうえで『つながり 社会的ネットワークの驚くべき力』を今年読んだなかで最も面白い本の(少なくとも)1冊にあげたい。

著者の Christakis はハーバードの医学研究者,Fowler は UC サンディエゴの政治学者,一見奇妙な組み合わせに見えるこの2人は,これまで数々の興味深い共同研究を行ってきた。その成果の集大成が本書である。彼らが取り組むテーマは,題名から分かるように社会ネットワークである。ただし,単なる交友や情報伝播の関係にとどまらず,影響関係に注目する。

冒頭にまず驚かされるのは,知人のネットワークには有名な「6次の隔たり」があることが知られているが,影響は「3次のつながり」までしか及ばないという言明である。そして,次々と興味深い影響関係が示されていく。幸福感,肥満,喫煙,飲酒・・・など人間の感情や生活のさまざまな面に,社会ネットワークを通じた影響の伝播が発見されているのだ。

つながり
社会的ネットワークの驚くべき力
ニコラス・A・クリスタキス,
ジェイムズ・H・ファウラー
講談社

ネタとして面白いのが,高校での性的関係についての分析である。なぜそんなデータが得られたかというと,ある学校で性感染症が流行り,感染経路を突き止める必要があったからである。どういう男女が性的関係を結びやすい(にくい)か,人種によってどう違うか,そこにどういう「構造」が生まれるか・・・これ以上は本書を読んでの「お楽しみ」ということで。

分析対象は経済活動,そして政治活動にも及んでいく。さらにネットワークを形成するメカニズムを探るため,行動ゲーム理論の実験,協力行動の遺伝的基礎などの研究が紹介される。著者はこれらの分野の研究でもさまざまな成果をあげている。すでに多くの「社会ネットワーク」関係の文献を読んできた読者にとって,新たな刺激を得られることは間違いない。

本書では,消費者行動やマーケティングに関する話題はそれほど多く登場しない。だが,マーケターにとって得られるインスピレーションはきわめて大きい。したがって改めて読み直し,そのメッセージを反芻すべき本だと思う。そして,社会ネットワーク上での影響伝播をいかに推定しているかの手続きを知るために,元になった論文に目を通す必要がある。