Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

JWEIN@大岡山,S&RM@日本橋

2008-08-30 23:26:38 | Weblog
今日は東工大・大岡山キャンパスで開かれた JWEIN を聴講する。2日目の今日は,午前中が社会ネットワーク関係の研究発表,午後は招待講演。諏訪正樹氏の「スキル・サイエンス」は,身体での経験を言語化することでメタ認知を得るという議論。ご自身あるいは学生がスポーツのトレーニングを積みながらメタ認知を記録していく。そういう研究もあるのかと,ただ感心して聞くのみ。

池田謙一氏は,コミュニケーション=説得という従来の研究に疑問を呈し,むしろ知識の共有という面を強調する。そして,ロジャーズの普及理論やバートの構造的空隙理論,パットナムの社会関係資本の話に触れつつ,ご自身の研究成果を紹介。ただし,今回の参加者が最も聞きたかったであろう複雑ネットワーク上でのエージェント・シミュレーションの話には,ほとんど時間が残されていなかった。

最後は中垣俊之氏による,粘菌にはネットワークの最短路問題を解く力があるという報告。そのことを実験で確かめたあと,数理モデルによる説明を行う。あるいは,粘菌は周期的な刺激に対する学習能力もあるという。最も単純な生命に宿る,ある種の知性。あとのパネル・ディスカッションでも話題になったが,知性とは連続体であり,程度問題なのかもしれない。

昨日は,日本橋のS&RM研究会。ホットリンクの内山社長が,レコメンデーションやクチコミ・マーケティングについて講演。レコメンデーションのポイントは「気が利く」ことだと指摘,単純なランキングや過去の閲覧のリマインドから高度な技法までが適切にミックスされた事例が紹介される。ブログをベースにしたクチコミ・データのほうは観測が始まったばかりで,どう活用するかは今後が楽しみという印象。

二次会では,ブログの記述の質を問う声もあった。確かに個々人は気まぐれで記事を書いているし,最近はスパムが多い。そのクリーニングには,おそらく限界がある。だが,こうしたデータはミクロにはゴミだらけでも,集計すると実世界の動きの代理変数になるってことがあると思う。Godes and Mayzlin 2004 が示したように。同じことは,アンケート調査についてもいえる。

それは「大数の法則」なのか,それとは別の「集合知」みたいなものなのか,知の創発などというほど大げさなものではないが,「チリも積もれば…」ってことが何かあるように思う。それはもしかすると,分析者にすでにある知識と相互作用することで,暗黙の仮説候補が絞られる,ということかもしれない。だから事後的には「前からわかっていた」感覚になることもあると。

そう考えると,今日の JWEIN のパネルディスカッションで問われていた「創発」「知能」「ネットワーク」の三大噺とも関係するかな… ちょっと無理があるかも。明日からまた,研究室の大整理を。